女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

116話 結婚は新しい人生の始まり

「座った状態でいいわ」


 ベッドの上で身体を起こすと、リグが隣にやってきた。


「左手出して」


 リグが持っているのは綺麗な指輪。
 寝起きで頭が回らないが、とりあえず言われた通り左手を出す。


 ゆっくりと薬指に指輪がはめられると、大きな拍手が起こった。


「クロア〜ッ! お前もついに結婚か……」
「お母さん嬉しいわ!」


 両親が泣きながら拍手をして。


「クロアさんおめでとうございます!」
「ご結婚おめでとうございます」


 転移者達が笑いながら拍手して。


「大変なのはこれからよ」
「頑張るんだぞ」


 ベリアストロとクラウディアが応援の声をかけてくれた。


 段々と俺の意識もはっきりとしてきて、少しだけ恥ずかしくなってきた。


「これからもよろしくな、クロア」
「っ……!」


 リグが俺の頭にティアラを乗せながら、口にキスをしてきた。大勢の前でのキス。あまりの恥ずかしさに全身が熱くなり、どこを見ればいいか分からなくなる。
 とりあえずリグの顔を見つめた。


「……ふ、普通キスする時は目は閉じるんだぞ。まあクロアらしいな」
「ご、ごめん。ビックリして」
「じゃあクロアさん、リグリフさん、ケーキ切りましょう」


 ベリアストロから銀色の剣が渡された。そして俺とリグの間に少し大きめのケーキが運ばれて、リグが俺の手を掴んだ。


「二人でこれからも頑張っていこうな」
「あ、ああ……」


 二人で剣を握り、ケーキを一緒に切った。
 すると、また部屋に大きな拍手が響き渡り、恥ずかしくなって顔を下に向けた。


 なんでこれはこんな事で恥ずかしいなんて思っているのだろうか。ケーキを切っただけ。違う、今この瞬間から、俺とリグは妻と夫という関係になったから。
 前世ではただの親友。今世では良い恋人、そして今家族になったからだ。


「さぁ、ケーキを皆の分に切り分けて食べよう」
「やったぁ!」


 リグが残りのケーキを切り分け始めると、すぐさまソフィが皿を持ってきた。


「こら、ちゃんと皆の分あるからソフィアはゆっくりしてるんだ」
「嫌だ〜! 食べる!」


 ソフィもいつかワタルと結婚するんだよな。こんなアホの子が結婚……不思議な感覚だ。
 俺にとってソフィは妹のような存在だった。それが今じゃ国の勇者の嫁さんか。


ーーーーー


 皆で美味しいケーキを食べている時、俺とリグはこれからの事について話していた。


「仕事、どうする」
「冒険者でいいんじゃないか? といっても、この国の周辺だけだけど」


 子供が産まれるまではここに住むとして、産まれた後は家に住まなきゃな。


「子供が産まれてからも大変な事は沢山ある。しばらくは俺1人で働くぞ?」
「ああ。子供が生まれて、子育ても安定してきたら私も働く。その間子供は私の親に預けるといいだろう」


 孫が一番可愛いっていう話だ。孫と一緒に生活できるならミリスもバルジも喜ぶだろう。それが俺に出来る親孝行だ。


「なぁクロア」
「っ……ん? ……食べてる時にあまり話しかけないでくれ」
「ああごめん。でさ、二人の子供って考えてるか?」
「う〜ん……欲しいところだけど、大変そうだしまずは1人に集中しよう」


 1人目がある程度物心がついて、弟か妹が出来れば色々と楽になりそうだしな。


 ケーキを食べ終わり、俺が皿をどこに置こうか迷っているとクラウディアがやってきた。


「よっ」
「よっ」


 とりあえず皿を渡す。


「二人とも良い雰囲気で話してたから話しかけるタイミングずっと伺ってたんだ」
「良い雰囲気って……まあいいや、それで?」
「ああ話があってな。二人の生活が俺がサポートしようと思う」


 サポート……? 魔王が?


「家も無料でプレゼント、ついでに子育ての為のオムツやらオモチャやら、必要な道具もその家に送るし、何ならメイドも雇う」
「メイドか……」


 メイドっていうと、家政婦みたいなものだよな。確かに居たらかなり便利になりそうだけど……見ず知らずの人に子供を預けるっていうのは心配だしな。
 俺がしばらく考えていると、リグが何かを閃いたように手を叩いた。


「サタナキアがいるから大丈夫じゃないか?」
「ん、ああサタナか。うん、サタナがいるからメイドは必要ないよ」


 サタナなら人形の身体があるしな。


『ふっふっふ〜ん……実は、こっそり人形を改良してたんだ』
『あ、久しぶり。改良って?』
『人形を本物の器へと改造したのさ! 内臓も、骨格も全て人間と同じ! 神にしかできない技だね〜』


 おぉ、ってことは人形特有の冷たさも無く、体温で赤ちゃんを安心させれると。
 メイドに特化してきたな。


「うん、サタナ使えば親に預ける必要もないかな」


 まああの2人のことだし、俺達の家に泊まってまで赤ちゃんと遊びたがりそうだけど。


「そうか。じゃあとりあえず今は100万円。金貨100渡すよ」
「こ、こんな大金……良いのか?」


 大きな袋を受け取ったリグが、恐る恐るといった感じでジャラジャラ触っている。


「国の王だぞ? 何なら億までやれる」
「い、いや大丈夫だ! 感謝する」


 100万あったら何が出来るかな……前世だったら親の借金返せたな。大事に使おう。


「もう家の準備は出来ている。子供が生まれた時でいいから、準備しとくんだぞ」
「うん。ありがとうクラウディア」
「……クロアは前に比べて可愛くなったよな」
「リグに何回も言われてるからいい……」


 もう可愛いなんて言われるのは慣れた。


「キュッ、キュキュ〜」
『赤ちゃんが産まれたら、私にも触らせてください。人間の赤ちゃん見たことないんです』
「ああいいぞ」


 俺よりアノスの方が可愛いなぁ……。


 そして色んな人と話している内に、段々と眠くなってきた。


「じゃあリグ……悪いけどもう寝るから……」
「ああ、しっかり休め。俺たちはまだしばらく話してるけど、大丈夫か?」
「うん……おやすみ」


 こうして、俺は一足先に結婚式から離脱した。

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