女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

46話 本当の幸せとは



「クロア先生〜今日どうしたんですか?」
「……あっ、ん?」
「先生今日ずっとボーッとしてるけど、大丈夫ですか? 俺達皆心配してるぞ」


 授業中なのについついボーッとしてしまった。後輩からも先輩からも心配されている。


「だ、大丈夫だよ。さ、何か分からない事があったら聞くんだよ」
「先生……もしかして、とある先生に暴力を受けた……とかいう噂。本当なんですか?」
「えっ? 暴力? 無い無い!」


 そんな噂が広まっていたのか……誰が広めたのだろう。あの事件は先生以外誰も知らないはずだ。


「ほら、先輩だからってサボって良い訳じゃないぞ。さっさと練習!」
「へ〜い」


 最近、俺の様子がおかしい事に気付く人が増えた気がする。俺自身はそこまで変わってないと思うのだが、色んな人から変わったと言われる。
 リグとのあの出来事があってからだ。……何なんだ。


ーーーーー


「クロア先生お疲れ様でした!」
「お疲れ様」


 授業が終わって、資料を片付けようとした時だった。


「「クロア先生!」」
「ん?」


 何故か生徒達が俺の周りに集まってきた。


「……せ〜のっ」
「「いつも頑張ってるクロア先生にっ! 皆からサプライズがありますっ!」」
「さっ……サプライズ?」


 突然の状況に驚きつつ、なるべく冷静を保った。


 すると、目の前にいた生徒達が横に避けて、1本の道が出来た。


「えっ?」


 前には、何かの紙と綺麗な花の輪を持つ女子生徒が2人。
 ゆっくりと俺の方に近づいてきて、目の前に来たところで紙に書かれている文を読み始めた。


「優しいクロア先生へ──」


──優しいクロア先生へ。
 いつも1人で大勢の生徒達に色んな事を教えてくれる先生には、とても感謝しています。いままでありがとうございました。そして、これからも……よろしくお願いします。


「「よろしくお願いしますっ!」」


──今日ここに、【大変よく頑張ったで賞】を、表彰します。




 そういって、少しだけバランスの悪い文字で書かれた表彰状が渡された。


「っ……」
「先生、泣くのはまだ早いです」


 あれ……俺なんで泣いてるんだろう。こんなに泣きやすかったっけ……。
 低学年の女の子が、綺麗な花で作られた輪を一生懸命俺の頭に乗せようとしてきたので、姿勢を低くした。


「ほっ」
「……ありがとう……っ……」
「せ〜のっ」
「「クロア先生!!」」
「「僕達」」
「「私達は」」
「「クロア先生が大好きです!!」」


 あまりの嬉しさに、俺はその場で膝を付いて泣いた。


「ありがとうっ……本当に……っ……嬉しい……」


 生徒達の拍手に包まれながら、その日の授業は終わった。
 皆、俺が教室から出ていくまでずっと残っていたので、最後に大声で 「ありがとう」 と伝えて教室を出た。


「……っ……」


 頭に花の王冠、手には表彰状。それを大事に抱えながら自分の部屋まで持って帰る。
 こんなに嬉しい事は初めてだ。まさかサプライズというのが泣くほど嬉しい物だとは思わなかった。


ーーーーー


「クロアちゃんどうしたの!? 目が赤いよ!」
「違う……ちょっと嬉しい事があっただけだ」


 部屋に戻ると、ソフィとティライがいた。


「わぁ綺麗……これ貰ったの?」
「ああ。いつも教えてる生徒達にサプライズで……そこに飾ろうと思う」


 窓際に花の王冠を置いた。


「凄い……完全に手作りで……どれも綺麗な花だ」
「この表彰状も手作りだね」
「……っ」


 俺の為に作ってくれたと思うと、段々と枯れはじめていた涙が更に出てきた。


「クロアちゃん、良かったね」
「……うん」


 俺も何か生徒達に返してあげたいけど……俺には何も出来ない。それが少しもどかしい。


「泣くほど喜んでくれたなら、生徒達もきっと喜んでるよ」
「そう……だな」


 なかなか涙が止まらない。最近、俺の心が感情的になってきている気がする。……まるで女のようだ。


ーーーーー


「良かったじゃないか」
「ああ。嬉しすぎて泣いちゃったけどな」
「ははははっ、幸せだな」


 リグにその事を話すと、まるで自分の事のように喜んでくれた。


「明日の授業……更に頑張らないとな」
「無理はするなよ」
「分かってる」


 座ったままリグに体重を預けると、両手で身体を包み込んでくれた。
 人に好かれるというのは、世界一幸せな事なんだろうな。

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