女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

58話 勇者の能力は最強の敵

 次の日。俺と学園長、そしてリグとその他先生と一緒に騎士カフェの準備を会議室でしていた。
 他にも騎士カフェでコスプレをする人が生徒に何人かいるのだが、今日は来ないそうだ。


「まずクロアさん、着替えてくれる?」
「なんで今から?」
「雰囲気作りよ」
「そ、そうか……」


 とりあえず王国騎士団専用の鎧を着て、作業に取り掛かる。


「クロアさ〜ん、その紙取って」
「はい」
「クロアさん喉乾いたでしょ」
「あ、ありがとうございます」
「クロア〜手伝ってくれ〜」
「待て〜」


 あっちに行ったりこっちに行ったり大変だ。俺の名前しか呼ばれていない気がする。


 紙で花のような飾りを作ったり、騎士カフェの看板を作ったり。更には料理のレシピまで今考えているのだ。
 他にも騎士の格好をした人のセリフ等。メイドカフェと同じような事をさせようと、リグが先生達を誘導するんだ。その度に俺がそれを止める。
 本当に何なんだ……。


 作業が始まってからかなりの時間が経った。先生の仕事は既に終わらせているので、今日1日がこのまま終わりそうだ。


「こ、こんにちは〜」
「っ?」


 会議室の扉が開かれて誰かが入ってきた。


「おぉ勇者様! どうかしましたか?」
「手伝おうと思って」
「勇者様は何もしなくて大丈夫ですよ」
「そうですよ」
「いや……手伝いたいんです」
「そうですか。では……好きなところで作業に入ってください」


 周りの先生達が勇者サトウを部屋の中に招き入れてしまった。


「や、やぁ」


 予想通り、サトウは俺とリグリフの元にやってきた。


「その鎧似合ってるね」
「そうですか」


 なるべくサトウを意識しないように、リグの足元をチラチラと見ながら作業を続ける。


「お、俺も手伝うよ。これをくっつければいいんだね」
「あっじゃあ良かったらここ抑えてくれますか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。……こんな風に紙同士をくっつけるだけですけど、勇者様は暇だと思いますよ…………」


 し、しまった。ついデレデレして話してしまった。
 チラリとリグの方を見るが、黙々と作業を続けている。もしかして機嫌を損ねてしまっだろうか……。


「リッ、リグッ……手伝おうか」
「ん? あぁ頼む。俺不器用だから助かるよ」


 良かった。機嫌は普通で、ただ集中していただけか。


「っ……」


 来た。サトウを事を今まで以上に意識してしまう現象。ただ、これがサトウの仕業なのかは分からないので、疑うような事は出来ない。


「ん?」
「お願い……」
「……分かった」


 意識を阻害されないよう、リグに自分の肩を当てる。


「クロアさん器用なんですね」
「えっ? あ、はい。こういうのは得意なんです。勇者様も……器用……で、すね」
「クロアさん程じゃないよ」
「勇者様の方が器用ですよ〜」


 くっ……話したい! サトウと楽しく話したい……! でも、これは本心じゃなく何らかの能力による影響……。


「……クロア、体調が悪いなら休むか。先生、俺少しクロアを休ませてきます」
「分かりました。クロアさん、体調が戻っても無理しないようにね」
「はい……」


 リグが気を利かせてくれて、会議室の隅の方に連れてきてくれた。
 サトウから離れる度に胸が痛くなる。拒絶してしまっているようで、罪悪感が働く。


「っ……ふぅ……」
「大丈夫か」
「何とか大丈夫……」


 サトウに対する意識が戻った。


 今は別の女性の先生がサトウの手伝いをしているので、今のところ安全そうだ。


「やっぱり何らかの能力だと思うか?」
「多分……急に意識が変わるんだ」
「確かに……あの見た目で大勢の女子にモテている時点で、何かあるな」


 という事は、男に対しては無効の能力か。


「女限定で好かれる能力……」
「厄介だな。前世のラノベでそんな能力があったから、今は耐えれてるが……もし知識が無かったら今頃勇者の虜だろうな」
「そんな事言うな……俺は絶対に耐えてみせる」


 モテる系の能力が、こんなにも厄介な能力だとは思わなかった。本当にチートじゃないか……あの勇者は。
 恐ろしい……でも、嫌いになれない。


「まだ胸がドキドキしてる……」
「……」
「っ!」


 突然リグがキスをしてきた。それも気配を消して。


「……これで少し良くなるなら、って思ったんだがどうだ」
「ありがとう……リグ」


 傍から見たらバカップル。しかし俺とリグは今大きな敵と戦っているのだ。


「よし……再開しよう」
「少し離れたところがいいな」


 学園長と一緒に作業することにした。


ーーーーー


「大変そうね」
「……学園長は何ともないのか?」
「何がかしら?」


 学園長の横に行って、いつもと変わらない様子に違和感を持った。


「勇者のこと、変に意識したりしてます?」
「する訳ないじゃない。対策済みよ」
「っ! やっぱり勇者は何か能力を?」
「学園長さん、頼む……クロアが狙われているんだ」


 必死に訴えてくる俺とリグを見て、学園長は少し笑った。


「勇者のあの能力は、王国騎士団幹部のジェイスと同じように世界全てに影響する能力だから難しいわ」
「難しくてもそこをなんとかっ……!」
「……私の能力じゃほとんど意味が無いわ」
「どういう事だ?」


 王国騎士団幹部の学園長でも難しいという能力……ジェイスとも互角のベリアストロさんも勇者に苦戦するという事なのか?


「私の能力は……」
「……」
「……」


 ついに学園長の能力が明かされる。


「指定した対象が私に近づいた時、対象は無力になる能力……この事は誰にも言わないでね」
「無力に……?」


 それはどういう事だろうか。


「魔力、能力、それらが全く使えなくなるのよ。例えば、今クロアさんは魔法が使えないわ」
「えっ…………本当だ……」


 身体の中の魔力が感じられない。


「これが学園長さんの能力か……」
「これでも団長のアーガスさんには勝てないのか?」
「アーガスは化け物なのよ」
「そうなのか……」


 つまり、学園長の近くにいないと勇者の能力から逃れる方法は無い……という事か。


「学園長。クロアとこれから行動を共にしてくれないか?」
「それは私にとって嬉しい事ね」


 俺を見てニコッと微笑んだ。


「でも、クロアさんは私に心を許してないでしょう?」
「……いえ、勇者の能力から逃れる為なら……学園長に何されようと近くにいます」


 俺は覚悟を決めた。学園長にいつ襲われるか分からないリスクを背負って、勇者の能力から逃れる。


「……嬉しいわ……クロアさんが私に心を許してくれるなんて。じゃあ早速、これが終わったら私の部屋で一緒に寝ましょう?」
「うっ……キッツ」
「クロア、本当に大丈夫か?」


 大丈夫か? って、お前がそうするように頼んだんだろうが。


「ソフィに……しばらく一緒に寝る事はできないって伝えてくれるか?」
「ああ、分かった」


 とりあえず、歓迎会が終わるまでは学園長と行動した方が良さそうだ。

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