幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
88話 いざ北へ
「おぉ! これは精霊の予言書ですね! 無事に戻られて良かったです!」
シンシアがローブの内ポケットに入れていた予言書をギルドの受け付けの女性に渡す。それを後ろから付いてきていたハンター達はニコニコと見守っていた。
「ダンジョンは無事攻略したんですか?」
「勿論だ。ボスには"俺"がトドメを刺した」
自分が殺した、という事を変に強調してくるシンシアにはどこか背伸びする子供のような可愛さが感じられる。
「ではこのダンジョンの名前を決める権限を付与します。何になさいますか?」
「それは当然、『大魔道士シンシアのダンジョン』 だ!」
「ふぅ〜! カッコイイぞ〜!!」
「よっ! 大魔道士!」
「っっ……うるせぇっ! 絶対思ってないだろそんな事!!」
「あっはっはっ!!」
ハンター達に茶化されてるような気がして、シンシアは怒鳴りつける。しかしそれでもここのハンター達と仲良く出来てる事はとても嬉しい。
「うふふっ、ではこれよりこのダンジョンの名前は 『大魔道士シンシアのダンジョン』になりました」
「おめでとうシンシアちゃん」
「あ、ありがとう」
まだ立派な大魔道士になれた訳ではないと思うが、それでもこのダンジョンにやってきて俺の存在を知ってくれる事を願う。
ダンジョンは1度ボスが倒されると、精霊の力が弱まるのだ。その為難易度は一気に低下する。しかしあのダンジョンではそのくらいが丁度良いだろう。
それからシンシア達はしばらくハンター達と話し、ギルドマスターにも無事ダンジョンを攻略した事を伝えて宿に戻った。
◆◇◆◇◆
「なぁサラ。もうそろそろ次の目的地に行こうと思うんだけど、何かこの国でしたい事ってあるか?」
「したい事っていうか、そういえばコリンさん居ないよね」
「……忘れてたな」
確かコリンさんがダンジョンに行ってると思って遠出したのだが、どうやらどこにもいないらしい。
「多分あの坊ちゃんの所に帰ったんだろう」
「そうだね。それでしたい事かぁ〜……特にないかな。借りた本を返してから行くの?」
シンシアはベッドに横になった。
「明日本を返すついでにギルドマスターに話して、昼くらいから出発しようと思う」
「分かった。じゃあ今日はシンシアちゃんとのんびりできるねっ!」
そういってサラがシンシアに抱きついてきた。
「それでサラがのんびり出来ても俺はのんびり出来ないんだけど」
「私に甘えてきていいんだよ? ぎゅってしたらのんびりできるよ」
「……今日だけ……な」
シンシアは仮面を外して、サラのお腹らへんに抱きついて身体を丸めた。
「ふぉっ……ほぉぉぉ〜……しゅごいっ……」
「変な声あげるな」
「だ、だってシンシアちゃんが甘えて……んへへへ……」
どうやら頭がおかしくなってしまったようだ。元から心配していた頭だが、これでもう心配する必要は無いな。
シンシアは明日に備えて眠りについた。
何故サラに甘えているのか。シンシアにとって、ダンジョンを攻略するのは一つの目標だった。そして色んなハンター達とも関わりを持つことができた。その事に満足して、今日くらいはという気持ちでサラに甘えたのだ。
これが甘えている、という内に入るのかどうかは別として。シンシアはやはりまだ子供なのである。
◆◇◆◇◆
次の日、朝から借りた本を図書館に返してハンターギルドにやってきた。
「おっ! 大魔道士さんのお出ましだっ!」
「うるせぇっ!」
大魔道士と呼ばれる事は嬉しいけど、こいつらは俺の素顔を見ているからそんな奴らに言われても素直に喜べない。
「ギルドマスターいるか? 」
「えっ? という事はもう行ってしまうのですか?」
「ああ。ここも随分楽しんだしな」
するとギルド内に一瞬の沈黙が置かれた後、受け付けの女性がすぐにギルドマスターを呼びに行った。
「おいマジでもう行っちまうのか?」
「もう少しここに残る気はないのか? 時間はまだまだあるぜ」
「すまない、俺の目的は旅をする事なんだ。皆にはお世話になった。またここに戻ってくるよ」
ハンター達が寂しそうに引き止めてきたが、そういう訳にはいかない。
次は北に行くついでに、荷馬車の護衛だ。
「絶対帰ってくるんだな?」
「どのくらい先になるかは分からないがな。それか、もし俺が大魔道士として有名になったら会いにきてくれてもいいんだぞ」
「おう。楽しみにしてるぜ」
そんな事を話しているとギルドマスターが現れた。
「もう行くのか、大魔道士さん」
「その呼び方はやめてくれ。ああ行くよ」
「そうか……短い間だったが随分と活躍したな。ギルドの裏に荷馬車は用意してある。来てくれ。それと、見送りたい奴らも来い」
すると多数のハンターが立ち上がってシンシア達に付いてきた。意外と皆別れを悲しんでいるらしい。
布で覆われた中に荷物が入っている荷馬車。その布の中に入ると、頑丈にロープで包まれた木箱や樽が入っていた。
ギルドマスターからは中身については聞かないでくれと言われている。大事な物なのだろう。
「大丈夫そうか?」
「ああ、リュックの中に飯は沢山入ってるしな」
それにもしもの時はベネディがいる。
「何か皆に言いたい事があるなら最後だぞ」
「……特にないな」
「冷たいんだな。それじゃあ、旅を楽しんできてくれ」
「ああ。皆も元気でな!!」
布から顔を出してハンター達に手を振ると、魔物と戦っている時とは明らかに違う穏やかな顔をして手を振り返してきた。
分かる。ああいう目はおばあちゃんが小さい頃の俺に向けてきた目だ。
「それでは出発してもよろしいですかな?」
「いつでも大丈夫だ」
「では、皆さんお元気で」
馬を操るおじさんも、ハンターとギルドマスターに頭を下げてから前を向いた。
「では出発します。はいやっ!」
それと同時に荷馬車がガタンと揺れて、ついに進み始めた。
「またな〜お前ら!」
「絶対帰ってこいよ! 約束だかんな〜!!!」
姿が見えなくなるまで手を振って、荷馬車の中に戻った。
「はぁ〜疲れた……」
「まだまだこれからだよ」
「そうだな〜」
ここから北までかなり遠い。それに険しい道になるとマスターは言っていた。その為にシンシアとサラという護衛がいる訳だ。
「途中の街や村なんかで馬の休憩をさせながら進みますんで、好きに寛いでてください」
「あぁ。ありがとう」
前のおじさんもずっと座りっぱなしで馬を見てなきゃいけないってのはキツいだろうからな。
「ねぇシンシアちゃん、また甘えてきていいよ」
「いや今日はもういいや」
「そんなっ……」
シンシアはサラに治して貰った仮面を眺めながら、のんびりと暇を潰した。
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