女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

81話 王国騎士団の仕事は案外楽しい



 皆と一緒に、広い王城の敷地内を適当に歩いているのだが、未だに結界に何かが入ってくるような報告は無い。
 まあ、ただの警備だし国王が命を狙われている訳ではない。何の問題もなく仕事は終わるだろう。


「学園……ベリアストロ、隣の国ってどういうところなんだ?」
「隣と言っても距離はそれなりに離れているわ。グラニート帝国といって、技術的にも武力的にも発達している国なの」
「帝国……」
「発達している分、治安も悪くて国内での争い事が絶えず起きていたりするわ。獣人族を奴隷にして労働させたりもしているらしいの」
「そんな国とこの国は何をしようと?」


 獣人を奴隷って酷いな。もしリグがそこに生まれていたら今頃俺とリグは出会えていなかった訳だ。


「グラニート帝国が魔王軍に攻められて、大きな損害が出てしまったの」
「武力があるのに?」
「そう。武力といっても魔道兵器といって、多数の人間の魔力を一つの物に集めて、圧縮したエネルギーを攻撃に使用したりするもので、それらを扱える人材がいないのよ」
「駄目駄目じゃないか……」
「そこで、帝国側は魔道兵器や武具の提供。王国側は帝国の復旧支援を行う同盟国家を築く会議を行っているの」


 なるほどね〜……そういうのは難しいから俺は興味無いな。


「とりあえず同盟になればお互いにメリットがあるんだろ?」
「そうね。でもお互いの国はお互いの国を守らなくちゃならないの。もし片方の国が責められた場合、私達騎士や傭兵は支援に行くことになるわ」
「そうなると……どうなるんだ?」
「こちら側の戦力が薄くなって、そこを突かれる可能性も出てくるの。他にも色んな難しい問題があるのだけれど……そこをどう解決するのかも会議で考えなくちゃならないわ」


 大変そうだな……まあ魔王軍が他の国を襲う理由は分からないが、お互いに戦力を強化したいものだな。
 いやしかし……もし帝国側の戦力が強化されたところで裏切りが発生したら……俺達の国が危険になる。


「心配だな」
「今はこの仕事に集中するのよ」


 良い話を聞けたな。


ーーーーー


ーーーーー


 まだ会議が終わらないようで、俺達はのんびりと食事を取っていた。学園長が持ってきていたようだ。


「しっかり食えよ! いつ侵入者が来ても戦えるようにな!」
「そうっすね〜」
「ジェイス! 前髪が口に入ってるぞ」
「あっすまないっす」


 まるでホモカップルみたいだな。ジェイスは髪が長くて、ほんの少しだけ中性的な顔をしている。アーガスってそっち系なのだろうか。
 いやでも嫁さんがいるって言ってたし──


「どうしたクロア! 俺の嫁になるか?」
「なんでそうなる……」
「はっはっはっ!」


 未成年相手に浮気しようとするな。それにアーガスみたいにイカつい人はタイプじゃない。
 ん……? なんで男のタイプなんて考えてるんだ。


『成長してホルモンバランスが変わってきたんだろうね〜』
『ホルモンバランスって……まあ有り得なくはないけど』


 確かに、女の身体になってから性格が変わってきているとリグに言われてる。どうやら女性ホルモンによる好みの変化っていうのはありえるらしい。


『ん? そういやサタナは私の前世について知ってる?』
『前世の記憶を持ってるって事は知ってるけど、別に聞く必要は無いかな』
『そうか』


 サタナに話したところで何もメリットは無いしな。


「会議ってどのくらいで終わるか分かる? アーガス」
「そろそろ終わるだろうな〜……あ、そういやクロアの千里眼使えば会議内容盗み聞きできるじゃねぇか」
「変なこと教えないでくれる? もしそれでクロアが悪い道に進んだらアーガスの責任よ?」
「冗談だ」


 アーガスって本当に色んな人と結婚する可能性ありそうだな。ジェイスともお似合いだし、学園長ともお似合いだし。不思議だ。


「クロア、一緒にお昼寝しましょう」
「仕事中なのに? それに私達が1番重要人物じゃないか」
「大丈夫よ。結界に反応があればすぐに起きれるから」


 そうなのか……じゃあ、暇だし寝るか。


 王城の敷地内は、フワフワした綺麗な芝生がとても気持ち良い。その上に寝そべって、空を見上げる。


「んしょっ」


 学園長も横に寝た。こうして見ると、俺と学園長の胸の大きさが一目瞭然だな。
 鎧が勝手にサイズを合わせてくれるから、分かりやすい。


「貴女もきっと大きくなるわよ」
「身長高い人は貧乳って話を昔聞いたことがある」
「有り得るわね……もしそれが本当なら歴史的大発見よ」
「んな大袈裟な」


 自分の腕を枕に寝返りを打つ。


「はははははは! 二人とも親子みたいで微笑ましいな!」
「でしょう? 私とクロアは密接な関係なのよ……」
「いやらしくいうのやめてくれるか」
「昔ディープキスしたの覚えてないの?」
「あっ、あれは無理矢理されただけでっ!」
「気持ちよさそうに受け入れてくれたじゃない」
「力が入らなくて……その……」
「おいおいお前ら、あまり変な妄想を俺達にさせるな。股間が窮屈なんだ」
「あら、何のために特別な鎧を使ってると思うの?」


 もう下ネタばっかりの会話は嫌だ……。天才は性欲が強いって言葉があったけど、あれ確実に間違ってるだろう。変態は性欲が強いんだ。


「変態……」
『それを僕に言ってくれよ!』
『死ね』


 寝ようと思ったのにイヤラシイワードがずっと聞こえてくる。
 下ネタは苦手なんだよ……。


ーーーーー


ーーーーー


 なんだかんだでいつの間にか寝ていたようで、学園長に起こされた時には外は赤くなっていた。


「無事終了っぽいぞ〜」
「ふんっっ〜〜〜…………はぁっ……よく寝た」


 軽く背伸びをして全身を伸ばす。


「あっ、国王と勇者が来たみたいっす!」
「皆さん今日はありがとうございました」
「いやぁ〜楽しかったぞ! こちらこそありがとな」
「無事会議も終わりましたので、私達は帰らせていただきます。ほれワタル、挨拶」
「…………クロア」
「えっ私?」


 ワタルが俺の前にやってきた。


「君の事は絶対に忘れないからね」
「あ……えぇっと……それはリベンジ的な意味で?」
「どうして英語を知ってるのかな? ……いやいい、リベンジじゃない。ただ君の人間性に惹かれただけだよ」
「ほらみろ! 俺の言った通りだ!!」


 何が言った通りだ。アーガスの判断のせいで俺死んでたかもしれないんだぞ。


「またいつか会えるといいね」
「うっ……」


 耳元で囁かれて全身がゾクッとした。


「ふっ……」


 固まっている俺を鼻で笑って、ワタルは国王の元に戻っていった。


「では、失礼しました」


 2人が転移で帰っていって、無事に俺の初仕事は終わった。

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