幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
77話 生死の境
──大銅鑼の音が闘技場全体に響き渡る。
今、シンシアとアルバの戦いが始まった。
「早速行くぞっ!!」
アルバは自分の闘気を高める為に大声を出し、剣を身体の後ろへ引いてシンシアの間合いを詰めた。
シンシアは近接武器を持っておらず、遠距離からの魔法を使う。ならば近づいて攻撃するのが最善だと判断したのだろう。
現にシンシアは攻撃する暇も無く、後ろに飛び退いてアルバの間合いから外れた。
「火よ──」
「させるかぁっ!!!」
戦闘中に脳内でイメージをして魔法を使うのは難しい。そこで白魔術の詠唱によって魔法を発動しようとしたのだが、アルバはそれを読んでいた。
一気に剣先を伸ばし、シンシアの腹部を貫く勢いで迫ってくる。
「甘い」
「っ!」
しかし、シンシアは詠唱しながら逃げるルートを考えていたのだ。
「火球となりて──」
シンシアが詠唱したのは炎魔法。精霊によって空中に巨大な魔法陣が生成された。
「なっ、なんだっ!?」
アルバは魔法陣を警戒しながら、1度シンシアから距離を取って防御の構えを取る。
「火の雨を降らせ」
シンシアが詠唱を終えた瞬間、巨大な魔法陣から無数の火の玉が雨のように降り注いだ。
その一つ一つは小さい物の、その雨はフィールド全体に降り注ぎその場にいる者に逃げ場はなかった。
魔法を使えるシンシアは結界を貼り火の玉から自分の身を防ぐが、アルバは魔法を使えない。
肌に当たらぬよう、鎧と剣で炎から身を防いでいる。しかし近距離に無数の火の粉が飛び散り、確実に少しの火傷を負っているはずだ。
シンシアは今、本気で戦っている。大魔道士になる夢の為だ。
そしてアルバもヘレン姫の騎士として、大きなプライドを持ち本気でシンシアを打ち倒そうとしている。その決意は大きい。
「っ……まだまだ……これからだっ!!」
火の粉の散ったフィールド。砂埃で視界が悪い中、火の雨が収まったのを期にアルバは再びシンシアへと間合いを詰めた。
「遠距離でしか戦えないと思うな」
「なっ──」
シンシアは逃げる事なく、アルバの懐に潜り込み腹部に手を当てた。
その予想外の行動にアルバは逃げる事を怠ってしまった。
「っっ──! がっ……はぁっ……!」
触れられただけで、アルバの腹部の鎧が大きく凹んみ倒れ込んだ。
降参するチャンスだ。
「試作段階の魔法だ」
シンシアの両手の平には、この場の誰もが見たことのない魔法陣が浮いていた。
しかし実に簡単な魔法である。空気を圧縮し、それを前方に放つだけの物。しかしその威力は鉄をも砕く。
「っ……くっ……そ…………」
アルバは腹部を抑えながら再び立ち上がった。
「頑張れ〜っ!! ヘレン姫様の為にっ!!」
「負けるな〜!! 立ち上がれ!!!」
そういえばこの国の人々はヘレン姫とアルバの関係を応援しているんだった。
「……ふっ……私は絶対に諦めないっっ!!」
声援によってアルバは再びシンシアとの間合いを詰める。
即座にシンシアは両手を構えて魔法を発動するじゆんびをした。
「悪く思うなっ!」
「っ!?」
アルバの片手から大量の砂がシンシアの顔へ書けられた。
先程倒れ込んだ時に砂を片手に集めたのだろう。アルバの動き全てに注意を払っていたシンシアは、その大量の砂が仮面の隙間から入って目の中、口に入る。
「何でもありの戦いだっ!!」
「っ────!!?」
何も見えないシンシアの横腹に、鋭い痛みが走った。
「あ゛ぁっっ──!!」
横腹に手を当てる。そこから熱い何かが溢れてきている。
「オラァァッ!!」
なんとかこれ以上の攻撃を防ごうと、広い範囲に炎を生み出した。
「っ……くぅっ…………」
シンシアは切られた横腹を抑えて視界を取り戻す。手には真っ赤な血が付いていた。
「やはりまだ子供。痛みには弱いのだな」
「はっ……はははっ……こっちは回復しながら戦える……」
切られた腹部に小さな魔法陣を作り、持続して治癒魔法を掛け続ける。これは魔力消費は少ないが、その分回復に時間がかかる。
「少々私も良心が痛む」
「そうか……ならっ……本気出さねぇとな」
その瞬間、シンシアがその場から消えた。
「何っ──っ!」
いつの間にか背後に回っていたシンシア。その手は既にアルバの背中へと触れており、空気を圧縮させた衝撃を当てる。
「かはっ…………!」
あまりの衝撃にアルバの視界が薄くなる。
「ぐっ……くそっ……それをまともに受けていたら……気絶しそうだ」
「そうか。その前に降参した方が良い」
「っ────!」
再びシンシアが背後に回っている事に気付かず、同じ攻撃を2度も受ける。
今度は完全に油断していたのか、アルバの身体は大きく吹き飛んでフィールドの壁に当たり、力無くその場に倒れ込んだ。
「……気絶か」
「…………」
流石にこれ以上はアルバの内臓が破裂してしまう程のダメージになる。ここで気絶してくれて良かったとシンシアは安心した。
「まだ…………だっ!」
「っ……マジかよ……」
身体をガクガクと震わせながら立ち上がるアルバに、シンシアはついに情けを抱き始めた。
これ以上戦い続ければアルバの身体は持たない。
「アルバ、降参してくれ……」
「しないっっ…………動ける限りっ……諦めないっっ!!」
アルバはボロボロの身体で、ゆっくりとこちらに近づいてきている。
もうかなりのダメージを負っているはずだ。身体がまともに動かなくなる程のダメージなら、普通の人間なら精神が折れて降参する。
しかし、アルバは降参するつもりはないようだ。
「さぁっ……来いっ!!」
「っ……」
アルバの口から血が垂れている。内臓に傷が出来てしまったのだろう。
しかし、アルバはフラフラのまま剣を構えてシンシアを真っ直ぐな目で見つめている。
「これが……最後の一撃だ。死なない範囲に留める」
「っ!」
シンシアが両手をアルバに向けると、アルバの周りに無数の小さな魔法陣が現れた。
アルバはその魔法陣を見て、ヨロヨロと後ろに下がる。
「……──撃て」
小さな魔法陣から、圧縮された空気がマシンガンのようにアルバの身体へ撃ち続けられた。
「があ゛あ゛あ゛っ!!!! あ゛っ……ぁ……」
口から大量の血を吐いて倒れたアルバ。今度こそ完全に気絶しただろう。
「っ……すまない」
シンシアは重症を負ったアルバに近づき、自分の全ての魔力を使用して相手の傷を全て治す魔法陣を生み出した。
「こ……この勝負……シンシアの──」
「……ま…………だ……」
「っ!!」
闘技場の審判が勝敗を告げようとした時、アルバは声を発した。
「おっ、おい! もう動くな!!」
「まだっ……戦えるっ……」
これ以上動いたら死は確実だ。
「……審判。俺が降参する」
「えっ……わ、分かりました。この勝負、シンシアの降参によって勝者アルバ!!」
そしてシンシアは、アルバの傷を全て治して魔力切れで倒れた。
その時の闘技場は驚く程に静かで、物凄い戦いを見たという興奮よりもアルバとシンシアの心配をしていた。
口から血を吐いて倒れているアルバは、まだ意識はあるものの今にも死んでしまいそうだった。傷は完全に治ったが、また披露によって動くことができないのだろう。
シンシアは、魔法陣によって横腹の止血をしたまま戦っていた。しかしアルバの傷を治し魔力切れで倒れた今。再び横腹の傷が広がり、大量の血を流しながら倒れた。
観客達は、シンシアが突然倒れて血を流し始めたと心配そうにざわついている。
すぐにフィールドには闘技場の医療班が駆け込んで、アルバとシンシアを運んでいった。
フィールドには2人の血が付いており、2人は死んだのかと、怖くなってその場から逃げる客達も少なくはなかった。
「シンシアちゃんっ……私行ってくる!!」
「私も行きます! お父上は待っていてください!」
サラとヘレン姫も心配になり、2人が運ばれていった医務室へ急いだ。
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