女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

152話 エリフォラの事情



 とりあえず俺達はギルドに戻り、魔物の素材を渡した。


「金貨2枚と銀貨3枚、23000円ですね」


 今度の受付はオッサンではなく犬の獣人族の女性だ。つまり俺達の素性を知らない。
 リグがお金を受け取ると、指を1本立てた。


「そういや、西の森にでっけぇドラゴンの死体があった。俺達4人全員で見たから絶対だ」
「ド、ドラゴン……ですか? 魔王様のドラゴン以外にもいたんですね……。あっ、貴重な情報提供ありがとうございます。もしドラゴンが見つかれば後日報酬を差し上げます」


 どうやらエリフォラが倒したというのは隠すらしい。まあ言っても信じられないだろうし、金が貰えるならそれで良いが。


 俺達はギルドでする事を終え、すぐ家に帰った。
 理由は勿論、エリフォラについてサタナから聞かなければならないからだ。


「あら、早かったのね」
「ん〜とりあえずお母さんとお父さんも聞いた方がいい」
「何か話でもあるの?」
「ここ座って」


 家に帰ってきて、俺はミリスとバルジも話を聞くように座らせた。
 サタナはエリフォラの横に座って、じっとエリフォラを見つめていた。


「さて、サタナ。話してくれ」


 リグがそう言うと、サタナは少し笑いながら喋り始めた。


「エリフォラはね、一つの身体に二つの魂を宿してる。つまり、人格を2つ持ってるって事」


 人格を二つ。だからあの時急変したのか。そしてエリフォラ本人は、もう一つの人格が動いている時の記憶は無い。


「……なぁエリフォラちゃん、小さい頃の記憶って覚えてる?」
「どうしてですか?」


 人格をもう一つ持つ、という事は自己防衛でもある。本人の代わりに嫌なことを受けたりと、エリフォラを守る為に人格は生まれる。
 つまり、エリフォラは人格が生まれてしまうような大剣を過去にしている。覚えているかどうかは分からないがな……。


「両親は……いないのか?」
「…………話さなければなりませんか……?」
「あ、いや。辛いなら話さなくていいんだ……ただ、少し力になれないかと思って」


 エリフォラは、怯えるような表情を見せた。あまり過去について触れない方が良さそうだな。


「とりあえず、エリフォラがもう一人の人格を持っている事は分かった。後はそれをどうするかが問題だ」


 改めてサタナを見る。


「エリフォラちゃん、ちょっと無理矢理人格を呼ぶからキツい思いをするけど、良いかな?」
「……はい。それで私の中にいる方が話せるのなら、お願いします」


 サタナがエリフォラの胸に手を当てた。怒ろうかと思ったが、人格を呼び出す為にはそこに触れなければならないのだろうと思い、その場に留まった。


「ぐっ…………う……」
「深呼吸しなからでいいよ」
「すぅ〜……んっ……ふぅ……」


 かなりキツそうだ。今、エリフォラは何を感じているのだろうか。


──ガタッ


 突然、エリフォラが気を失って前に座っていたサタナに倒れ込んだ。


「エリフォラさんは大丈夫なんでしょうね?」
「生きてるのか?」
「お母さんもお父さんも心配しすぎ」


 しばらく待っていると、エリフォラの身体がピクリと動き始めた。
 そしてゆっくりと、サタナの身体から離れて周りを見渡す。


「俺を呼んだのはお前か」


 自らを俺、という事はこの人格は男性のようだ。


「僕が君を呼ん──」


 次の瞬間、サタナの身体は庭へと続く窓を割って外へと飛んだ。


「なっ!?」


 殴られたのだ。


「クロア動くな。コイツは下手したらクラウディアより強いんだ。刺激しない方が良い」
「くっ……」


 飛ばされたサタナの方に、エリフォラの身体の男が歩いていった。


「……ほう、生きてるとはな」
「あはは……この身体は頑丈に出来てるかはっっ!!」


 サタナの腹に蹴りを入れた。


「ら、乱暴は良くないよ。僕達はエリフォラを助ける為に君呼んだんだ。同じ目的さ」
「俺はエリフォラに気づかれるような存在じゃなくていい。お前達が手を出す問題じゃない」
「とりあえず、あっちでお話しよう?」
「チッ……めんどくせぇ」


 サタナの顔はかなり腫れていて、お腹を抑えながらもゆっくりとリビングに戻って椅子に座った。


「大丈夫か……?」
「う、う〜ん……大丈夫かと言われたら大丈夫じゃない。いつもならすぐに傷が治るんだけどね……あはは。痛くて泣きそうだよ」


 珍しくサタナが追い込まれている。ドMなのに、かなり苦しそうな表情だ。


「傷が治らないのは当たり前だ。俺は死神べナード」
「し、死神さんかぁ……僕生きてるって凄いや」


 死神べナード……かなり乱暴な性格だが、話せば通じるだろうか。


「そ、その……べナードさんは……」
「べナードでいい」
「べナードは死神なのに……エリフォラを守ってるのか?」
「死神だからって守るもんがあっちゃ悪いか?」
「あっ…………いや、無いです」


 エリフォラの姿だというのに、睨まれると怖い。いままでに感じたことの無い恐怖に、俺は上手く話すことができなかった。


「べナードとエリフォラが合わさったキッカケってのは……何なんだ?」


 リグが聞いた。


「この身体はな、後9年の寿命なんだ」
「寿命……」


 それを聞いた瞬間、俺は頭が真っ白になった。

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