女嫌いの俺が女に転生した件。
64話 はじめてのおばけやしき
「クロアちゃんだ〜!」
「きゃ〜!」
何故か黄色い声援を浴びながら学園内を歩いていく。
「そろそろ着くからな」
「どこに行くんだ?」
「お化け屋敷」
前世も含めて人生初のお化け屋敷だ。難なくクリアしてカッコいい所を見せてやる。
「あっ、ここみたいだな」
「かなり手の込んだ作りだな」
「リアル……」
本物はまだ見たことないけど、生首だとか赤い血文字の看板だったりと雰囲気は完璧だ。
「あっクロアさん……ここはお化け屋敷です」
「うぉわっ!」
突然血だらけで前髪の長い女子生徒が現れたからビックリしてしまった。
「お前こんな事で驚くのか……」
「いっ、いや! 今のは仕方ない! いきなりだったんだからな!」
「お化け屋敷もいきなり驚かしてくるよ……」
「行きます!」
「はい……ではルールを説明します……」
へぇ〜お化け屋敷ってルールとかあるのか。知らなかったな。
「中に入ったら、私の目を探してきてください……どこかに落としてしまったみたいで……それを見つけたら、こっちの出口から来て私に返してください」
そういうと、ゆっくりと髪を掻き分けて微笑んだ。
その片目は真っ暗だった。
「ひぃっ!?」
「お、おい最初でビビリすぎだって……」
「と、とにかく早く!!」
「分かったから落ち着け」
「最後に……大事な事があります」
「ん……?」
大事な事……?
「これを守っていただかないと……ふふふ」
「は、早く言ってくれ……」
「絶対に……大声を出さないでください」
「ど、どうして?」
確かにさっきからお化け屋敷の中からは何も聞こえない。まるで誰もいないかのような静けさだ。
「もし大声を出してしまったら……中にいるお化け達が一斉に集まってきます」
「っ……分かった……他にはもう無い?」
「これだけです……早く目を……」
「分かったから! 行くぞっ!」
「お、おう」
なんでそんなに怖がらせに来るかなぁ……目を目をって、それは分かったから早く探せばいいんだろ!
いや、お化け屋敷だから驚かせに来るのが普通か。
入口から入ると、早速肌寒い空間に出た。
井戸があったり、何故かその横にクローゼットがあったり。不思議な空間だ。
「目を探すんだな」
「じゃあ井戸から……リグ頼む」
「お前一番ビビってないか?」
「そんな事ない」
大声を出せないから小声で話しているが、本当に静かだ。周りに人が隠れているのだろうけど、物音一つ聞こえない。
「じゃあ見てくるから待ってろ」
「ああ。……あっ待って、やっぱり怖いから一緒に」
「結局怖いんじゃねぇか」
離れてると怖いんだよ。手を握るくらいいいだろ。
「じゃあ一緒に除き込むぞ」
「……ああ」
俺とリグは、ゆっくりと井戸の中を覗き込んだ。
教室内に作ってあるから、井戸の深さは全くない。中には特に何も無いようだ。
──ふぅ
「っっ!!」
「どうした?」
「い、いま……息かけた?」
「ん? 俺はずっと井戸の中見てたぞ」
「……」
いま確実に、耳元で息を吹きかけられた感覚がした。
人の気配は全くないのに、誰がどうやって……。
「まさか本当にお化けが……」
「ビビリすぎだって。息くらいなら風魔法で作れる」
「いやでもだって……ふぅって息を吐く声が」
「そんなに怖いなら俺にしがみついててもいいんだぜ」
「いや……それはいい──」
──ふぅ
「やっぱお願い!」
さっきから俺の後に誰かがいる。ずっと耳元でふぅふっしてる……。
「次はクローゼットだな」
「よ、よし……」
「なんで耳抑えてるんだ?」
「念の為」
「まあいい。開くぞ」
「うん」
井戸の横にあるクローゼット。目よ……あってくれっ!
リグがクローゼットを勢いよく開いた。
「えっ……きゃっ!」
「きゃっ……て……」
クローゼットの中からリアルな人形が倒れてきたらビックリするだろ。それを俺に向かって倒れてきて……腰抜かしたじゃないか。
「た、立たせて……」
「はぁ……本当にさっきまでの威勢はどうした」
その点に関しては謝りたい。自分でもビックリするくらいビビってるし、女々しい悲鳴をあげたのも恥ずかしい。
「っていうかこの人形、お前じゃないか?」
「えっ?」
クローゼットを開けた時に倒れてきた人形。よく見ると、血塗れの俺だった。
「嘘……」
「こんなの作れるのはアイツしかいないだろう」
「あっビリーか。ってことは、ビリーはお化け屋敷の制作に関わってる?」
「いやそれはない。もしかすると、俺達より先にビリーとソフィアがお化け屋敷に来て、驚かせに来てるのだろう」
アイツら……後で覚えてろよ。
「とりあえずこの部屋には無さそうだ。先に進もう」
「よし……」
「……」
リグを腕をがっしりと離れないように掴んで次の場所へと進む。
ーーーーー
どうやら今度は1本の長い廊下のようだ。
「真っ直ぐ進めばいいのか」
「うわっ……壁……」
壁に手形が付いていたり、顔に見えるシミ。何故か可愛い人形が置いてあったりしてある。
「進むぞ」
「ゆっくり行こう……な?」
「分かったよ」
──ダンッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ!!」
「ぎゃああぁああああああああ!!!」
「あっおい待てっ!」
後ろから何かが追いかけてきたので、俺は振り向かずに一目散に走っていった。
「はっ……はぁ……はぁ…………あれ……」
リグがいない。
少し距離が離れただけだろう。ちょっと待てばすぐに来るよな……。
「…………リグ?」
ーーーーー
ーーーーー
「…………リグ?」
ビビってるビビってる……。
「お前ら突然なぁ……」
「いいでしょ……クロアちゃんを驚かせる為だよ」
「僕とソフィ2人で考えたんです」
突然ソフィとビリーが現れて、セットの裏側に連れてこられた。クロアが俺がいない事に気づいて凄い顔してる……心が痛いけど、反応も見たい。
「分かった……今回だけはお前らに協力する」
「やったっ!」
「あっ、静かにしてください」
俺は気配を消して、クロアを見守ることにした。
「ぐすっ…………リグ……」
あれ……泣いてね?
「どうせ……驚かそうとしてるんだろ……許さない」
うわぁ後で会った時に酷く怒られそうだ。
クロアは諦めて1人で進むことにしたようだ。両手で拳を握って、ハッスルハッスルとしたところで歩き出した。
「ひぃやぁっ!?」
足を掴まれて転んでいる。元男のくせに情けない声あげやがって……可愛いヤツめ。
ーーーーー
くそぉ……なんなんだよ。
「うぅ……」
突然足捕まれたら転ぶに決まってる。膝擦りむいちまったじゃねぇか……。
「痛った……」
「ごめん……」
「え……?」
何故か俺の足を掴んだ手の人物が、壁越しに謝ってきた。
「い、いや大丈夫……うん」
「良かった。はい消毒液」
「あ……ども」
なんだこれ。
とりあえず傷口に消毒液を塗った後、立ち上がって次に進むことにした。
「よし……絶対に1人で脱出してやる……」
もう1度気合を入れ直して、先に見える扉へと進んだ。
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