女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

106話 表と裏がある国



 馬車の不規則な揺れと、揺れる度に荷物が音を立てる。暗い夜道を道なりに進んでどのくらい経っただろうか。


「まだ着かないのか?」
「まだだよ〜明るくなり始めた時くらいには着くよ」


 かなり時間がかかるみたいで、俺はレヴィの横に座って足をプラプラと動かしている。


「魔物も寝てるのかな……」
「だね〜今日は暖かいからね」


 生き物の気配が全くしない。


「あっちに着いたら高級そうな宿屋に泊まろっか。魔王様から沢山お金貰ってきたんだ〜」
「へぇ〜どのくらい?」
「金貨50枚! 50万円だね」


 魔王の国は本当に日本に似せてるよな。クラウディアが元日本人って事もあるんだろうけど、流石にパクリすぎじゃないか?
 もし転生者や転移者が魔王の国を知ったらすぐに仲間になりそうだな。


「ねぇクロアちゃん、良い暇潰し教えよっか?」
「ん、頼む」
「いつもクロアちゃんに見せてるアレあるでしょ?」
「あぁ〜グロイやつ。それが?」
「それの応用で、好きな映像を自分で想像してみるの」


 あ、なんか面白そうだな。


「自分の目の奥に集中して、それから楽しい映像をイメージしてみて」
「分かった」


 とりあえず、リグがお手をしてくるイメージをしてみた。


「お……おぉ! まるで目の前で見てるみたいだ!」
「でしょ? それなら誰に対しても好きなこと出来るんだよ!」


 明晰夢みたいだな。じゃあ試しに、リグが5人に増えるように……。


「おぉ〜」
「楽しい?」
「良いなこれ。でも……目の奥が痛くなってきた……」


 長時間仕事していた時みたいに、目の奥が痛い。


「神経に無理矢理映像の情報を流してるからね〜慣れないとすぐに痛くなるんだ〜」
「そうなのか……まあ痛くなくなったらまたするか」


 良い暇潰しかと思ったが、短時間しか出来ないならあまり意味がないしな。


「暇だね〜」
「そうだな〜……」


 ずっと代わり映えのない夜道を、ただずっと歩き続けている。こんなに暇なら、いっその事魔物が大量に出てきてくれれば嬉しいんだがな。


ーーーーー


ーーーーー


「……あ、ちょっと明るくなってきた?」
「一気に明るくなるよ〜」


 かなりの時間真っ暗な道を歩いていたが、やっと明るくなってきた。もうすぐグラニート帝国に到着するだろう。


「ふわぁ〜っっ……なんで今頃眠くなるかなぁ……」
「まずはお城に荷物届けて宿屋に行こうね〜」
「そうだな〜……」


 座りっぱなしだった為、背中や首がかなり凝っている。一度背伸びをして前を見ると、大きな門が見えた。


「やったぁ! 早朝だから並ばなくて済んだよ!」
「いつも並んでるのか?」
「凄く時間かかるんだよ〜困る!」


 門の前には二人の兵士が立っていて、俺達の姿を見ると背筋がピーンと伸びた。オンオフの切り替えが良いな。


「おはようございま〜す!」


 まだ距離があるというのに、レヴィが二人の門番に手を振って挨拶した。


「お、おはようございま〜すっっ! お疲れ様ですっ!!」


 ほら、門番さんが頑張って大声出してるよ。


 馬車に乗ったまま門の近くまでやってきた。近くで見るとかなり大きい。


「えっと〜これを見せればいいんだっけ」


 レヴィが、昨日王子マローンに貰った紙を出した。


「念の為、中身の確認をします」
「どうぞ〜!」


 特に物騒な物は入ってないし大丈夫だろう。


「このドラゴンは子供ですか?」
「あっ……はい、アノスって言うんです」


 後ろの門番が中身を確認している間、もう1人の門番が話しかけてきた。


「今寝てるので、あまり大声は出さないように」
「あっ分かりました。可愛いですね」


 門番さんの顔は鎧で隠れて見えないが、ニコッと笑っているという事だけは雰囲気で感じ取れる。


「はい。確認終わりました。このまま城まで真っ直ぐですので、人を轢かないよう進んでください」
「は〜い」
「よし門を開くぞ」


 二人の門番が、門の両脇にあるボタンを同時に押した。すると、ガタガタと音を立てて門が開いていく。


「随分とハイテクなんですね」
「我々の国は技術者達が沢山いますからね」


 まあ魔王の国のように冷蔵庫とかそういうのは無さそうだけど。


「じゃあクロアちゃん、あまり目立ちたくないなら中に入ってた方がいいよ」
「あ、じゃあ入っとく」


 馬車の荷物の中に入って、布の隙間から顔を出す。
 街の中はかなり明るい雰囲気だ。奴隷の国とは思えないほど活気溢れていて、皆笑顔で商人から物を勝ったりしている。
 道の真ん中も、馬車が通れるようにちゃんと避けて歩いてくれるし、意外と良い国なのかもしれないな。


 たま〜にレヴィをいやらしい目で見る輩がいるけど、そのくらいは普通の量だろう。


「早朝なのに沢山人いるんだな」
「ここの人達は夜行性だからね。お店も夜から朝までしか開いてないから」
「夜から朝まで……それってどういう事だ?」
「朝から夜までは、男の人は国に雇われていて力仕事に向かうんだよ」


 あぁ〜……ブラックな国だな。休む暇も無いんだろうな……それでも、国の玄関であるここらへんは皆笑顔で振舞ってる。
 ちょっと怖い。


「目の前に大きな城が見えるでしょ?」
「ああ見えるな」
「そこに近づくにつれて、周りは帰属だったりが増えてくるんだよ。大通りから離れた場所で、奴隷だったり闇市だったりが動いてるんだよ」
「やっぱりこの国って……」
「かなり酷いね」


 だろうな。でも、王子マローンは知らないんだろうな。もし知ってたらあんなに清々しい顔できなかったし。綺麗な茶髪も、何のストレスもなく育ってきた証拠だ。


「この国には住みたくないな」
「でも武力では確かにかなりの力を持ってるから、同盟を組んで正解だったね」


 複雑だ。


ーーーーー


ーーーーー


 城の前までやってくると、兵士達が鋭い目で睨んできた。


「止まれ」
「は〜い」
「中を確認する」


 あれ、あの紙は見せなくていいのか。


「ん? なんだお前は」
「あっどうも……」


 荷物を確認しに来た門番が、俺の身体をジロジロと見てきた。


「怪しいな。お前達、この2人を連れていって荷物は城に運べ」
「えぇっ!? 私達怪しくないよ? ほら、これ!」


 レヴィがマローンに貰った紙を見せる。


「そんな物偽物だ! 連れていけ!」
「お前達! 客人に無礼は罪に問われるぞ!」
「ま、マローン様!」
「マローン様! おはようございます」


 兵士が俺の足を掴んで引きずり出そうとした所で、マローンがやってきた。


「お前達は城に戻れ」
「「はっ!」」
「あ、君は待て」
「は、はい!」


 俺を連れ去ろうとした人物が呼び止められた。


「勝手な判断はしないように。大事な人達なんだ」
「も、申し訳ありません……」
「5点減点だ」
「ぐっ……」
「行っていいぞ」
「失礼しました……」


 流石、王子なだけあって兵士が何でも言う事を聞くな。


「兵士達の無礼、失礼しました」
「いえいえ〜。初めましてレヴィアタンです」
「レヴィアタ……?」
「ま、マローンさん。私のこと覚えてますか?」


 いきなり神の名を名乗って怪しまれたらどうするんだ。レヴィとマローンは初対面なんだから、ここは俺が会話した方が良い。


「あぁクロアさん! 私の事を覚えていてくれて嬉しいです!」
「えっと、この馬車はどこにやったらいいのでしょうか?」
「ここに置いていて大丈夫ですよ。後で兵士達に取りに来させますので。どうぞ、折角きたのならお茶でもいかがですか?」


 ん〜……まあ誘われてしまったら断れないよな。それに同盟相手の王子だ。


「分かりました」
「やったぁ! お茶!」
「レヴィ、ちゃんとした言葉遣いをしないと……」
「いえいえ! 私としても楽な口調で話してかけてもらえると嬉しいです」


 まあそれなら仕方ないか。


「では着いてきてください」
「クロアちゃん行こっ!」
「あ、あぁ」


 レヴィは眠くないようだ……。
 馬車から降りて、マローンの後ろに付いていく。


 綺麗に整備された庭を進んでいくと、屋根の付いた白いテーブルとイスがあった。


「どうぞ」
「あ、どうも……」


 マローンが椅子を引いてくれた。
 こういうのは女性に対する礼儀なのだろうけど、なんか居心地が悪いな。


 マローンが俺の向かいの席に座った。


「少ししたら執事がお茶を用意しますので、ごゆっくりと」
「あ、は、はい」
「わぁ〜……お花綺麗〜」


 居心地が悪い。
 環境は良いんだろうけど、普通お茶を飲むなら室内だろう? そして、何故俺は王子と向かい合って座っているのか。何故王子は俺の顔を見つめてくるのか。


「お二人共、綺麗な顔をしてるんですね」
「ありがとうございます……」
「クロアちゃんはもう彼氏がいるから狙っちゃダメだよ?」
「あっはっはっ、どんな彼氏さんなんです?」


 レヴィのせいで恋バナが始まってしまった。
 眠いからあまり話したくないんだけど……。

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