女嫌いの俺が女に転生した件。
138話 エリフォラと銭湯
「魔王様、お客様、お食事の用意が出来ました」
「クロアちゃん、行きましょう」
食事か。きっと城の食べ物だから豪華なんだろうな。
エリフォラの後ろについて、しばらく廊下を進んだところの扉に入った。
中には、横長のテーブルと沢山の椅子が並んでおり、テーブルの上に色んな料理が置いてある。
エリフォラの席は一番奥にある最も大きい椅子だろう。
どこに座ればいいのか分からない俺は、とりあえずエリフォラの後ろについていった。
「クロアちゃんはここに座ってください」
「えっ……?」
そう言われたのは、最も大きい椅子の前だった。
この席は一番偉い人が座る場所であって、俺が座る理由なんて何も無い。
「では一緒に座りましょうか?」
「い、いや……私がここに?」
「はい。私は横に椅子を持ってきて座ります」
改めて聞き返したが、当然かのように言葉を返された。他の席に座っている、多分重要人物達が俺をずっと見ている。
マズい。エリフォラの言う事を聞かないと嫌われそうだ。
「わ、分かった……」
俺が大きな椅子に座ると、エリフォラはスキップしながら普通サイズの椅子を持ってきて、俺の横に座った。
「……あれ? これって、お米?」
ふと料理を見ると、見慣れた白い粒があった。他にも美味しそうな野菜や味噌汁なども。
「はい。この国は農業を集中的に発展させてるんです。こうして食べてもらえることで、この子達も喜んでますよ」
そういって器の中を覗き込んだ。
どうやらエリフォラは植物や食物に感情移入してしまうらしい。
「では! 皆さん、今日も国民の皆様が作ってくれた料理に感謝を込めて残さずに! いただきます!」
「「いただきます!」」
お、おぉ、ビックリした。
「いただきます」
食事のマナーなんかは、貴族として育ってきたから十分に備わっている。懐かしい米をしっかり味わった。
ーーーーー
ーーーーー
「ご馳走様でした」
「「ご馳走様でした」」
皆が食べ終わり、静かな食事が終わった。
すぐに執事達が食器を運んでいっている。大変そうだな。
「クロアちゃん、そろそろお風呂に行きましょう」
「おっ…………風呂?」
ーーーーー
そして俺は今、外にある広い温泉に来ていた。勿論城の敷地内。夜の星空を見ながら、全裸のエリフォラの身体を洗ってあげているところだ。
「とてもお上手ですね……」
「そ、そうか」
「いつもはメイドに洗ってもらうよう頼んでいるのですが、今日はクロアちゃん……心まで綺麗になりそうです」
座っているエリフォラは、まるで天国にいるような表情を浮かべていた。
「しっかり目を閉じててくれ」
「はい」
──バシャン
頭からお湯を掛けて、石鹸の泡を落とす。
「プッ! プッ……うぅ口に入ります……」
「口開けてるからだよ」
「さて、今度は私がクロアちゃんの身体を洗ってあげます」
「いやいいよ。風邪ひかれたら困るし、先に湯に浸かってきた」
魔王だから風邪なんて大丈夫だろうとは思うが、冷えてしまうのは良くない。
「いいではないですか。友達同士ですから、さぁさぁ」
「ちょっ……」
後ろから背中を押されて、無理矢理椅子に座らされた。
「まあ! とても鍛えられた筋肉ですね」
「う、うん。一応少しでも身体鍛えないと負けちゃうから」
身体能力半減というハンデを背負っている俺は、少しでも使えるように鍛えないといけない。
「胸も私より大きいですし」
「胸なんて関係ない」
「胸の大きい人は皆そういうんです」
……まあ、そうだな。
しばらくエリフォラに身体を洗ってもらっていると、女用と男用に分けられている高い柵の向こう側から音がした。
「エリフォラちゃん……」
「? あ、はい。分かりました」
この時間は魔王だけしか入れない、と銭湯の外に書いてあった。つまりは魔物だ。
エリフォラになるべく静かに洗ってもらいながら、俺は柵の向こう側の気配を常に警戒した。
全身の泡が取れて、俺とエリフォラは静かに湯に浸かった。
「魔物……でしょうか」
「多分な。いつ襲ってきても大丈夫なように警戒はしてお──」
その時だった。仕切っている柵がこちら側に倒れてきた。
俺はすぐ立ち上がり、戦闘態勢を取る。
「うわぁっ!?」
しかし、どうやら柵の向こう側に居たのは魔物ではなく男の子だったようだ。
明らかに柵に登って覗きに来ようとしていた途中、柵が倒れてしまいそのまま女湯に来てしまったという訳か。
「あの服は……民間人ですね」
「ご、ごめんなさい!!」
「待てっ!!」
逃げようとした少年を、俺は咄嗟の転移で捕まえていた。
未だにどうやって転移したのか分からない。
「う……あ……」
腕を掴まれた少年は、全裸の俺をマジマジと見た後に鼻血を垂らして気絶した。こいつ……城に不法侵入した上に魔王の裸を覗きにくるとは……。
「エリフォラちゃん。どう罰する?」
「罰するなんて酷いことはしませんよ。後でお城のメイドにでもお説教させます」
エリフォラちゃんは優しいなぁ。
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