女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

44話 王国騎士団幹部の化け物



 童貞先生に襲われそうになる、という騒動から数日後。俺は学園長と一緒に王城まで来ていた。


「君があのクロアちゃんだね。話は聞いてるよ」
「俺様と一緒に働ける事を光栄に思え! ガッハッハッ!」
「……よろしくね……」


 個性の強いメンバー勢揃い。全て覚えるのは大変そうだ。


「ども! 俺はジェイスっす!」
「あっ……ジェイスッスさんよろしく」
「ジェイスッスじゃなくてジェイスっす!!」
「ジェイスッス」


 突然話しかけられたと思ったら、変な名前の人だな。この人は覚えれそうだ。


「この人が王国騎士団幹部。私に並ぶ実力者よ」
「この人が!?」
「なんでそんな目で見るんすか〜……こう見えても強いっすよ!」


 そういって腕をパンパンと叩いて筋肉を見せているようなのだが、細長い手に力強さは感じられない。
 髪も長くて、前髪で片目が隠れている。一見根暗な人。話すとチャラい人って感じだ。


 どこが強いのか分からないな……。


「……クロアちゃん、私、ノア……よろしく……」
「あっ……よろしく……冷たっ」


 水色の髪をした暗い女性、身長はかなり低い。そして体温もテンションもかなり低い。


「俺様はダンテ! よろしくなっ!!」
「よろしく」
「私は──」


 ──こんな感じで、初めて会う人達と挨拶をしていって。ほとんど名前を覚える事が出来なかったが、皆個性を持っている。


「さて、自己紹介も終わった事だし。最後にクロア、皆の前で自分の能力を披露しろ」
「え」


 団長のアーガスさんからの無茶振りがやってきた。
 すると、周りの団員達が待ってましたと言わんばかりの歓声を上げた。


「大丈夫だ。ビリーが結界を張ってくれるからどんな事をしても問題ない」
「あ……分かっ……た。どこでしたらいいんだ?」
「あそこのステージに上がって、好きなタイミングでやってみろ」


 うわぁ……随分と目立つ場所にあるな。さっさと行って終わらせよう。


 俺がステージの上に上がると、歓声が更に煩くなった。


「えぇっと……じゃあ皆、耳を抑えていてくれ」


 タメ口で喋るってかなり苦しい。


 皆が良く分からないような顔をしながら耳を抑えたのを確認し、俺は全身の魔力に集中する。


「……」


──バチッ


 来た。全身の20%が電気となってかなりの速度で動けるようになった。……が、ステージが意外と狭い。
 とりあえず、ステージの端から端まで2往復してみた。


──ドンッ! ドンッ!


 少し速めに動くだけで大きな轟音がする。通った床が黒く焦げている。


「あっ…………以上……だ」


 焦がしてしまって……大丈夫だろうか。


「すげぇぞクロア!!」
「なんだ今の!? 見えねぇ!!」
「……凄い……」
「うぉぉ!!」


 化け物だらけの王国騎士団で、何とか最初の印象は良かったのではないだろうか。


「凄いなぁ……ベリアストロから聞いてはいたが……まさかここまでとはな……」
「焦げたけど大丈夫だったか?」
「ああ問題ない。すぐに治るからな」


 本当だ。黒く焦げた部分が少しずつ元の木の色に戻っていっている。


 歓声を浴びながらステージを降りると、学園長が駆けつけてきた。


「完璧だったわ」
「あ、ありがとう」


 学園長も喜んでいるようだ。第一印象はどうやら完璧に与えることが出来たようだな。


「お前ら! 今日からクロアと仲良くしろよ!!」


 アーガスさんがステージ上で大声を上げると、団員全員、そして学園長も大声で答えた。


ーーーーー


ーーーーー


「ほら! 飲め飲め!!」
「未成年だから……」
「可愛いなぁ……俺の娘よりも可愛い」
「ペロペロしてぇなぁ」


 突如宴会が始まり、皆があっという間に酒で酔っ払ってしまった。
 俺は大勢の団員達に囲まれてビクビクと小さくなっている。


 頭をガシガシと触られても抵抗できない。凄く緊張する。


「まだ15歳なんだって? 俺は20で入ったからクロアの方がすげぇな」
「私……18歳で入った……」
「俺様は19だ! 1違うだけだな!!」
「私が……勝った……」
「なんだとぉっ!?!?」


 俺様系の人……ダンテだっけか。その人の両手に大きな火の玉。
 暗い女性、ノアの肩の上には鋭い氷が浮かんでいる。


 炎と氷の対立……凄く熱いし寒い。


「こらこら! クロアちゃんの前で喧嘩はこの僕が許さないっすよ!」
「ちっ……」
「熱くなるのが……悪い」
「あぁ!?」
「やめるっす!」
「……」


 やっぱりジェイスッスさんは強いのだろう。あんなに激しく魔力を練っていた2人があっという間に静かになった。


「クロアちゃん、喧嘩なんて許せないっすねぇ?」
「同意を求められても困る」
「あっ、ちなみに僕の名前! ジェイス!! っすからね」
「ジェイス。覚えた」


 ジェイスッスさんではなかったのか……しっかり覚えないとな。ジェイスさんが学園長ベリアストロと並ぶ実力を持っていると……そしてそれ以上に強いのがアーガス。
 本当にどうなっているのか分からないな。


「ジェイスさんは強いのか?」
「強いっすよ! もう無敵っす! アーガスさんは例外っすけどね」
「ちょっとどういうのか見たいんだけど」
「いやぁ〜それは無理っすね。悪いっすけど、僕が能力を使っても誰にもバレないんすよ」


 バレない……? それほど隠密性のある魔法を使える、という事なのだろうか。


「唯一分かるのはベリアストロだけっす」
「ちなみに……どういった能力か教えてもらうのは?」
「それはいいっすよ! 死ぬっす!」
「……死ぬ?」
「本当に死ぬ訳じゃないっすけど、存在を幽霊に変えるんっすよ。誰にも存在は認識されないし、消えている間は、この世に存在していたという証拠も消えるっす」


 な、なんだそれ……世界まで関係する能力なのか。


「それで幽霊になってから、相手を一方的に切り刻むっす!!」


 そういってドヤ顔を決めるジェイス。根暗のような見た目に似合った能力だとは思うけど……最強過ぎないか?


「でも、ベリアストロとは互角っすねぇ……アーガスさんには負けるっす」
「えぇ……なんで負けるんだ? 絶対に負けないと思うけど……」
「それが負けるんすよ……どんな能力使ってるか教えてもらえないんすけどね。あっははは!」


 それジェイスがどんどん自分の能力バラしてるのがおかしいって事じゃないか? 学園長もアーガスの能力を明かしてないって……じゃあジェイスも隠せよ。


 しかし、王国騎士団幹部がこれ程の化け物のような実力を持ってるという事は……俺なんてまだまだ小さい方なんだな……。
 俺は世界の広さを、少しだけ知れた気がする。

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