幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
76話 騎士のプライド
シンシア達が部屋でのんびりしていると、扉をノックされた。シンシアはすぐに仮面を付けて扉を開ける。
「やあ、私だ」
「アルバか。って、飯!!」
アルバの腕の中には、器用に三人分の料理が乗せてある。その事に気づいたシンシアは料理の中身を見て更に喜ぶ。
「ステーキッ! 刺身っ!」
「落ち着け。食べ物は逃げないぞ」
アルバが持つ料理を覗き込む為に、シンシアはピョンピョンと飛び跳ねながら料理を見ていた。
「一緒に食べても良いだろうか」
「勿論! 食おう食おう!!」
テーブルに置かれた料理に早速手を付けようとしたが、仮面がある。
「……外そう!」
「もういいのか……」
豪華な料理を目の前にして、シンシアは仮面を外してガツガツと食べ始めた。
「ふっ、やはり可愛い顔をしているな」
「そうかっ……アルバも食えっ……サラもっ」
ステーキのようなしっかりとした肉は食べた事がなかった。ハンバーグなんかは食べたあるが、あれは肉の食感を台無しにしている。
やはりステーキのように噛みごたえのある肉こそが至高。
肉汁が口の中で広がり、噛めば噛む程味が出る。
「んん〜〜っ! んまいっっ!!」
「泣くほどか?」
「シンシアちゃん食べるの大好きだもんね〜」
物凄い勢いで食べるシンシアを笑いながら見ていたアルバとサラも食べ始めた。
「あっ、美味しい」
サラも満足する程の味。流石お城の飯だ。
「そうだ、食べながら聞いてほしい。もっと休みたいという気持ちもあるだろうが、明日是非私と手合わせを願いたい」
「っ? 誰と?」
「サラ殿とシンシア殿、どちらでもいい。ただ……私は姫様を命の危険に晒した。このままでは護衛として力不足だと思ったんだ。1度、戦ってほしい」
そう頼まれたシンシアとサラ。しかし、サラは女神である為力を使う事はあまりできない。となるとシンシアが戦う事になる。
「分かった、俺が戦おう。場所は?」
「城下町にある闘技場だ。なんでもありの闘技場だが、勝敗は降参、または気絶させれば勝ち。
シンシア殿は子供だが。実力は相当な物だと知っている。大人気ないが本気で行く」
アルバは相当気合が入っているようだ。
「もしかして、セドリックさんに何か言われたのか?」
「……正確には、セドリック様とヘレン姫が話しているのを部屋の外から聞いた。「あいつは騎士には向いていない」……と」
ヘレン姫の命を守ると約束したアルバが、騎士に向いていないと言われたらそれは辛い事だろう。
「他に何か言ってなかったか?」
「……辛くなって……逃げ出してしまった。私はもっと強くなければならないのに、ヘレン姫のお父様の言葉が怖いのだ……」
アルバは悔しそうに涙を流した。
今まで耐えていた分、シンシア達に話して感情が溢れてきたのだろう。
「そうか……明日の闘技場には誰が来るんだ」
「っ……きっと国民達と、姫様のお父様も来るだろう」
しかし、その闘技場でシンシアがわざと負ければシンシアの夢も遠ざかってしまう。
「本気で戦ってくれ。私はただ、全力で戦って騎士としての勇姿を見せつけるだけだ」
「……分かった」
「ふぅ……すまない。一緒に食事を楽しもうとここに来たのだが、つい感情的になってしまった」
アルバは涙を拭いて笑顔を作りながら、誤魔化すように食事を食べ始めた。
それだけヘレン姫の騎士としてのプライドが高いのだろう。守りたい物も守れない自分が悔しくて、ヘレン姫の親に認めてもらう為に色んな手を尽くして。
そして明日のシンシアとの戦いで、父に認めてもらおうとしている。
ならばシンシアのする事は1つ。全力でアルバと戦う事しかない。
手加減なんてのはアルバの覚悟やプライドを穢す事になる。
「……お代わり頼めるか?」
シンシアはキリッとした表情で、お代わりを頼んだ。
◆◇◆◇◆
「ぷはぁ〜っ! 食った食った!!」
あれからもう一つお代わりを頼んだシンシアは、満足そうに腹を叩きながらソファで横になった。
その姿はまるでおっさんだ。
「明日目を覚ましたらヘレン姫様の部屋に来てくれ。待っている」
「ああ」
「では私はこれで失礼する。ごゆっくり」
「おやすみ〜」
アルバが一礼をして部屋から出ていくと、シンシアはローブも脱いで大きなベッドに倒れ込む。
「あぁ〜幸せ……とろけるぅ〜……」
そのままベッドの中心に、ゾンビのように移動してゴロンと上を向いた。
天井には騎士が剣を持って戦っている絵があり、光が反射してキラキラと光っている。
「サラ〜……電気消して……」
「そうだね〜今日は気持ちよく眠れそう……」
サラは大きな欠伸をしながら部屋の電気を消して、シンシアの横に寝た。
「おやすみ……」
寝心地の良いベッドでは、流石のサラもシンシアに構うことなく眠りについていった。
旅の初日から充実した生活を送れている事に感謝をしながら、シンシアも明日の為にしっかり睡眠をとった。
◆◇◆◇◆
次の日の朝、シンシアとサラはヘレン姫の部屋にやってきた。
「待っておりました。アルバったら緊張してるんですよ」
「きっ、緊張などしておらぬ! シンシア殿。今日はよろしく頼む」
「ああ。セドリックさんに良い所見せてやろうぜ」
それからお互いに準備をして、街にある闘技場へ向かった。
闘技場にはメイドが押す車椅子に座ったセドリックが待っており、ヘレン姫を見つけると立ち上がろうとした。
「セ、セドリック様! 安静にしてくださいっ!」
「っ……くっ、もう力が入らん……」
諦めて車椅子に座ったまま、メイドに押されてヘレン姫の前にやってきた。
「お前が戦うのだな」
「あ、はい。全力を尽くします」
セドリックはシンシアを見つめて優しい笑顔を浮かべた。
「見た目の割に大人しいな」
優しいおじいさんのように、シンシアの頭をポンポンと撫でてヘレン姫の方を向いた。
「騎士の方は戦う準備は出来ているのだろうな」
「もう……アルバに直接聞いてくださいよ。ちゃんと朝から準備してきてますよ。お父上」
その横でアルバは下を向いていた。
「待つのは嫌いだ。早く始めてくれ」
◆◇◆◇◆
シンシア達は闘技場の中に入っていき、その観客の多さに驚いた。
「凄いな……もうほとんどの席が埋め尽くされてる」
「シンシアちゃん緊張してない?」
「あ、ああ。仮面してるから意外と緊張しない」
「私の方が緊張してる。へへへっ」
なんてサラが笑いながら言った。
アルバを見ると、かなり緊張した様子で胸に手を当てて何かを呟いていた。腰には剣を刺しており、それを片手で握りながらブツブツと。まるでゾーンに入る時に似ている。
いや、まさかゾーンに入っているのか。
「……よし、シンシア殿。フィールドに行こう」
目を開けたアルバの目は、極限状態まで集中した目をしていた。王都の騎士としてプライドが大きく、そのアルバの雰囲気に圧倒する。
シンシアもゾーンに入りながら、フィールドに入った。
すると観客達の声が一気に大きくなり、空気の振動が胸に伝わってくる。この場の空気に一体化したような気分になり、お互いの集中力は更に高まる。
戦いの合図は大銅鑼が叩かれた時。
アルバは剣を構えて、シンシアは両手に魔力を集める。
今、王都の騎士と大魔道士を目指す子供の本気の戦いが始まる。
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