女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

104話 幸せを求めすぎるのは良くない

 部屋に戻って熟睡した俺は、目覚めのシャワーを浴びた。
 お尻のあの模様は無くなっているようで安心した。その代わり自分の右手に十字架が現れたけど、逆さまと通常とでは全然違うな。


「ふぅ〜……」


 髪をかきあげて上からシャワーを浴びせると、頭皮が良い感じに刺激されて気持ち良い。


「クロアか?」
「っ! ……何?」


 リグの声が聞こえて、咄嗟に体を隠した。この前のように全裸を見られるわけにはいかないからな。


「いや、後で俺もシャワー浴びていい?」
「ああいいよ。ちょっと待ってて」
「はいよ」


ーーーーー


 まだ少しだけ湿っている髪をタオルで吹きながら部屋に戻ると、ベリアストロがソフィとリグに何かを話していた。


「あ、クロアさん」
「なんで私がいない時に重要そうな話するんだ? いつも」
「ごめんなさいね、突然の話だったから。まあ座って」


 とりあえずリグの横に座る。


「おっ良い匂いするな」
「クラウディアに高そうなリンス貰ったからな」


 と、何気ない会話が出来るのも、完全な平和がやってきたからではないだろうか。


「話というのは、グラニート帝国の王子がやってくるのよ」
「なんで王子が?」


 こんな魔王の国に王子が来ても危険しかないと思うが。


「悪魔を封印した人に是非合わせてくれ。だそうよ。悪魔というのは、1匹いるだけで世界を滅ぼすような危険な存在なの。そんな悪魔を封印した英雄なんてそうそういないわ」
「それで……クラウディアとベリアストロに会いたいと……」
「そしてクロアさんもよ」
「私も……?」


 俺は何もしてないと思うが……いや、頭をチョンパしたのはしたけど、それもサタナだし。封印したのは実際クラウディアとベリアストロだよな。


「キューッ!」
『クロア様、貴女がいなければ二人は死んでたんですよ。心の中の悪魔に打ち勝ったクロア様が一番凄いんです!』
「んん〜っ! 可愛い顔して褒めてくれるなんて嬉しいぞ!!」
「キュ〜」


 アノスも神様とは思えない可愛さ。


「なんて会話しているのかは分からないけど、グラニートの王子と勇者が来るから準備しててね」
「分かった。いつ来るんだ?」
「明日よ」
「分かっ…………早くないか?」


 普通、訪問する3日前くらいには連絡するだろう。それが暗黙の了解という奴なのだが、来ると連絡してその次の日に普通来るか?
 まあグラニート帝国だし、北〇鮮みたいに礼儀知らずなところはありそうだけど……流石にそれは早いな。


「そんなに心配する事ないわ。魔王と魔女を目の前にして下手な行動はしないでしょうし、何ならオークの真似だってしてくれそうよ」
「そんな人なのか……」
「いえ? グラニート帝国の王子はとても好青年で、他の国の女性にも人気があるのよ」


 そんな人にオークの真似なんてさせられるか!


「……まあ分かった。明日だな」
「ええ。場所は会議室でしょうし、話もすぐ終わるわ」


 まあグラニート帝国の王子様の顔には多少は興味あるし、楽しみにしておこう。それに勇者ワタルも来るんだ。王子の前で恥ずかしいことさせてやろうか。


『それを僕にしてくれたら嬉しいなぁ』
『サタナは喜ぶから嫌だ』
『きっぱりと断ってくるところ、大好きだよ』


 そもそも俺はSでもMでもない。


「んじゃあ俺は風呂」


 リグが立ち上がって、風呂場へと向かって行った。


「クロアさん、背中を流してあげたら?」
「嫌だよ」
「妻が夫の背中を流すのは常識よ? 一緒に話しながら背中を流して、お互いの愛を改めて感じる大事な行事」


 何……? そんなのがあったのか……俺はそこまでは知らなかった。


「常識か……分かった。よしリグ、私が背中を流してやるから覚悟しろ」
「行っておくけど、そんな常識聞いたことないからな」
「ふふふ、単純ね」


 この野郎、俺を嵌めようとしやがったな!


「……ま、まあいい。今日は特別だ!」
「お! 嬉しいな」
「あらあら、その気になるとガツガツ……良いわね」
「ベリアストロは何の研究してるんだよ……」
「クロアさんが攻めなのか受けなのか、つまりSMよ」
「どっちでもない!」


 どうしてこうもベリアストロは下な話をガツガツ話せるのだろうか。羞恥心というものを知ってほしい。


ーーーーー


「気持ち良いなぁ〜……」
「背中フワフワしてるな」


 リグの背中をゴシゴシ、ゴシゴシ。
 毛だらけの身体からは汚れが沢山落ちていく。


「背中は自分では洗いにくいから、汚れがほらこんなに」


 黒く汚れたタオルを見せる。


「うわっ……なんか悪いな」
「いいよいいよ。リグのだし抵抗は無い」


 逆にこっちが気持ち良いくらいだ。どんどん汚れが落ちていって、綺麗な毛になっていくのを見るのも良いな。


「手で洗うともっと落ちやすくなるらしいぞ」
「あぁ〜やってみるか」


 手に洗剤をつけて、しっかり泡立ててからリグの大きな背中に触れる。


「あっ、やっぱり骨とか筋肉が違うんだな」
「うわぁ……クロアの手気持ち良い」


 話聞いてねぇな……。


「おぉ汚れがどんどん落ちていく」
「背中洗ったら手も頼む」
「自分で出来るだろ?」
「折角なんだし、いいだろ?」


 ん〜……まあ折角ならいいか。


「分かった」
「単純……」
「あ?」
「お願いします」


 結局、背中と腕と頭を洗ってやった。下半身も洗ってやろうかと、冗談交じりで行ったら恥ずかしそうな顔しながら 「頼む」 なんて言った時は流石の俺も驚いた。


ーーーーー


ーーーーー


 風呂上がり、俺とリグはベランダに出てホットミルク片手に雑談していた。


「あれ、一応星もあるんだな」
「当たり前だろ。星がなかったら私達いまどこにいるんだ」
「太陽があるんだし、もしかしたら地球もあるかもな」


 あるわけないだろ……ここは異世界だぞ。


「月だってあるんだし、地球もありそうだよな」
「無いよ」
「こういうのはあるって信じてた方が幸せなんだよ」
「幸せねぇ……私はリグと一緒にいるだけで十分だ」


 それ以上の幸せなんて求めないな。


「あらあら、二人共熱々ね」
「あ、ベリアストロ。気になるんだけど、星とかって種類分かる?」
「分からないわ?」


 まあそうか。星を観察する技術がないもんな。


「グラニート帝国なら分かるかしらね」


 ……可能性は無いが……流石にそこまでは進化してないだろう。

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