女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

56話 忘れた頃にやってくる

 あれは数時間前の事だった。


ーーーーー


「クロアちゃん! 私とビリー君気が合うかも!!」
「……は?」


 突然、ソフィが振ったはずのビリーを連れてきたのだ。それも俺の人形を背中に抱えて。


「ソ、ソフィ……それ……ここまで運んできたのか?」
「うんっ! 凄いよねこれ!」
「とっとりあえず部屋に入ろうか!?」


 2人を人形と共に部屋の中へと入れた。


「はぁ……で、詳しく話してくれ」
「うん。この前ビリー君に部屋に誘われてね、この人形見せられたの」
「それで?」
「この人なら私の夢を叶えてくれるって!」
「どうしてそう思った……」


 ソフィの夢を聞くのが怖い。


「すみません」
「い、いやいいよ。ソフィに彼氏が出来る事は良いことだし」
「そ、そうですね」
「彼氏? 私はクロアちゃん一筋なんだけど」
「えっ」


 ビリー君が驚いている。


「ま、待て。ソフィはなんでビリーと一緒に?」
「この人形の為!」


 俺の人形の手を動かして決めポーズを取っている。恥ずかしい……。


「そ、そうなんだ」


 これ以上2人の関係に深く入るのは危険そうだ。


「ほら! これパンツも脱げるんだよ!?」
「やめろっっ!!」


 脱げそうになったパンツを俺はすぐに戻した。
 人形だとはいえ、見た目がほぼ俺の同じなので恥ずかしいのだ。人前でパンツ脱がされる俺の気持ちを考えろ。


「ビリー君、こんなところまで作って凄いよね」
「ほとんどイメージですよ。実際に見る訳にはいきませんし。
 クロア先輩と話してから更にイメージが湧いたんです!」
「私がクロアちゃんの体の感触をビリー君に伝えて──」


 なにもきこえな〜い。変態2人を部屋に入れたのは俺だけど、誰か助けて〜……。


「──!」


 どうやら話が終わったようで、ドヤ顔のソフィを無視して話し始める。


「あんまりリアルに作ると幽霊が憑依しちゃうよ」
「先輩。そんな子供騙しには騙されませんよ。幽霊は架空の生き物!」
「でも、昔は竜も架空だったんでしょ?」
「そ、それは……でも! 僕は幽霊なんて怖くないです!」


 そんな事言ってると、いざ幽霊が出た時にチビっちゃうからな。


「もうこれ以上、私の身体を再現するのはやめてくれ」
「えぇ……」
「ビリー君の才能を認めてあげてよ」
「認めてるけど……努力の方向が違うんだって」
「うぅ……分かった。ね、ビリー君」
「……はい」


ーーーーー


ーーーーー


 そして今日。


「ほら! モチモチ肌!!」


 ソフィが俺の部屋で人形を持ってはしゃいでいる。


「なんでそれ持ってるんだ……作らないって約束したよな?」
「作らない約束は守れなかったけど、この人形貰っちゃった!」
「守れよ……って、貰った?」


 あのビリーが宝物の人形を人に譲った、だと?


「うん。成長した技術で、1から作り直したらもっとクオリティ高いのが作れるはずって言ってた」


 まだ作る気なのか……そろそろ説教した方が良いな。


「これは私の宝物!」
「あぁそう……他の人には見せるなよ」
「自慢してきちゃった」
「……」
「痛い! 痛いです!!」
「お前は説教しないといけないみたいだなぁ?」
「ごめんなさい」


 それから俺の長い長い説教、というより人形の扱い方について必死に訴えたのであった。


──「はぁ……はぁ……」
「凄い……人形マスターだ」
「うるせぇ……とにかくこれからは部屋の外に出すな!」
「はい!」


 アホの子ソフィがやっと分かってくれた。


「あっそうだ! 学園長にも見せたらよろ痛いっ!」
「早速外に持っていこうとするな!!」
「そうだった!!」


 ったく……目を離したら俺に致命傷が入るじゃないか。


「……ん? そういえば」
「どうしたの?」
「いや……この前学園長に話があるって言われてたんだよな」
「話?」


 確か……歓迎会の準備だとかの話だっけか?


「ソフィ、その人形絶対に外に出すなよ」
「うん!」


 俺は部屋から出てリグを探した。そろそろ転移魔法を教えてもらいたいものだ。


ーーーーー


ーーーーー


「あっいたいた。お〜いリグ〜!」
「おっクロア。なんだ?」
「学園長のとこまでよろしく〜」
「またか……」
「つべこべ言わない! 転移使えるのリグしかいないんだからいいだろ」
「分かったよ」


 いやぁリグは便利だな。


ーーーーー


「まずは……何から話そうかしら」
「そんなに話があるんですか?」


 珍しく学園長が真剣な表情だ。俺は気を引き締めて、椅子に浅く座る。


「1つ、新入生歓迎会の出し物。これは先輩としてしなきゃならない事ね。クロアさんは10年近く眠っていたから経験は無いでしょうけど」
「……あれ? でも目を覚ましてから1年は経ったはずだけど?」
「そんな頻繁に歓迎会してたら生徒が疲れるわ」


 なんていい加減な歓迎会だ。


「2つ、平和教が大きな動きを見せたわ」
「平和教……詳しく教えてください」
「あと一つあるから簡単に教えるわね。平和教は本格的にクロアさんを捕まえようと動き始めた」
「そんな……」


 邪神復活を目論む平和教が、ついにか。最近全く出てこないから作者が忘れてるのかと思ったら……準備期間だったのか。


「3つ、ティライが釈放されたばかりの誘拐犯に誘拐された」
「……はい?」
「これは数日前の話ね。昔、子供を狙った誘拐事件が近くで置きてたのよ」
「は、はぁ」
「その犯人がこの前釈放されて、早速誘拐したのがティライって訳ね」


 なんでティライが子供を狙った誘拐事件の犯人に誘拐されてんだ。見た目子供じゃないだろ。
 中身は子供っぽいけど……。


「どれから話した方が良いかしら」
「と、とりあえず……目先の話なんで歓迎会から」
「そうね。じゃあクロアちゃんの出し物を一緒に決めましょう」


 平和教が本格的に動き出して、ティライが誘拐されたというのに平和な会話が出来るのは、残り二つの問題はそんなに難しくないからだ。
 平和教が動くなら王国騎士団に頼ればいいし、ティライが誘拐されてるなら探索依頼をしてもらえれば良い。


 一番大変そうなのが1番だからだ。

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