幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

80話 都市マリーネへ



 クラシック曲が流れてきそうな程雰囲気の良い店。その隅で周りを気にせずデザートを食べる少女がいた。


「シンシアちゃんゆっくり食べないと味わえないよ?」
「大丈夫」


 その子はシンシアと呼ばれ、銀色の髪と何とも可愛らしい表情で客達は癒されていた。


 食事の時くらいは仮面を外しても良いと判断したシンシアは、小さな口を精一杯広げてデザートを食べる。そして白いクリームが口の周りに付くと、保護者の女性が拭き取ってくれる。


 そんな2人の様子を見ていた1人の人物が、2人の元に近づいた。


「サラ先生とシンシアさん、私の事覚えていますか?」
「っ? んっ……?」


 メイド服を着た女性を見たシンシアは、どこかで見た記憶があると過去の記憶を探る。


「以前学園で会いました。コリンです」
「あっ!! あの貴族の坊ちゃんのメイドさん!」


 コリンと名前を聞いて思い出したシンシアは、店の中で立ち上がって大声を出してしまった。すぐに客達に頭を下げて席に座る。
 コリンさん。以前会った時からそうだが、どこか懐かしい雰囲気を感じる不思議な人だ。


「こんな所で会うなんて偶然ですね。良ければお隣に座ってもよろしいですか?」
「あ、どうぞ〜!」


 コリンさんはサラの横に座って、話し始めた。


「食べながら聞いてもらって構いません。実は今、お仕事を休んでのんびり旅行に来ているのですが、サラ先生とシンシアさんも旅行ですか?」
「う〜ん、旅行というよりただの旅かな。私はシンシアちゃんにお願いして付いてきてるの」


 コリンさんとサラが話している間、シンシアは特に話を聞くこともなくデザートを食べ続けている。


「旅ですか。という事はこれからどちらに行かれるんですか?」
「ここから北にある方に行こうと思ってる。……よね? シンシアちゃん」
「うんっ? あぁうん。北に行くよ」


 ハムスターのように頬一杯に膨らませているシンシアを見ると、クールなコリンさんもつい顔が緩んでしまう。


「となると都市マリーネですね。海に面していてとても綺麗な国ですよ」
「海? 泳げるのか?」


 やっとシンシアが話題に食いついてきた。


「はい、私もよく泳いでいます。よし宜しければ、私もご一緒に付いていってよろしいでしょうか」
「よく泳ぐって、もしかして泳ぐの好き?」
「趣味です」


 そういや、俺の姉ちゃん陸上部だったけど水泳も得意だったな。運動全般が好きでよく運動公園なんかに遊びに行ったりしてた。
 ってなんで姉ちゃんの事思い出してんだ。


「一緒に行くのは良いけど……」
「勿論その国で別れても結構です。丁度私の目的地もそこだったので、ご一緒できればと思いまして」
「あぁそれなら良いよ」


 シンシアの目的はあくまでも大魔道士として成長、そして知名度を上げること。しかしこれ以上保護者的な存在が増えてしまえば成長できないと考えている。


「うしっ、じゃあ満腹になったしヘレン姫と話してから出発しよう。サラ」
「ヘレン姫っ……ですか?」
「友達になったんだ」


◆◇◆◇◆


 驚くコリンさんと一緒に、ヘレン姫とアルバに別れを告げるために城までやってきた。


「もう行ってしまうのですね……」
「またいつかここに帰ってくるのだろう?」
「勿論。会いに来るよ」


 またいつか会えると知って嬉しそうな顔を見せたヘレン姫とアルバ。なんだかんだでシンシア達の心配をしてくれているらしい。


「ヘレン姫もアルバも元気でな」
「それはこっちのセリフだ。と言いたいところだが、小さい癖に大人みたいなシンシアだ。こっちから心配する事はないだろうな」


 大人みたいだと言われてシンシアは内心喜んだが、アルバの前では隠すように無反応を貫いた。
 シンシアの中でライバルのような存在になったアルバは、今後危険な戦場に出ることなくヘレン姫の側で支える役目になる。
 仕方ないのだが、勝ち逃げされたシンシアにとってアルバに感情をあまり見せたくはない。


 それからコリンさんはヘレン姫と握手をして少し話をした。そうしてシンシア達はついに王都ドラグーンを出て都市マリーネへと出発した。


◆◇◆◇◆


「きゃああああああっっ!! 速いっっ! 落ちるっっ!!」
「しっかり捕まってれば大丈夫だから」


 物凄い速さで走るベネディの背中に乗ったコリンさんは、悲鳴を上げながらベネディの毛を握りしめていた。


「何が大丈夫なのよっっ!! 速度下げてっ!」
「へいへい……」


 素が出てきてしまっているコリンさんに怒られて、シンシアは姉に怒られているような気分になり仕方なくベネディにお願いして速度を下げてもらう。


「はぁっ……はぁっ……死ぬかと……思いましたっ……。取り乱してすみません……」
「い、いやいいよ。汗凄いな」


 結局コリンさんでも怖くない速度で都市マリーネへ向かうことになり、王都ドラグーンで買い込んでいた食料を食べながらのんびり進むことにした。


 都市マリーネに向かう道中では、特に誰かが襲われている事もなく平和に進んでいたのだが、ゴブリンと呼ばれる魔物と遭遇したりする事は増えた。
 この周辺は魔物が多いのだろう。シンシアは魔物を新しい魔法の実験台として倒しながら暇を潰していた。


 しかし、魔法を使っているとなんとなく違和感を感じる。魔力が以前より操作するのが難しくなっている気がするのだ。


「魔力の調子が悪い」
「えっ……もしかして……」


 サラは顔を真っ青にした。


「サラの魔力が変に混ざったから変な反応起こしてるかもな」
「そんなっ……大丈夫? 悪化してきてない?」
「多分の話だからサラは気にしなくていいよ。今のところ悪化はしてきてないし、慣れれば大丈夫だと思う」


 人間の魔力と神の魔力が合わさるとどうなるのか。今のところ判明しているのは魔力が暴走して身体が崩壊する事しか分からない。しかし、それがどういう原因でそうなるのかは神でさえも試した事がないので分からない。
 その為にサラの不安は大きくなるばかりだ。


「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもないよ」


 コリンさんはサラが女神だという事を知らないから伝えなくても大丈夫だろう。自分でなんとかしないといけない。


「……そういえばシンシアさんは大魔道士を目指していると言ってましたね。都市マリーネには魔法学院があって、その近くに魔法についての知識が集まる図書館があるので行ってみてはいかがですか?」


 魔法学院も気になるが図書館も気になる。というか、都市マリーネって実は凄い国なのではないだろうか。都市なんて呼ばれているが、そんな規模じゃなくかなり発展した国かもしれない。
 海に面しているのだからきっとそうだ。


「最初の目的は図書館に行くことだな!」


 シンシアは期待に胸を膨らませた。

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