幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
89話 危険地域
都市マリーネから少し離れた森の中に綺麗な川が流れていた。シンシアは川の中で飛び跳ねる魚を見ながらのんびり揺られていた。
「シンシアちゃん暇そうだね」
「うん……」
何事もなく平和な道のりだ。まだ都市からそこまで離れていない、という事もあるだろうが、もう少しハプニングがあっても良い気がする。
「おっちゃん、もう少し早く走れない?」
「馬に無理させる訳にはいかないけどねぇ……じゃあ少し早く走らせるよ」
「おっ、ありがとう」
するとほんの少し移動が早くなり、馬車の揺れも強くなってきた。
馬車の中から顔を出すと、頬に触れる風がとても心地好い。
「あっシンシアちゃん! あそこにリスがいるよ!」
「おぉ〜可愛い」
唯一の暇潰しは森の中にいる動物を探す事くらいだった。
◆◇◆◇◆
「お2人さん、最初の休憩場所に着いたから休んでいきな」
馬車が集落の入り口に止まった。中では街とあまり変わらないように人々が行き交っているが、人は少ない。
シンシア達はそこでしばらく休憩をしたり食事を取ったり、馬に餌を与えたりしてから再び出発した。
本当につまらない旅だ。ベネディの背中に乗ってチャチャッと行けば簡単なのに、荷物の中身が分からないからそういう事はできない。割れ物だったら割ってしまう。
「おっちゃ〜ん……暇なんだけど何かない?」
「そうだね〜お昼寝とかしてみたらどうだい? 馬車にコトコトと揺られてのんびりしていると、いつの間にか時間が過ぎてってるんだ。もっとお昼寝してたいって気分になる」
昼寝しかねぇのか……正直今は眠くないんだが、おっちゃんも親切に教えてくれたんだ。寝てみるかな〜……。
「私の膝枕あるよ!」
「……まあ他に枕無いし借りるとするよ」
仕方なくサラの膝を枕にして横になる。すると不思議な事に脳がリラックスしてきた。まるでずっと脳が緊張して固まっていたのかと思う程、馬車の揺れで脳がとろけていく。
脳の中を弄られてる時ってこんな感覚なのだろうか。
サラのやわらかい太ももの弾力もなかなかに良い。やはり女性の身体は最高だ。
──────
────
──
──ガタンッ
「んっ……え゛ふっ!」
「だ、大丈夫?」
馬車が大きく揺れて、唾が肺に入ってしまった。それにいつの間にか眠っていたようだが、ここはどこだろう。
「ここは……?」
「山奥だよ。ここが丁度半分くらいなんだって。シンシアちゃん凄い寝てたね」
外はもう真っ暗で、明かりは馬車に付いたランプと道にポツポツと設置されたランプくらいだ。
「うわぁ……周り岩だらけじゃねぇか」
「この先から高低差が激しくなるから、揺れには気を付けるんだよお2人さん」
「は〜いっ!」
この揺れじゃあ眠れそうにないな。
シンシアはサラの膝枕を終えて身体を起こす。頬の温もりが消えてひんやりとするが、別に膝枕が恋しい訳では無い。
──ガタンッ
「うっ……危ないな」
その時、サラが突然馬車の外に向けて電撃魔法を放った。
「えぇっ!? な、何してんの!?」
「魔物いたから。ほら、私達護衛でしょ?」
「そ、そうだけど……ここらへん普通に魔物いるのか……」
しかし暗闇の中を見ても魔物らしき物は見えない。
一体どこにいるというのだ。
しかしサラは電撃魔法を放ち、それが当たると魔物の断末魔が聞こえてくる。
「うわぁ〜虐殺」
「結構殺気立ってたよ? これは正当防衛です!」
「まあいいや……俺おっちゃん守ってるからよろしく」
「は〜い!」
シンシアは顔を出して前方を確認する。
「岩凄いな」
「ここらへんは昔魔物同士の戦争があったって話だよ」
「へぇ〜」
魔物も戦争なんてするのか。確かに銃とか使うゴブリンならありそうだけど。
「おっちゃんってここらへん詳しいのか?」
「長年色んな所に向かってるからね。妻や娘には悪いと思ってるけど、稼ぎは悪くないんだ」
「家族がいるのか。たまに会いに行ってあげなよ」
するとおっちゃんは少し気まずそうな顔をした。
「何かあったのか?」
「いや。実は最近、旅先で浮気してるんじゃって疑いをかけられててね。怒られて家から追い出されちゃったんだ」
「はははっ、じゃあ謝りに行かないとな」
「その為に今お金を稼いでるのさ」
それはご苦労なこった。お金を持って謝罪、まるで王様と奴隷みたいだな。
──ガタンッ
「うひぃっ!?」
「魔物の死体を踏んじゃったみたいだね」
「そ、そうなのか。暗くて見えないな」
──ガタッガタンッ
「うっ……これも魔物?」
「じゃないかな。この道に岩があるって事はないからね」
その時、サラから服を引っ張られた。
「ん?」
「ねぇシンシアちゃん、多分さっきから踏んでるの魔物の死体じゃないよ」
「えっ? じゃあ岩?」
「死体なのは死体なんだけど……よく分かんない。見てみる?」
サラは手の平に光の玉を生み出した。
──ガタンッ
「あ、うん……怖いけど一応」
2人は馬車から顔を出して、踏んだ何かの死体に光を当てた。
「っ!?」
「人の焼死体……それも結構新しいよ」
「オエッ……ッ……」
とんでもない物を見てしまって、シンシアは胃の中にある食べ物を全て吐き出してしまった。咄嗟に仮面を上に上げたので汚れることはなかったが……。
「酔っちゃったかい? 休憩する?」
「だ、大丈夫です! 気にしないで進んでください」
サラはシンシアの背中を背中を摩りながら、おっちゃんにそう言った。
「なんで……ケホッ……人の死体が? うっ……」
「嫌な予感がするけど……何かおかしいの」
サラは手の平に炎を生み出した。
「……弱くないか?」
「うん。力が弱くなってる……多分ここに近づいてからだと思う」
「引き返した方が良いんじゃ……危ないと思うぞ」
シンシアは物凄く嫌な予感がしてきて、サラの服を握りながらそういった。
「言ってみる? っ……ちょっと待って」
サラは何かの気配を感じたのか、馬車から頭を出して後ろを向いた。
「オーガの群れ……っ……ダメ、魔法が使えない」
オーガの群れがこの馬車を追いかけてきていた。ダンジョンで見たオーガよりはかなり小さいが、その数は相当だ。
「くっ!」
何故か魔法が使えなくなったサラの代わりに、シンシアが後ろに向けて炎魔法を撃ち込む。
しかしかなりの数がいる為、ここで戦っていてもキリがない。
「おっちゃん! 馬をもっと早く走らせて!! 急いで!!」
「ど、どうしたんっ──」
「っ!? おっちゃん!?」
突然おっちゃんの声が聞こえなくなり、前を確認すると頭を矢で撃ち抜かれていた。前方に目を光らせて弓矢を構えるゴブリン達がチラリと見える。
「サラッ! おっちゃんが死んだっ! ど、どうしたらっ!?」
「落ち着いてっ!! 結界貼って! 私が操縦する!!」
サラは馬車の前に移ると、手綱を握って馬を走らせた。
「本当に魔法使えないのかっ!?」
「完全に使えないってわけじゃない。ただ、弱い魔法しか使えなくなってる。急いでどこかに逃げないと!!」
前方から矢が飛んできているが、シンシアの結界で弾く。しかしそれでも大量の魔物に命を狙われている事には変わりない。
「くそっ……何が起きてるんだっ……おっちゃん生き返らせれないのか?」
「今の私には無理……多分間に合わないよ」
──ボジュッ
と、その時。馬車の荷台に火がついた。ゴブリンが炎を付けた矢を撃ってきたのだ。
「まずいっ!!」
「シンシアちゃん降りて! 走るよ!!」
「でっ、でもおっちゃんとか馬とか! 荷物は!?」
「今はそれどころじゃない!!」
サラに抱き抱えられて馬車から飛び降り、森へ向かって走り出した。
「燃えてる……おっちゃんも……馬も……」
馬は走り続けたまま身体が燃え始めていた。見てられない、必死に走って炎から逃げてるのだろう……でも馬車に取り付けられた馬は逃げられない。
「森に入った!」
「まだ追ってきてる!!」
サラは息を切らしながら森の中を走り続けた。
「おいアンタら!! 何してる!! 危ないからこっちにこい!!!」
その時、どこからか声が聞こえた。
「っ……行くよっ!」
サラが方向転換して木々の間をくぐり抜けていくと、木の壁が作られた洞窟の前にやってきた。
「旅の人か!? なんでここにきた!! 今ここは危ない! 中に入れ!!」
「感謝しますっ!」
洞窟の中に入ると、そこには結構な人数の人々がいた。一体ここでは何が起きてるというんだ。
いくら危険とはいえ、あれだけの数の魔物がいるなんて聞いてないぞ!
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