幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
71話 可愛い子には旅をさせろ
ダリウスの件から1週間が経ち、久しぶりに何もない休みの1日を過ごしているシンシアは、暇そうにベッドの上でゴロゴロして本を読んでいた。
「シンシア〜サッカーしよ〜?」
「アデルの家にでも遊びに行ってくれば」
「面倒臭い。庭で軽くで良いからさ〜」
イヴも暇そうにしているシンシアを遊びに誘ったのだが、あまり乗り気ではないようだ。
その頃、サラとクラリスはシンシアに何をすれば元気が出るのか、リビングで話し合いをしていた。
「いつもは仕事してる時間帯だもんね〜……」
「何かする事が見つからないと、きっとこの先もあのままの可能性もあるわ」
今までは朝からバタバタと忙しい日々を過ごしていたシンシアにとって、急に何もする事が無くなる休日は辛い他にない。
何か新しい習慣のような物を与えさせるのも良い事だが、正直二人はシンシアにもっと休んでいてほしいという気持ちもある。このままベッドの上で休ませていても良い、という感情が邪魔している。
「そろそろ旅に出た方が良いのかもしれないわ」
「旅……危なくない? 私も一緒に行くから良いけど
……まだここに残ってた方が安全な生活できるよ」
「シンシアちゃんは安全な生活よりも、忙しい生活の方がやる気に満ち溢れた表情をしてくれるじゃない」
サラは家庭教師をしていた時のシンシアを思い出して、クラリスの言うことは確かにその通りだと思った。
「そろそろシンシアちゃんの意思に任せた方が良いのかもしれないわ」
「そうなるのかな……」
サラは心の中で保護者としての様々な葛藤をしていた。
◆◇◆◇◆
「シンシアちゃん、お昼ご飯だよ〜」
「今行く〜」
朝食は食べてなかったけど、流石に昼は食わないと魔力が危なくなってくるな。
シンシアはリビングに向かって、皆と昼食を取った。
「ねぇシンシアちゃん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「うん?」
「旅ってまだ行かないの?」
お椀の中のスープを一気に飲み干した所で、サラに聞かれた。
「あぁ〜旅……別にいつでも行っていいけど、なんで急に?」
「シンシアちゃん暇そうだったからちょっとね」
サラは若干いつもより真面目な雰囲気でそういった。
「……じゃあ行く? 明日か明後日にでも、アイリ達と話してから」
「シンシアちゃんが行きたいなら私は付いていくだけだよ」
一応サラもシンシアの旅に付いていくことになっている。これはサラが泣きじゃくってシンシアにお願いしたからだ。
「よしっ、じゃあこれ食べたら準備の為に買い物行くか。明日学校でアイリ達と話して次の日に出発しよう」
「ふふっ、そうだねっ!」
急に元気の出てきたシンシアに、サラは嬉しそうに笑った。
やはりシンシアは忙しいくらいが楽しめるのかもしれない。
◆◇◆◇◆
「旅のためにリュックも大きめの買いたいよな〜……どれにするか」
「お金なら沢山あるから好きなの選んでいいよ」
「じゃあこれでっ!」
シンシアの上半身よりも大きいリュックを買って、今度はその中に入れる物を探し始める。
「仮面とローブの下に着る服は適当で良いかな〜……暗め暗め……俺のサイズ無いのか?」
「どうしたお嬢ちゃん」
サイズの合った黒い服を探していると、店員のおっちゃんに話しかけられた。
「お……私の服に合った黒い服ってありますか?」
「あぁ〜それなら店の奥にあるよ。取ってきてあげよう」
「ありがとうございます」
これでリュックと服は完璧だ。後は旅の道中必要になる物、テントとか必要なのだろうか。
いや、近くの村や町なんかに泊めてもらうの良いのだろう。
他には食料、ハンターカード、飲み物、武器、お菓子。
後ダリウス君にあげる予定だった教科書は念のため持っていくことにしよう。あれ、意外と詳しく書いてるから便利なんだよな。クラリスさんにも凄いと驚かれたし。
そうしてシンシアはサラと一緒に街の中をウロチョロして、必要そうな物が目に入ったら買っていく、を繰り返していった。
「後はハンターカード。ハンター登録した方が良いな」
「ついにシンシアちゃんもハンターかぁ……」
二人はハンターギルドに入って、受け付けのまでやってきた。
「ようこそハンターギルドへ。今日はどのようなご要件でしょう」
綺麗な女性が見事なスマイルを見せた。
「この子のハンター登録をしたいのですが」
「うわっ! 抱くなっ!!」
色んなハンター達が見ている中で、シンシアはサラに脇から抱き抱えられてバタバタと暴れる。
「まあ可愛い! では早速奥の部屋に案内します。最近新しいハンターカードの作り方が導入されて、便利になったんですよ」
そう言われてギルドの奥にやってくると、真っ白な壁の部屋に着いた。そして一台のカメラもある。
「これ、カメラって言うんです。魔物みたいな名前ですけど安心してください。とりあえずここに……ちょっと待ってくださいね」
しばらく待つと、一つの台を持ってきてカメラの正面に置いた。
「これに乗ってください。今からこのカメラの凄さを見せますよ!」
「は、はい」
実はカメラがなんなのか知っているのだが、こっちだと珍しいから受け付けの女性はドヤ顔しているのだろう。
台に乗ってカメラを見ると、女性はカメラを持って撮影するボタンに指をかけた。
「あっ、良いですね! そのままそのまま〜……」
──カシャッ
「どうでしょう!」
予想以上に強い光を当てられたが、シンシアは動じずに無表情を貫いていた。
「あ、あれ〜……ビックリしませんでした?」
「ビックリして言葉も出ないです」
「ですよね! では、少しお待ちください」
女性はカメラを持って別の部屋へ入っていった。
◆◇◆◇◆
帰ってくると、一枚のカードを渡してきた。
「す……凄い方だったんですね……どうぞ……」
「……ん?」
そのカードには、先程撮った自分の顔写真。そして名前と学生証と似たようにそれぞれの能力にランク付けがされていた。
【剣術S、筋力S、体力C、技術A、魔力SS、知力S】
なるほど。このカメラにはそういう機能も付いていたのか。
ふむふむ、前よりそれなりに成長しているな。
「ありがとう」
「あ、あの……何者なんですか?」
「うん? 普通の大魔道士を目指す子供だよ」
ギルドカードを作り終えたシンシアは、サラと一緒に家へ帰った。
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