女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

28話 世界一面白い神のゲーム



 あれ……ここはどこだ? 確か階段から落ちて……死んだ?


 今俺がいるのは広い草原の中。周りには何もなく、ただ緑の草原と地平線、そして青い空だけが無限に広がっていた。そんな中に俺は1人、寝ていた。


「死んだ……でも身体は特に……」


 手足を確認しても、いつものクロアの姿だ。怪我をしたような後も何も無い。俺は確かに階段から落ちて……かなり痛かったのを覚えている。


「あっ、目、覚めた?」
「お前……神か」
「また忘れてたでしょ」
「いや、すぐに思い出したから大丈夫だ」


 神がいるという事は、ここはあの世界ではないという事だ。


「なんで私がここに?」
「もう女生活も慣れたみたいだね」
「……今更自分の事を 『俺』 なんて言っても違和感しかないからな。それで、なんで私はここにいる」
「えっとね、精神体を収める器──身体が壊れちゃって、今あの世界には身体だけになっているの」


 身体だけ……? よく分からないな。


「分かりやすく頼む」
「生死の境目をさ迷っていた君の精神体を、この中間世界に入れたって事」
「死にかけてたのか」
「そりゃもう、脳がグチャグチャよ」


 うわっ……それでも生死の境目で済んでるのか。ってことはティライさんが治癒してくれたのだろう。


「つまりその時に出ていった精神体が今の私、という事か」
「そういう事。一応あっちの身体も命だけは持たせてるから、後は精神体が入れるようになるまで準備を整えるだけ」


 なるほどね。


「どのくらいかかる」
「10」
「あと5年か」
「違う、15歳になるまで」
「……嘘だよな?」
「本当。それほど命は大切な物なんだよ」


 ってことは……後10年間もここにいなきゃならないのか!? その間あっちの方はどうなる! ティライやソフィ、それにリグや学園長……俺の身体も全て10年後にならないと会えないのか!?


「10年間私はここにいなきゃならないのか!?」
「まあ安心しなよ。霊体として会いに行く事はできる、1日3時間だけね」
「今すぐ会いに行かせろ! 事情を説明しないとっ!」
「さっき私が君の精神体を捕まえにいったから、今日はもう無理だよ」


 神と俺……どっちかだけって事かよ。神のくせに無能な奴めっ……!


「明日会えるんだから、少しは喜びなさい!」
「喜べねぇよ……10年もあの身体放置するのかよ」
「君が皆に伝えれば好みの髪型にでもして貰えるよ」
「でも……このまま会いに行くって事は幽霊みたいなもんだよな……会話、ましてや相手に認識されるのか?」
「頑張って。集中すれば物は触れる」


 なんでこんな事に……あの時、あの一瞬俺の思考が止まったせいで10年も……無駄にしてしまうなんて……。


「くそっ……! 私の人生が……」
「大丈夫。この10年、絶対に無駄にはさせないよ」
「……何するんだよ」
「ここにいる間、私が剣の稽古を付けてあげる」
「なんでそこまでしてくれるんだよ」
「私の計画の為って前に言ったよね?」


 ……所詮俺は計画の為の駒だっていうのか。


「あ、それと君が面白いから個人的な好意ってのもあるね!」
「……女から好意抱かれるのはもう嫌なんだけど」
「こう見えても神様には性別ないんだよ?」
「そうは見えねぇな」
「まっ、この10年間。私が君の為に色々としてあげるから、15歳になって帰っていく時が寂しいって思うくらいに最高の生活にしてあげる」


 そう思えるような生活がこんな草原で出来るのなら喜んで、だな。10年か……長いようで、今までの人生の3倍。前世を含めれば短いもんじゃないか。
 俺が15になった頃には……リグは23か。悔しいな……、その頃まで俺の近くに居てくれるのだろうか。


「……」
「どうしたの?」
「心配になってきた」


 この10年の間に俺は一人ぼっちになって、平和教に捕まって生贄にされて……大丈夫じゃないな。


「……大丈夫でしょ」
「その言い方は大丈夫じゃないだろ」
「まあ……君の周りには良い人がいっぱい入るし、それに君が思ってるよりも好かれてるからね。皆君の為に動いてくれるよ」


 俺の為に……か。自分の為に大勢の人が動いてくれるなんてされた事も無い。信じられない。


「そんなに思いつめてても仕方ないよ。さっ、何かしたい事あったら何でも言って。剣の稽古は決まった時間にするから、それ以外は自由だよ」
「……じゃあ皆の様子を見る事はできるか」
「それくらい息を吸うように簡単な事よ!」
「頼む」
「それっ!」


 広大な草原の空間に、大きなモニターのような物が表示された。未来的だな。
 そこには、俺の身体がベッドで寝かされていて、その周りには……ソフィ、ティライ、リグリフ、ベリアストロ学園長、エミルがいた。


「……こんなに沢山……」
「ほい、コントローラー」
「……は?」


 まるで前世の家庭用ゲーム機のようなコントローラーが渡された。


「左で移動、右で視点移動。〇でパンチ、×で加速、△で──」
「そういうのはどうでもいいから! ……えっと……おっ、動いた」


 まるで空を飛び回っているような視点で、その部屋を見渡すことが出来た。楽しいな!


「"クロア……目を覚ましてくれっ……"」
「喋った」
「そりゃそうよ。リアルタイムよ?」


 リグが俺の手を握って必死に訴えている。
 ……こうしてみると、何か来るものがあるな。


「えっと……〇がパンチ? ほっ」
「"っ? 今何か……顔に温かいものが……"」
「"きっとクロアちゃんがいるのよ……ここに……"」


 な、なんか思ったより威力無いし、勝手に死んだことにされてるんだけど!?


「稽古と精神体になって降りる以外は自由にこれで遊んでいいよ?」
「おお! ゲームより楽しいじゃねぇか!」
「ちなみにっ、貸して」
「ん?」


 神がコントローラーを持って、移動し始めた。


「これは何でも通り抜けることができるから……ほら、服の中に入って……あっ行き過ぎた」
「うえっ……」


 今人体の中身を見てしまった気がする。


「ほら、学園長のエロい身体」
「やめてやれ」
「バレないからいいんだよ。こうやって色んな人の裸を見れるから楽しいんだぁ〜」


 体の隅々まで撫で回すように見て回る神様の、コントローラー捌きは見事な物だった。って何感心してるんだ。


「いいから! 少ない時間なんだし、私に楽しませろ!」
「あっ」
「"あんっ……"」
「"ちょっと学園長さん。急に変な声を出して……"」
「"ち、違うのよ……今胸に……なんでもないわ"」
「ごめん。R1ボタンは掴むだから」
「何掴んでんだよ……」


 もう絶対にこいつには渡さない。このコントローラーは俺の物だ! ゲーマー魂が燃え上がってきたぞ!!


「何するの?」
「私の身体を見られてるのを見てる立場っての、結構寂しいから学園探検だよ」
「浪漫がないなぁ」
「探検も浪漫の1つだよっ!」


 この世にこれほど楽しい神のゲームがあったなんて……最高じゃねぇか。

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