女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

55話 ソフィと異常性癖は合う



ガチャッ


 ソフィが帰ってきた。


「どうだった?」


 俺がそう尋ねると、ソフィはゆっくりとこちらを向いて。


「断った」
「え?」
「断ってきたよ。私にはクロアちゃんがいるから無理ですって」
「……」
「そしたらその人が一気に落ち込んで、ずっと下向いたまま 『殺す……殺す……』 って呟きながら寝た」


 やばくないか……? 絶対その人振られて精神的に大ダメージだよね?


「私殺されるの?」
「いや、クロアちゃんはいつも私と一緒にいる人だよって言ったら、急に元気になったよ」
「なんで……というか! なんで振ったんだ!?」
「だってクロアちゃんが言ってこいって」


 あぁ……ソフィもそこまで馬鹿じゃなかったって事か。


「クロア。どうする」
「仕方ない……ソフィには新しい彼氏を見つけてもらうとしてだ。振った男の子はどうしてるんだ?」
「今は部屋にいるよ」


 なんでクロアが誰か知った途端に元気になったんだ……?
 まあいいや、落ち込んでいないのならもう大丈夫だろう。


「はぁ……この話は終わり終わり」


 結局ソフィには彼氏が出来ずに終わった。


ーーーーー


ーーーーー


 あれから何日か経った頃。いつもの授業を終えて教室から出た時だった。


「クロアさん! これっ!」
「……?」


 頭を下げていて顔がよく見えないが、金髪の男子生徒が俺に紙を渡してきた。


「これは……ってあれ?」


 気づいた時には、もうその姿は無かった。


 部屋に戻って紙に書かれている事を確認すると……


──クロアさんへ。
 僕はクロアさんに一目惚れをしました。もしよければ付き合ってください。
  返事は 261 まで


「あっ……」


 これ殺されるやつだ。
 261ってソフィに告白した人の部屋じゃないか。その人が俺に告白……身長や声からして年下。まあとりあえず行ってみるか。


 俺は紙をポケットに入れて、261号室へと向かった。


ーーーーー


ーーーーー


 261号室前。俺が扉をノックしようとした時だ。


「クッ、クロア先輩っ……!」
「あ」


 何故か横に金髪の男子生徒がいた。コイツが手紙の差し出し人だ。


「こんにちは」


 相手は殺すつもりで来てるだろうから、なるべく警戒心を見せない笑顔で接する。相手は年下だ。負ける事は無い。


「こっこんにちは……とりあえず、部屋にどうぞ」
「はい」


 密室に誘導してからの殺人だろう。なるべく扉に近い位置に居た方が良さそうだ。


 部屋の中に入ると、とても綺麗に整頓された荷物が目に入ってきた。


「すごっ……」


 自分の部屋のベッド──荷物置き場に慣れた後に、この荷物の整頓の方法を見て、思わず声に出して驚いてしまった。


「ど、どうぞ……座ってください」
「あっはい」


 椅子を出されたので、それを扉側に近づけて座る。
 男の子は俺と向かい合うように座った。武器は持っていない。


「……」
「……」
「あっ返事……だね」
「はい。……どう思いますか?」


 うん。俺を殺すつもりなのだろうけど、無駄だ。


「まあ……隠し方は上手いよね」
「え」


 殺意を完璧に消し去るとは凄いな。まるで本当に殺す気が無いのでは? と思ってしまう程殺意を感じられない。


「バ、バレて……ましたか」
「私を舐めてもらっちゃ困る
「はいっ……すみません……悪気は無かったんです……」


 悪気は無い? 人を殺そうしてる事は悪意そのものだろう。


「わざわざ隠してまで……本当にごめんなさい」
「いいよいいよ。私は何とも思ってないから、隠しても隠さなくてもいいよ」
「い、いえ……恥ずかしい……ので」


 恥ずかしい? コイツは殺意が恥ずかしいのか?


「じゃあ……1度全て出し切ったらいいんじゃないか? 何か吹っ切れるかも」
「吹っ切れる……大丈夫なんですか?」
「何が?」
「……分かりました……」


 おぉ、ついにやる気になったか。ここで一度力の差を見せて殺意を消し去ってやる。


 男の子が立ち上がって、綺麗に整頓された荷物の方に行った。武器でも取るのだろう。


「うぅ……本当にごめんなさいっ!」
「……はっ!?」


 取り出したのは、俺とほぼ同じ見た目をした人形。細かい部分、質感、更には関節まで。まるで生きているかのような見た目の人形を突然抱き抱えて……。
 男の子は人形の口にブチューっとキスをした。


 息を切らしながら人形をベッドの上に置いて、俺の方を見た。


「悪気は無かったんです……僕が異常なのは分かってます……でも、クロアさんに一目惚れした時から……ずっと観察して、自分で人形を作ったんです」
「えぇっと……」
「クオリティ……低いですよね。クロアさんはもっと美しい……。僕は偽物のクロアさんで、欲求を満たしてました」


 待て……早いはずの頭の回転が遅くなっている。どういう事だ……? 俺を殺すんじゃ……まさか本当に殺意が無かった?
 じゃあこの人形……欲求……本当に一目惚れ?


「普段は普通の人を演じているんですが……好きな人の事になると抑えきれなくて、部屋で1人の時にこの人形を使ってました。
 ……本人の前で全部出し切ると、なんだかスッキリしました。本当にありがとうございます。そして、ごめんなさい」
「う……ぅうん」


 なんだろう……無駄に警戒してた俺が馬鹿みたいだ。そしてこの男の子はどういう性癖をしてるんだ……人形作る技術高すぎるのに、努力の方向がおかしいだろ。


「えっと……君、名前は?」
「ビリーです」
「この人形はとりあえず捨ててくれる?」
「そう……ですよね。これは僕の大事な宝で……っ……」


 な、なんで泣くんだよ! イケメンで異常性癖で裁縫が上手い! 個性の塊が一つ宝を失ったところで、自分の中に宝は沢山あるだろ!


「ビリー君。君にとってこれが大事な物なのは分かった」
「っ!」


 肩を触ると、泣きながら俺の方を向いた。


「……でも、自分で宝を作り出せる程の技術があるなら、その技術こそが宝なんじゃないかな?」
「僕に……何かできます……かね……っ……先輩に……罪を償……えますかね……」


 な、なんだ……こんな異常性癖の男の子なのに、優しく抱きしめて上げたくなる気持ちは……俺に母性本能が……。


「人を好きになる気持ちと、その為に頑張れる心。それが一番の宝物だ。それさえ大切にしていれば、いつかきっと幸せは訪れる」
「……先輩……」
「ビリー君は、良い見た目をしてるけど残念な性癖だよね」
「うぅ……ごめんなさい」
「もしかして、その性癖のせいでソフィにも振られたのかな?」
「……それは普通に振られました」


 そ、そうなのか。あんまり聞きたくない答えだった。


「ビリー君は、私の事が好きなの?」
「好きです……見た瞬間に好きになりました」
「そうやって色んな人に告白してるの?」
「……はい。……好きになっちゃうんです」


 あぁ〜……つまり、好きな人が多すぎて苦労するタイプか。


「……」


 何か丸く収まる方法は無いのだろうか。これ以上ビリーに関わっていても得することは無いけど、ここでビリーの性癖を戻した方が良いのか。
 それとも……あぁ何も思いつかない。


「先輩……僕、もうこの人形が無いと生きていけないです」
「えぇ……」
「どうしても捨てきれませんっ!」


 そんな事言われても……。


「お願いします……」
「うっ……」


 そんな目で見られると……あぁ手が伸びてしまう。


「分かった…………その代わり約束。今度から好きな人にすぐ告白するのをやめる事。しっかりと仲良くなってから、告白するんだよ」
「はい…………胸……柔らかい」


 コイツどさくさに人形の修正点見つけやがった。


「と、とにかく。私はもう付き合ってる人がいるから、ビリー君と付き合う事はできない」
「……はい」
「なるべく自分の趣味と会う人を見つけること」
「はい」
「……よし。これ異常性癖を悪化させないでね」
「はい」


 最後に頭を撫でて、俺は部屋を出ていった。


 胸に大きなモヤモヤが溜まってるけど、これ以上自分に出来ることは無い。性癖の対象にされて気持ち悪いけど、あんなに悲しそうな顔をされると罪悪感が生まれる。
 ああいう人もいるんだな、と俺は心の奥深くに締まって全てを忘れることにした。


ーーーーー


ーーーーー


──それから数日後。


「クロアちゃん! ビリーがついにクロアちゃんの胸の質感を完璧に再現したよ!!」


 ソフィとビリーが付き合い出して、同じ趣味同士で仲良くなっていた。


「どうしてこうなった……」

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