女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

117話 始まり始まり



 次の日の朝。まだ皆が寝ている時に、昨日貰った指輪を眺めていた。


 銀色に輝く指輪はとても綺麗で、俺の顔が反射している。小さなダイヤのような物が埋め込まれていて、その、ダイヤは見る覚悟によって輝き方を変える。


「クロア……起きたか」


 隣に寝ているリグを起こしてしまったようだ。


「寝てていいよ」
「いや、そろそろ起きようと思う。指輪気に入ってくれたか?」
「ああ。ありがとな」


 リグには色んな物を貰ったな。この指輪もペンダントも、幸せも。


「今度お返ししなきゃなぁ……」
「お返しなんていらない。クロアは俺の愛を受け止め続けるだけでいいんだ」


 リグが寝ぼけてるせいか、変なことを言い出した。


「クロアの事を、言葉通り世界一愛している。どんな世界に生まれようと、俺はお前を…愛……」


 寝た。
 どうやらまだ眠かったようで、俺の手を握りながら寝ている。


 ベリアストロとソファの方を見るが、まだ二人とも寝ているようなので、俺も寝ることにした。
 お腹の中でよく動いている子供も、今は静かだ。


「おやすみ」


 リグの顔にキスをして、眠った。


ーーーーー


ーーーーー


 ベリアストロに出産予定日と言われていた日数が経ち。ついに陣痛がやってきた。


 朝からあまりの痛さに、声が抑えきれない。


「あ゛あぁぁぁっっ!」
「大丈夫だからな! 深呼吸しろ!」


ーーーーー


ーーーーー


 クロアが苦しんでいる。俺の手を強く握り、必死に耐えている。
 ベリアストロがクロアに魔法を使っていて、ソフィは苦しむクロアの様子を隣のベッドから見て、不安そうな表情を浮かべている。


 クラウディアはすぐに駆けつけて、俺達を部屋の隅で見守っている。


 クロアの苦しそうな表情や声、俺に何か出来ないかとベリアストロに聞くが、近くで応援してやれとしか言われない。
 とにかく、手を握り。クロアに声をかけ続けた。


──そしてついに。おぎゃあおぎゃあ、と元気に泣きながら赤ちゃんが生まれてきた。
 クロアはどうなったのかと、息を切らしながらベリアストロを見ている。


 ベリアストロが1度部屋の奥の方に連れていき、しばらくしてタオルに包まれた赤ちゃんを持ってきた。
 それをクロアに渡す。


「っ……はは……良かった……」
「男の子だから。元気に育つわ」
「良かった……クロア……よく頑張ったっ!」


 俺はあまりの嬉しさに涙を流した。
 こうして生命が誕生する瞬間に立ち会えた事を、幸せに思う。


「クロアさん、おっぱいあげてみたら?」
「えと……どうするんだ?」
「リグリフさん、しっかり見てるのよ」


 なんで俺が見なきゃ……まあ見たいけど。
 ベリアストロがクロアの服を捲って、胸を露出させた。そのまま赤ちゃんの口を乳首に持っていくと、吸い出した。


「んっ……すごっ……」


 発情しそうなので、俺は目を逸らした。
 ある程度乳を飲ませ終わると、クロアが俺の腕を触ってきた。


「リグありがとう……はい」
「あ、ああ……温かいな」


 クロアに赤ちゃんを渡されて、抱き抱えてみた。とても温かい。頭には狼の耳、顔は人間の顔。人間と獣人族のハーフのようだ。
 二人に似て可愛くてかっこいい顔をしている。


「名前、どうするの?」
「リグ決めた?」
「お、俺が決めて……いいのか?」
「いいよ。リグのお陰だから」


 俺とクロアの子供の名前……。


「ルイスでどうだ? 昔本で読んだんだ。有名な剣士ルイス。ルイスみたいに強く、誰かを守ってやれるような子に育つように」
「いいな……ルイス」


 クロアは気に入ってくれたようだ。


「クロアさん疲れたでしょう? 眠ってもいいのよ」
「まだもう少し、といいたいところだけど……寝るよ」
「リグリフさん、赤ちゃんは私とクラウディアが預かるから。一緒に休んでいいわよ」
「ああ」


 俺もかなり体力を消耗したからな。


 そして、クロアはあっという間に眠っていた。スースーと寝息を立てて、安心したように眠っている。
 クロアの頭を撫でて、俺は椅子に座って眠った。


ーーーーー


ーーーーー


 大きな幸福感に包まれて眠った俺は、かなりの時間眠っていた。
 ベリアストロに起こされて、ルイスにおっぱいを飲ませたり。横に持ってきた小さなベッドなかなか寝ない時は俺に抱っこさせたり。
 幸せで忙しい毎日が始まった。


 そしてしばらく日が経つと、着替えだったり荷物の準備だったりをリグが始めていた、
 ルイスをおっぱいをあげながら、リグに聞いた。


「もうすぐ引っ越すのか?」
「あ、ああ。家の場所も鍵も渡されたし、早めに家に行った方が楽かと思ってな」
「分かった」


 ルイスを寝かせつけた後。起こさないように、リグの手伝いを始める。


「ゆっくりしてていいぞ?」
「いや、何か手伝わないとって思って。気にせずに指示してくれ」
「じゃあそこの着替え持ってきてくれ」


 リグを手伝っていると、勇者ワタルがやってきた。
 もう前のように、ワタルを意識してしまうような事は無くなっている。


「クロアさん出産したって……あっ! おめでとうございます」
「ありがとう。今日はどうした?」
「ソフィも出産してないかな……と、急いで来ました」
「あはは、昨日はワタル君来ないかな〜ってずっと言ってたよ」


 ソフィの出産もそろそろだろうな。


「あ、寝てる」
「起こしていいよ」
「いいんですか?」
「大丈夫。逆にワタルがいる時に寝てたら後悔しそうだよ、ソフィ」


 ワタルがソフィを起こしに行くと、目を覚ましたソフィがワタルを抱きしめた。


「あの2人も良い関係だよな」
「私達程じゃないけどな」

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