女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

97話 命の契約の代償として……可愛い



 朝からレヴィアタンの部屋に来て、今日もグロテスクな映像を見続ける。


「慣れてきたみたいだね〜」
「そだね……」


 しかし、それを見ている間はずっと眠い状態なので、耐える事が辛い。
 精神訓練が終わってから、少しだけレヴィアタンの部屋で睡眠を取るのが良さそうだ。


「レヴィ……」
「ん〜?」
「なんか違うのが見えてきたんだけど」


 横になって天井を見上げているのが分かる。いままでのグロテスクな映像と違って、平和だ。


「え? どれどれ…………っ!?」


 そして、その映像には小さな喘ぎ声まで……。


「あっ! ミスミス!! ミスだから! 眠気に耐えてるクロアちゃん見て興奮したからって、こんな事思い出してないから!!」
「それ全部言ってるよ」
「あぁっ!! とっ、とにかく……うぅ、私はクロアちゃんに性的興奮を覚えるのっっ!!」


 何がとにかくだ……。


「もう疲れたから寝ていい……?」
「あ、うん……早く忘れてね」
「大丈夫すぐ忘れるよ。でも、鏡で自分の姿見ながらなんて凄いね……」
「んあああああ!!!!」


 意識が朦朧としつつもトドメの一言を放った後に、俺は眠った。


ーーーーー


ーーーーー


「……あれ……ここ神様の……?」
「やあ。僕だよ〜」
「あっサタナ!! どこ行ってたんだよ」


 人形姿のサタナが夢の中に現れた。


「んやぁ、ちょっとね」
「ちょっとって何だ?」
「君、あのルトって人と命の契約したでしょ?」
「確かにしたけど、それと何の関係があるんだ」
「えっとね〜……命の契約した結果、あの人の一部の能力がクロアに受け継がれたんだ」


 能力が受け継がれた? 魔王の能力が俺の物になったのか?


「それを調べてたらちょっとね……」
「あぁ……で、能力ってのは?」
「えっとね……この世界の神になる……みたいな能力だね」


 この世界の神になる……? 意味不明だな。俺は人間だし、ルトって人は魔王だ。神じゃない。


「よく分からないんだけどね」
「能力の詳細も?」
「うん。ただ神になるとしか分からなかった。もしかすると受け継がれたのはこれだけで、何の能力も貰ってないのかもね」
「神になる……って説明だけを貰ったって事か?」
「そうかも」


 使えねぇじゃねぇか! なんだそれ、ただ紙に 『神』 って書いて背中に貼ったようなもんじゃねぇか。


「んで、こんなに時間かけたのにそれだけの情報って訳じゃないよな?」
「勿論! ちゃんと他にも情報あるよ」


 俺はサタナやクロノスがいなくて心配してたんだぞ。誰とも話し相手がいないから寂しかったし、少しはマシな情報なんだろうな。


「命の契約をした事によって、クロアの身体能力が半減した」
「……ごめん聞こえない」
「クロアの身体能力が半減した」
「嘘だろ?」
「いや本当だよ。身体能力半減を代償に、一つだけ器を召喚することができるようになったんだ」


 器っていうと、神の世界じゃ身体の事だよな? 身体能力半減を代償に身体を召喚って……もしかしてハードモード突入?


「そして僕は考えた……」


 サタナが中二病のように、三本指を立てて顔を覆った。


「この能力で……最強のドラゴンの器を召喚するんだっ!」
「それをお前が使う、と?」
「いや、これはクロノスに譲るよ。この最強のドラゴンを召喚すれば最強間違いなし! クラウディアを倒せるぞ!」


 なんでクラウディア倒そうとしてんだよ。俺達にとってクラウディアは味方だろうが……。


「最強のドラゴンとかいんの?」
「いるさ、ネクロドラゴン」
「ネクロドラゴン?」
「絶対に死なないドラゴンさ」


 死なないドラゴンねぇ……まあそれならこの先ずっとこき使えるから良いけど。


「実際に見ないと召喚したくない」
「そう言うと思って! ほい!」


 サタナが一回転すると、その姿が変わった。


「小さ……」
「仕方ないだろ?」


 そこには黒くて赤い目をした小さなドラゴンが、翼を羽ばたかせて飛んでいた。


「でも……可愛いかも」
「まあ実物は大きいんだけどね」
「どのくらい?」
「クロアの身長よりちょっと高いくらいの大きさ」


 クラウディアのドラゴンと比べると小さすぎるけど……可愛さを求めるならそのくらいが良いか。


「分かった。じゃあ早速そのネクロドラゴンとやらを現実の方で召喚する」
「身体能力半減してるから気をつけてね〜」


ーーーーー


ーーーーー


「あっ、クロアちゃんおはよう。あの事忘れた?」
「あの事……? ああ、あの鏡──」
「思い出さないでっ!!」


 レヴィアタンが思い出させたんだろうが……すっかり忘れていたというのに。
 まあそこらへんもティライに似たんだろうな。


「あ、そうそう。夢の中でサタナに会ってさ」
「クソがなんて言ってた?」
「酷いな……えっと、まあとりあえず見てて」
「は〜い」


 ネクロドラゴン出てこ〜い。


──ボフンッ!


「けほっけほっ! な、何?」


 突然小さな爆発が起きて、部屋に白い煙が立ち込める。
 そして煙が無くなると、先程まで何も無かった部屋に大きな黒いドラゴンがいた。


「うえぇっ!? ネクロドラゴン!? って……死んでる?」


 神でもこの反応か。やはりネクロドラゴンは強いのだろう。


「これはただの器」
「器……? やったぁ! 私貰っていいの!?」
「ち、違うから……私と契約してるクロノスにプレゼント」
「ちぇ〜期待したのになぁ」


 上げて落としてごめんなさい……ちょっと俺の罪悪感が動いた。


『クロノス〜』
『はい、分かってます』


 身体から何かが抜ける感覚と同時に、ネクロドラゴンの瞳が開いた。


「キュー……? キュッ!」
「喋れないのか」
「キューッ!」
「凄い……ネクロドラゴンがこんなに近くに……」


 喋れないとなると不便だな。でも良い乗り物が出来た。


「よしよ〜し」
「キュッ……」
『うわぁぁぁああ気持ち良いぃぃい』
「うおぉ」


 頭撫でたらクロノスの声が響いてきたぞ!?


「っと……」
『あ、もしかして触ってる間はコミュニケーションが取れるのかもしれませんね』


 なるほどね。さっきはクロノスの心の叫びを聞いてしまったが忘れよう。


「可愛い〜っ!! 私前からネクロドラゴン殺したかったの!」
「な、なんで殺す?」
「絶対に死なないなら殺すでしょ?」
「やめて」


 だからさっきあんなに嬉しそうな顔してたのか。


『どうやらクロア様意外の人には、触られても話せないようです』
『ま、神様なら殺されないようにね』
「キューン」
『はい』
「…………可愛い……」


 ネクロドラゴンの可愛さに、思わず全身の力が抜けてしまった。


「これは可愛いね、クロアちゃん」
「そだねぇ……」
「国宝……」
「うむ……」
『あのクロア様……見つめられると照れます』


 クロノスが俺に話しかける為に、顔を俺の顔に触れてきた。


「あっ、甘えてる〜……可愛いなぁネクロドラゴン」
「今は中にクロノスがいるんだよ」
「中なんて関係ない……ネクロドラゴン可愛い」


 確かに……話せるネクロドラゴン。好き。

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