女嫌いの俺が女に転生した件。
80話 隣国の勇者ワタルは女嫌い
「アーガスさ……アーガス、久しぶり」
「よっ! 元気だったか〜? 成長したな!」
やはり目上の人に敬語で喋れないのは、なんだか違和感が大きい。
「今日はよろしく」
「おう! 頼りにしてるからな〜千里眼と邪神……なんだっけ」
「サタナキア」
「おぉそうそうサタナキア。まさか神と契約するなんてな〜。で、契約の証はどこに?」
「い、一応ここらへんに」
見せる訳にもいかないので、大体の位置を指で示した。
「面白いところに付いたな〜」
「団長〜! 国王と勇者来たっすよ〜!」
「分かった! お前ら集まれ!」
依頼主が来た途端、父のような雰囲気から威厳のある雰囲気へと切り替わった。
周りに王国騎士団全員が集まり、王城の中から2人が出てくるのを見ている。
『来るぞ〜』
『知ってるから静かに』
現れたのは、白銀の鎧と黒髪の男性。雰囲気はどことなく不思議な感じがする。顔立ちは整っているのだが、ボサボサの髪の毛と眠そうな顔が印象を悪くしている。それでも俺達を見る目は、まるで全てを見透しているかのようだ。
そしてその横には、威厳のある白いアゴヒゲを持つオジサン。
「依頼を受けてくださり、誠にありがとうございます」
「だ〜はっは! 気にすんな! 歳なんだから守るのは当たり前よ!」
っ!? アーガス、国王に向かってその口の聞き方はまずいんじゃないか?
「おぉっと」
気づけば、横にいた勇者がアーガスの首に剣を伸ばしていた。見えなかったな。
「ワタル、やめなされ。その方は王国騎士団団長アーガスじゃよ」
「……ちっ……」
ワタルと呼ばれる勇者は、相手がアーガスだと知った途端に後ろに下がった。それほど実力差があるのだろう。
「しばらく会議まで時間はある。ワタル、しばらくここで皆さんと仲良くしてなさい。……くれぐれも殺さぬようにな」
「分かりました」
国王の方は優しそうだと思ったけど、最後の言葉でゾッとした。
「んじゃ、ワタル! お前の話聞かせてくれよ!」
アーガスが何の警戒も無く肩を組んで笑っている。
ワタルが凄く嫌そうな顔してるから、俺はあまり近寄らない方が良さそうだな。
「あっそうそう! アイツがクロアだ!」
「げっ……」
何故か俺を紹介し始めた。ワタルの興味が完全に俺に行ってるぞ……。
「あの人が邪神と契約したという方ですか」
「そうだ、話してくるといい。俺達のような馬鹿じゃない、話してて退屈しないだろうよ」
低い声のワタルは、俺より身長が高いため見下される感じだ。なので、どんどん近寄ってくる度に威圧されている気がして俺も後ずさる。
『何ビビってるんだよ〜勇者くん傷つけちゃうよ〜?』
『こ、怖いんだよ!』
さっきの光景を見てしまった後なので、ちょっと機嫌を損ねただけで殺されそうだ。
「君……どうして逃げるの……?」
「え……? いや、逃げて……ないですよ?」
「初めまして……僕は勇者ワタル」
ワタルは、左手を右胸に軽く当てて頭を下げた。
あれ? 意外と穏やかな人?
「あ、防がれちゃった」
と思ったら俺の真横まで鋭い凶器が来てたんですけど!? 能力目覚めてなかったら死んでた〜!!??
「な、なななな、何するんだ!?」
「……あっははは、あっはっはっ!!!」
「え……えぇ?」
殺しに来たと思ったら今度は笑ってきやがった。こんな狂ってる奴が勇者とかありえないだろ。
「君面白いねぇ〜」
「は、はぁ」
「クロアだっけ? 僕と友達にならない?」
「いえ、遠慮しときます……」
「そっか〜そりゃ残念だ。じゃあ今日から僕達は親友だ。よろしくね」
ニコッと笑って手を出してきた。
な、なんなんだコイツ。
『サタナ、助けて』
『なんで? 友達になっただけじゃん』
サタナも頼れないし……俺はコイツとどう関わればいいんだ。
助けを求めるようにアーガスを見ると、指さして笑われた。
「君はさ、どうして王国騎士団に入ったの?」
「どうして……勧誘されてだが」
「でもさぁ……君、弱いよね?」
「うっ……」
「さっきの攻撃も見きれてないし」
「……」
「そんなんで騎士が勤まると思ってる?」
「……思ってない……だから頑張って──」
「頑張って? 努力したら強くなれるって思ってるの?」
「ああ」
「やっぱり女は馬鹿だねぇ! 努力なんて無駄無駄! 人は生まれ持った才能と環境が全てを決めるんだ! 君みたいに変な夢を持った人間はすぐ……Dead」
そういって親指を下に向けられた。
ウザい……凄くムカつくんだけど……。
「あっ怒っちゃう? いいよ? 感情のままに怒鳴りなよ。女は皆そうだ。ほら、怒らないの?」
「……違う……私は……」
「どした〜?」
落ち着け俺……こんな奴にイライラしてたらこの先耐えられない。それに、他の女と同じような目で見られるなんて更に嫌だ。
「ふぅ……そんなに人を煽って楽しいか?」
「女のくせに変な喋り方だね」
「……」
『サタナ、頼む』
『了解』
俺はサタナに身体の主導権を持たせて、コイツをボコボコにしてもらう事にした。
「あれれ? あれ? 何これ」
勇者ワタルが立っている場所だけ重力を倍にする。ワタルは地面に這いつくばる形となり、そのまま俺の右足に全ての魔力が行き渡った。
「えっ、やばくない? ねぇ」
ゆっくりと右足を後ろに下げる。
「あぶなっ! 待って待ってタンマ! 何これ!?」
「クロア辞めろ」
「っ!」
アーガスに腕を掴まれて、身体の主導権が俺に戻った。
「悪いな……コイツ極度の女嫌いでな。女を泣かせるのが趣味なんだ」
「アーガスはこんな奴を私と関わらせたのか?」
「いやぁ〜男らしいクロアならなんとかなるかなって思ったらダメだったみたいだ! はっはっはっ!」
何笑ってんだ……。
「ほら、立てよ」
ずっとうつ伏せで寝ているワタルに手を差し伸べる。
「おい勇者、事前に聞かされていただろう? クロアはちょっと変わってんだ」
「どうやらそれは本当みたいで……ふぅ……化け物め」
「ざまあみやがれ」
ワタルは捨て台詞を吐いて、どこかへと去っていった。
「クロアお前、勇者より強えじゃねぇか?」
「いやあれはサタナが……」
「でもよ、そいつ使えば勝てるって事だろ?」
「ま、まぁ……」
「契約してるんだから、そいつの実力もお前の実力に入る。上手く活用していくことだな」
「……分かった」
しかしあのワタルって奴、本当にムカつく野郎だな。1度でいいから本気で殴らせてほしい。
「おっし、そろそろ上で会議始まる頃だ。適当に王城周辺グルグルすっぞお前ら〜」
「了解〜」
団員達がアーガスの元に集まってきた。
「クロアちゃんさっきの凄かったっすね!」
「アレが邪神の力か」
「下手したら俺負けちまいそうだな」
「俺もやべぇな……」
まあサタナキアは神だからな、基本的に勝てない相手はないだろう。無属性魔法っていう神にしか使えない魔法もかなりチート級の物だし。
「そんじゃ〜ベリアストロ、王城全域に探知結界」
「分かったわ」
「ほんで〜……3人くらいは王城の中の警備。後は俺についてこい」
「「了解」」
3人でいいのか……いや3人でも十分に強いんだろうけど……心配だな。ノアとダンテがあっさり死んでしまったのを見てるからな。
「結界に何かが触れたら場所を伝えてくれ。クロアはそこを千里眼で監視、何かいたら2人くらいで行ってこい。それだけだ」
「「了解」」
「それだけ……?」
「ああそれだけだ。まっ王国騎士団全員がいるところに潜入してくるアホはいないだろうがな!」
はっはっはっ! と大きな笑い声を上げているが、普通に笑い事じゃない。一人一人が強いからそんな作成が考えれるんだろうけど、もし戦力が足りなかったら依頼は失敗だ。
「心配か?」
「まあ……」
「仲間を信じろ」
「……分かった」
流石、団員全てを家族と思ってる人の言うことは違うな。
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