女嫌いの俺が女に転生した件。

フーミン

4話 家庭教師のティライさん

この日は、朝からバルジによる文字の読み書き等を教えてもらった。
何故かスラスラと頭の中に入っていくので、夢で神様に貰った能力のお陰だと思う。勉強が苦手な俺にとって案外良い能力なようだな。


「クロアは覚えるのが得意だな〜」
「ありがとうございます。……っ」
「どうした?」
「ちょっと頭が痛くて……」


脳を使いすぎたからだろうか……。


「少し休むか」
「はい」


頭の回転が早すぎても駄目だな……チョコが欲しい。この世界にもチョコがあれば良いんだが、探す方法も無いしな。


「そうだ。体を動かせば気分転換になるだろう」
「ダメよ〜ちゃんとした先生に教えてもらわないと危険。魔法くらいなら覚えさせても良いと思うけど……」


やはりこの世界には魔法が存在するのか。


「ん? 魔法が気になるのか?」
「はい!」
「そうだな〜……じゃあちょっと来てくれ」


そういって、父バルジの部屋に連れられた。
特に何も無い部屋だが、いつもここで何をしているのだろうか。


バルジが棚の上から持ってきたのは、一つの水晶玉だった。


「まずこの玉に手を翳してみてごらん」
「分かりました……」


何が起きるか分からないので、慎重にゆっくりと触れる。
触れると、水晶の中に何かが動いているのが見えた。それが段々と形を作っていき、電気がパチパチしているように見える。


「おぉ……クロアは光魔法が使えるらしい」
「光魔法?」


この世界に電気は無いのか。


「光魔法はね、心の綺麗な人しか使えない魔法なんだよ。クロアは心が綺麗なんだね」
「そうなんだ……」


自分的にはかなり腐ってる方だと思うんだが、他人から見ると綺麗な方なのだろうか。


「じゃあ今から魔法の使い方を教えよう」
「お願いします」


今度はスノードーム……のような置物を持ってきた。


「これを持って、体の中を流れる何かを意識してくれ」
「何か?」
「簡単に言うと、魔法を使う為に必要な魔力だ。空気中の魔素というのを吸って、体で魔力を生成……って難しいか?」
「いえ、もっと詳しく教えてください」
「そうか、魔力はーーー」


一通り魔力の知識について教えてもらい、脳に知識が集まったところでいよいよ実践だ。


「魔力の流れを意識して……この中に集める……」


重要な動作を口に出しながらイメージしていく。すると、ドームの中に小さな光が現れた。


「おぉ! 凄いなぁ!!」
「凄いんですか?」
「ああ! それをどんどん大きくしてくれ」
「分かりました……」


魔力を溜める。光の中に魔力を集めるイメージ。
段々と光が強くなっていき、ドームから漏れそうな程大きな光が出来て……


パキッ


ドームが割れてしまった。


「……ごめんなさい」
「…………」


怒ってるだろうか。怖くて顔が見れない。


「……す……」
「……?」
「凄いぞクロアッッ!! 天才だぁっ!!!!」
「うわぁっ!!」


急に抱き抱えられて、ミリスの元に連れていかれた。


「騒がしいけど、どうしたの?」
「凄いぞ! クロアが光魔法をいきなり操作できて、ついには魔道具を壊したんだ!!」
「魔道具を……? それって、クロアの魔力が暴走……したようには見えないわね。確認させて」
「今持ってくる!」


ダッダッダッ、と凄い足音を立てて部屋に戻り、割れたドームを持って帰ってきた。


「どうだ!」
「あら………………クロア凄いわよ!! なんて優秀な子なのっ!?」
「苦しい……」


何かあるとすぐに抱きしめる癖を何とかしてほしい。


「これなら一流の魔法使いも雇った方が良いな!」
「そうね! クロアならあっという間に成長するわ!」


大袈裟だなぁ……嬉しいけど。


ーーーーー


その日から2日後。ある女性が家に訪ねてきた。水色の髪をした女性だ。


「雇われたティライです。今日からクロア様の家庭教師を務めさせていただきます」


家庭教師のティライさんか。この人は真面目そうだな。


「クロアは凄いんですよ! 初めて魔法を使ったのに完璧にコントロールして!」
「それも光魔法! 心が綺麗なのよ……騎士に向いてるわ!」
「は、はい。そうですね。私が更に成長するように指導します」


ほら、ティライさんが困ってるだろ。


「ではクロア様の部屋に参りましょう」
「はい」
「楽しみだわ……」
「そうだな……」


親バカ2人はリビングでボーッとしていた。


ーーーーー


「どうぞ座ってください」
「あ、礼儀正しいのね。私の事はティライって呼んでいいわ。ついでに2人きりの時は喋りやすい話し方にしましょう?」
「どうしてですか? ティライさ……ティライ」
「その方がお互いにストレスも無いでしょう?」


そういう物なのだろうか……。


「じゃあ……頼む」
「男らしい喋り方……ギャップに萌えるわ」
「そうか……」


もしかすると、ティライさんも俺の苦手な部類なのかもしれない。


「さてと、いきなりだけど私の手を握ってくれる?」
「こう……か?」
「握りやすい方法でいいよ。それで、今から私に魔力を流して」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ」


じゃあ……遠慮なく。


パチッ……パチパチ
「あぁっ…………良いわ……光魔法……良い刺激っ……んっ……」


俺はすぐに辞めた。


「あら……どうして辞めたの?」
「その、ティライの様子が変だったから」
「そうねぇ……別に問題は無いわ」


いや、教育上良くない様子だったから辞めたんだが。


「じゃあ今度は弱めに出せる?」
「ま、またするのか?」
「良いのよ。これも大事な勉強」


また手を握って、弱めに魔力を流した。


ピリピリピリピリピリ


と、電気が流れる音が聞こえる。そして……。


「んん…………っふ……ふぁ…………ぁぁ……」


教育上問題のある声も聞こえる。


「あぁっ! ……はぁ……はぁ……流石よ」


何かを達成したような表情で、今度はバッグから何かを取り出した。


「これは?」
「全身の魔力量を測る動画よ。咥えてくれる?」


まるで体温計のような機械だ。


「ちょっと聞いていいか……?」
「何?」
「さっきのにはどんな意味が?」
「特に意味は無いけど、強いていうなら魔力量のコントロールね」
「そ、そう……」
「さ、口に咥えて」


体温計のような物を、口に咥える。すると、魔力の流れを感じやすくなった。不思議な感覚だ。


「っ?」
「凄いわね」


全身からパチパチと音を立てて電気が跳ねている。髪の毛も逆だっていて、これで金髪だったらヒーローになりそうだ。


「そろそろかしら……」


口に咥えていた道具を取って、ティライさんも咥えた。


「な、何してるんですか?」
「魔力を見てるのよ」


……俺が変に意識しすぎなのか。
しばらくすると、ティライさんはニコッと笑った。


「クロアちゃん……貴女、魔法使いにならない?」
「え……?」


魔法使いに……?


「貴女ほどの才能を秘めているなら、もしかするといずれ国一番……いえ、大陸で最も優秀な魔法使いになれるわ」


大陸で最も……か。いや、でも俺は騎士になると決めたんだ。


「俺……じゃなくて、私は騎士になりたいんだ」
「残念ね……。でも、これだけの魔力量があるのなら、騎士の才能がなくても充分動けるわね」
「失礼だな……」
「じゃあ、早速だけどこの剣を持ってくれる?」


無視かよ。


「あ、この剣は人を傷つける事は出来ないようになってるから、安心して」
「あ、ああ……」


かなり重いな。こんなに重いのなら打撃武器として充分に働けそうだけど。


「……持てるのね」
「へ?」
「普通、その年齢の子なら重くて持てないのよ。無意識に腕を強化してるのね。流石魔法使いの才能を持つクロア様」
「そんなに褒めて……魔法使いにさせたいだけじゃ……」
「勿論魔法使いにさせたいけど、褒めてる内容は本当よ」


腕を強化ねぇ……。確かに意識してみると、手に魔力が集まってるような感じはする。あ、もっと軽くなった。意識したから魔力が更に集まったのだろう。


「それを持ったまま、ジャンプしてみて」
「分かった…………」


足に力を込めて、ジャンプ…………。すると急に剣が重くなって落としてしまった。


「そう、それが普通よ。腕に集まっていた魔力が、足にも分けられた事で力が無くなったの」
「なるほど……」
「魔力量を増やす。もしくは適切な量で魔力を分ける訓練が必要ね」


細かい訓練は難しそうだな。


「どのくらいで出来るようになるんだ?」
「そうねぇ……大体1年」
「1年……」
「クロアちゃんの場合は半年くらいかしら」


半年か……大変だなぁ……。


「いままで家庭教師をやってきて、1歳でこんなに賢い子は初めてよ。育て甲斐があるわ」
「あはは……」


確かに、1歳が 「そうだな」「なるほど」「面白い」なんて冷静な声で喋ってたら恐ろしいよな。
 もう少し子供らしさを見せていくか。

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