幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

72話 さぁ、旅だ



「本当に行っちゃうの……?」
「ああ。こんなに急ぐ事もないと思うけど、俺は大魔道士を目指してるからな」


 シンシアは旅に出る為の荷物を持って、皆と学園の門に集まっていた。
 アイリは心配そうにシンシアの手を強く握っていて、まだ離れたくないという願いを感じる。


「ごめんアイリ。でも大魔道士になって帰ってきたら色んな事をしてやるからさ」
「……ずっと待ってるからね。帰ってきたら絶対に私の家に来る事、約束だよ」
「あぁ約束だ」


 二人は互いの手を握って、簡単ではあるが約束を作った。


「サラ先生、シンシアちゃんを任せましたよ。魔王様もシンシアちゃんを待っていますから」
「シンシア! お前が大魔道士になった時には、僕はきっと偉大な魔王になっている! そしたら僕の家来になれ!」
「あぁ、多分な」


 イヴとも約束をすると、満足そうに頷いて腕を組んだ。イヴは魔王になっても女装したままなのだろうか。……それだけが一番気になる。


「よし、そろそろ行くか」


 シンシアは覚悟を決めてローブのフードを被り、肩からズレたリュックの位置を調整した。


「それじゃあ皆! 私とシンシアちゃんの2人きりの旅が始まるけど、嫉妬しないでね!」


 サラの空気を読まない発言で、今までお別れの雰囲気だった門前の緊張が一気にほぐれた。


「ふふっ……二人なら無事に帰ってこれそうね」
「サラ先生は女神なんだし、それにシンシアちゃんも強いんだから大丈夫だよね! 私もシンシアちゃんに追いつく為に頑張るよ」


 アイリも何か一つの夢というか、目標を持っているらしい。しかしその目標は俺にも教えてくれない。


「シンシアちゃん、最後なんだし皆とハグしなよ」
「え、えぇっ……分かった……っと、アイリ」


 サラに言われて、シンシアは仕方なく両手を広げてアイリの方を向いた。


「っ!!」
「ゔっ……」


 物凄い力で抱きしめられて空気が漏れる。


「…………も、もうそろそろいいだろ」
「元気でね」
「ああ、ありがとう」


 アイリの絞め技から解放されて、次はイヴの方を向く。


「シンシアがどんなに成長しても僕のメイドだからね」
「あぁ俺まだメイドなのか」


 こんな事ハグしてる時に言うことではないと思うのだが、イヴらしい。


「……アデルは……いないな。まあいいか」
「ちょっと待てコラァァァア!!! 俺がいない事に疑問を抱けよっ!!」


 どこからかアデルが飛び出してきて、特別クラスの生徒達は 「お前何してんの?」 という視線を向けている。


「さっ、最後くらい俺に優しくしてくれてもいいんじゃねぇか? ほらっ! ハグ!」
「……そうだな」
「っ!」


 両手を広げたアデルに、シンシアも両手を広げて近づいていく。


「わぁ〜ぃ……あれ? 固い……」
「ほら、俺のバリアだ」
「なんで触らせてくれないんだよぉ〜!!!」


 魔法で結界を貼り、その結界にハグをさせてクラリスの方を向いた。


「クラリスさん。今まで色んな事を教えてくれてありがとうございました」
「いいのよ。シンシアちゃんなら正しい使い方をしてくれると分かっているからね」


 クラリスはシンシアを信用して魔法や魔法陣を教えてくれた。ダリウスのように使い方を間違える可能性もあるというのに、クラリスはシンシアの全てを理解し、信用して、まるで母のように受け入れてくれる。
 しかし、シンシアは1人の人間として成長しなければならない。いつまでも親に頼って生きていては、未熟者のままだ。


「また何かあったら……その時はよろしくお願いします」
「困った時はサラ先生に頼りなさい。シンシアちゃんの事になると本当にダメな先生だけど、根はしっかりとした女神なんだから」
「にへへぇ〜……照れるよぉ」


 シンシアとクラリスは短いハグをした。


「それじゃあ行ってくる」
「皆元気でね!」
「サラ先生もシンシアちゃんも元気で!」


 最後までアデルはシンシアのバリアを叩いていたが、結局壊れることなく別れた。


◆◇◆◇◆


「ついに旅かぁ……」
「まずは西に進んでみようよ! 確か西にはこの大陸で一番大きな国があるはずだよ!」


 というと、王都ドラグーンだな。
 竜と深く関わりを持つその国は、竜の国として世界から様々なハンター達が集まってくる。その国の王様が竜を飼っているという噂があったりと、有名な国だ。


「よし、のんびり道中を楽しもう」


 二人はこの国の壁の外に転移して、外で待機していたシンシアの使い魔のベネディに乗って西へ進み始めた。
 シンシアはクラリスと作った仮面を装着して、流れていく森の景色を楽しんだ。


「ベネディ、そんなに急がなくても旅っていうのは道中が楽しいんだ。のんびり行こうぜ」
「そうか。では馬車の通る道をゆっくり歩くとしよう」


 西の王都まで続く道をゆっくり進みながら、シンシアは持ってきたお菓子を食べる。


「あっ! 私にも1口頂戴!」
「っ……1口だけだからな」


 サラはシンシアから貰ったお菓子を一口食べると、ベネディの背中で横になった。


「お昼寝しよ?」
「そうだな。ベネディ、何かあったら起こしてくれよ」
「ちょっとした事なら周りの狼達に助けてもらう。ゆっくり眠るといい」


 二人はリズム良く揺れるベネディの背中で眠りについた。


 シンシアは目を瞑りながら、これからの事に妄想を膨らませる。
 ハンター登録を済ませたのなら、王都に行ってハンターとして軽く仕事をしてみるのも良い。人助けとかしてみれば、きっと良い噂が広まるはずだ。
 他にも野外キャンプ。ダンジョン探索なんかも良いな!


 ダンジョンというのは、精霊が地下世界に作り出した"もう一つの世界アナザーワールド"とも呼ばれる場所だ。完全ランダムに作られたダンジョンには未知の道具や宝、金銀財宝なんかが眠っていたりする。
 そんなダンジョンが見つかると、ハンター達はゾロゾロと宝を求めて中に入っていくのだが、中には強力魔物やトラップが存在することもあり、命の危険もある。
 その為、様々な役割を持つ人々が大勢で攻略して、見つけた宝を山分けする。という事が多い。


 本で読んだ話だけで判断するのなら、最も効率の良い稼ぎとなるだろう。それで美味しい物をたらふく食べるのも良い。


 色んな夢を妄想しながら、二人は王都へ近づいていった。

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