女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

65話 本物のお化け? クロア壊れる



扉から中に入ると今度は暗い教室だった。
 窓は黒いカーテンで覆われていて、光が全く入ってきていない。


 唯一の明かりは部屋の真ん中の机に立っているロウソク。その周りには赤い血が沢山ついていた。


「いたっ……」


 ちょっと歩けば机にぶつかり、さっき怪我した場所に当たる。


 こんなに真っ暗な教室でリグはどこから俺を見てるんだ?
 どこかに隠れて俺を見ているんだろうけど、見えるのだろうか。もし本当にリグがいなくなっていて、俺が本当の本当にリグとはぐれていたら……。
 だ、ダメだ考えるな。今はとにかく進もう。


──ピチャッ


 なんとか真ん中の明かりの元までやってきた。
 床には血──赤い水が溜まっていて、動く度にピチャピチャと音がする。
 とりあえず、明かりが立っている机の中を調べる。


「あっ」


 何かの紙……? それと何かサラサラした物が……取り出すか。
 よく分からずに、紙と何かを奥から引っ張り出す。


「……っひっ!! 〜〜〜っ!!!」


 どうやら手に絡まりついていたのは髪だったようで、俺はすぐに振り落とした。が、その時に紙も落としてしまった。
 紙と髪……酷い悪戯だ。


「あぁどこだっ……濡れたらやばいって……」


 もし何か書かれていたら、下に溜まっている水でヒントを得られなくなってしまう。


「あったっ!」


 なんとか紙を見つけて拾い上げる。
 少しだけボヤけているが、書かれている文字は読める。


──この教室のどこかに私の目が落ちているはず。でも……そこ部屋には何かがいるの……。


「えぇ……」


 この部屋にあるっていう事は分かったけど、それらしきヒントは全く得られなかった。
 それに何かがいるって……真っ暗で何も見えない。


 魔法を使ったとしたら、俺は光魔法しか使えない。暗闇を照らすのに最適かと思うけど、ただの雷だ。そんなのを使ってしまえば、下に溜まっている水から電流が伝わって "何か" に直撃してしまう。


「いや……それもいいか……」


 その "何か" が襲ってくるとしたら、俺は早めに撃退してさっさと脱出すればいい。


「よし」


──パチチチチチッジジッ


 手と足に魔力を集めて電気を発生させる。
 すると、床の水に電気が伝わって部屋が少しだけ明るくなった。


「誰も……いない……?」


 見えたのは赤に染まった床と、綺麗なテーブル。そして後ろのロッカーだけだ。
 何もいないならさっさと目玉を探して、ここから脱出しよう。


 俺は後ろにあるロッカーを端から1つずつ開いていった。


──ガチャッ
「無い……」
──ガチャッ
「ここも……」
──ガチャッ
「どこ……」
──ガチャッ
「出ておいで〜」
──ガチャッ
「目玉〜」


 全く見つからずに、結局最後のロッカーとなった。


 俺はロッカーの前に立ち止まって、少しだけ考える。
 もしもこのロッカーに何かがいるとしたら。このロッカーを開いた瞬間に、俺に倒れてくるか襲ってくるかのどちらか。
 油断して開いた時に──


──ピチャッ


 う、後ろ?
 後ろから水を踏む音が聞こえた。俺は確実に魔法を使っている為、普通の人が通れるはずがない。


──ピチャッ……ピチャッ


 段々と近づいてきている。
 まさか……本当に幽霊……?


──ピチャッ
「いやああぁぁぁぁああ!!!!」
──ガチャッ
「わぁっ!!」
「ぎゃぁぁあああぁぁあああ!!!」
「わぁあああああ!!!」


 迫ってくる気配が怖くて、悲鳴を上げながらロッカーを開けたらそこには血塗れの人が! 俺が更に叫ぶと、その人物も叫ぶ。


「わぁぁぁぁああああ……って私が驚いてどうするの……わ、わあぁっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁああああああああ!!!」
「えっちょっ、クロアちゃんどうしたの!?」
「いやぁぁあああああ!!!!」


 俺は半パニック状態。前からも後ろからも驚かされて腰を抜かしている。
 咄嗟に後ろを向いたが、そこには誰もいなかった。


「だっ、大丈夫!? ま、まって……はい! これ! これ持って脱出してっ!!」
「目玉ぁぁぁあぁああ!?!?」
「あぁっもうっ……」


 ロッカーに隠れていた生徒もアタフタしはじめて、終いには俺を脱出口まで運んでくれる始末。


ーーーーー


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「おうクロア! お疲れ」
「っ! こんのやろっっ!!!」


 外に出て息を落ち着けていると、ソフィとビリーと一緒にリグが出てきたので思いっきり腹にパンチをしてやった。


「急にいなくなるなんて……こ、怖かったんだからな!?」
「なっ泣くなって……脱出できただろ……」
「うるさいっ! あぁもう……濡れまくったし……」
「濡れまくった?」
「腰抜かしたんだよ!」


 くそっ……赤い水がパンツまで染み込んでいる。
 まだ心臓がバクバク……もうお化け屋敷なんてこりごりだ。


「な、なぁ。このお化け屋敷に濡れるようなのあったか?」
「いいえ……?」
「え?」
「お化け屋敷は私とロッカーに隠れている人の2人だけで、制作も2人だけですけど……濡れるようなのは作ってません」


 ふ、2人……?


「ま、待って……廊下で後ろから追いかけてきたのは?」
「誰も追いかけるような人はいませんよ」
「あの時お前急に走っていっただろ。まあその時に、俺はソフィアとビリーに裏まで連れていかれたんだけどな」
「……じゃあ足を掴んできたのは?」
「掴むような人もいません」
「いやだって……ここ怪我して……確かに消毒液も塗ってもらったし」
「怪我させるなんてしませんよ」


 俺は一気に鳥肌が立った。
 いままでお化け屋敷の中で体験した事は全て、存在しない何かの仕業だという事なのか?
 確かに怪我してるし、床には赤い液体が沢山あった。人と話したし、後ろから誰かが来る気配もあった。


「しかし本当に濡れてるな……生理じゃないか?」
「〜〜っ!!」
「ま、待て睨むな! とりあえず着替えよう、話はそこからだ」


 リグにA-975号室まで転移で運んでもらって、すぐに着替えた。


「血の匂いがするぞ……生理だろ」
「人のパンツの臭い嗅ぐなっ!!」
「悪い悪い。でも、お前があんなに絶叫するなんてな」
「だから本当にお化けがいるんだってば!」


 あれはもう本物のお化け以外考えられない。
 全て理屈じゃ解決出来ないような事ばかりだ。


「はぁ……もう寿命が残り少ないかも」
「まあなんだ……1人にして悪かったな」
「謝るくらいなら最初から一緒にいてくれよ……この後私の言う事沢山聞いてもらうからな!!」
「ああ、勿論だ」


 まだ手が震えている。
 本当にお化けはいるんだ……俺は身をもって体験したし、血だって……。
 忘れろ! 楽しいことして忘れろっ!!


 とにかく現実を受け入れない為に、思考を切り替えることにした。


ーーーーー


「協力ありがとうございます!」
「いえいえ。クロアさんのあの困惑した表情良かったですね」
「リグさんも今頃、良い演技で怖がらせてますよ」
「あんなのただ赤くした水だって言うのにね!」


 ソフィアとビリー、そしてお化け屋敷を作った生徒は計画通りいって満足そうな笑みを浮かべていた。


「でも、なんで最後あんなに叫んでたんだろ」
「それは僕にも分からないなぁ……」
「突然叫んだんですか?」
「うん。突然叫びながらロッカー開けて、その後に腰抜かして倒れた」
「まさか本当に幽霊が出たとか」
「「ないない!」」


 あの時、クロアの後ろから迫ってきていたのは何者だったのだろうか。

コメント

  • ミーウィ

    誤字が少し多いです
    けど面白くて気にしません

    0
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