幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
61話 捜索
シンシアは、突然行方が分からなくなったサラとアイリが心配でその日は眠ることができなかった。
次の日の朝クラリスとイヴと一緒に学園にやってきたが、勿論サラとアイリの姿はない。
「なぁアデル、サラとアイリ見てないか?」
「ん……? サラはシンシアちゃんと一緒に住んでるんじゃないのか?」
「そうなんだけど、昨日あのあとプール掃除してたらいつの間にか居なくなってて……」
シンシアが不安そうな顔を見せると、アデルがバッと立ち上がった。
「突然いなくなる事はありえない。それにサラ先生は女神だって言ってただろ? もしかしたらいつか帰ってくるかもしれない。ただそれまで待つだけってのもアレだな……クラスの皆で探すか」
「アデル……」
「サラ先生は俺達の担任だ。それにアイリだって同じクラスじゃねぇか、ハンターギルドに捜索依頼だして俺達でも探しに行こう」
「ありがとう……アデル」
頼れるアデルを見て、シンシアは少し希望の光を見た気がした。
「でももし、サラ先生が勝てない危険な存在が関わっているとしたら……あまり私達が関わるのは危ないかもしれないわ」
「クラリス先生っ! 危険だとかそういうのを考えてちゃダメだ! きっとサラ先生やアイリはどこかで助けを求めてるかもしれない。なら俺達が探してやらねぇと!」
クラリスの言葉に対しても強気で当たるアデルは、どこかカッコよく見えた。それほどサラとアイリを大事に思っているのだろう。
「……そうね。私も協力するわ」
「まずは捜索依頼を出しに行こう」
それからシンシア達は街にあるハンターギルドで捜索依頼を出した後、それぞれ別々にサラとアイリの手がかりを探しに街を走り回った。
◆◇◆◇◆
「はぁっ……はぁっ……クラリスさんっ……何か見つかりましたか?」
「いえ、何の情報も得られなかったわ。恐らく私の考えではサラ先生達は悪魔に襲われた可能性が高い」
「あ、悪魔……?」
「神より強い存在は悪魔しかいないのよ。それもかなり上位の」
悪魔……そういえば昔、イヴについていた悪魔を祓ったらその悪魔がサラに取り付いてしまった事があった。あの時はゼウスがいなければ皆死んでいた。
「……ゼウスに頼むしかないのか?」
「ゼウスは今家族と旅行に行ってるから、私達で何とかするしかないわ。そもそもゼウスは世界に干渉する事は許されないもの。頼っちゃダメ」
「くっ……サラ……アイリ……」
二人は今どこで何をしているんだ。昨日あの時、二人の身に何が起きた。
いや、考えていても仕方ない。とにかく何か手がかりを探さないとダメだ。
「俺はあっちに行く。クラリスさんはあっちで」
「分かった。もし何かあったらすぐに逃げるのよ」
「ああ、俺にはベネディがいるから大丈夫だ」
丁度こちらに駆けつけてきたベネディが、近くの建物の上から飛び降りてきてシンシアの横に立った。
「シンシアちゃんの使い魔さん、シンシアちゃんを頼んだわよ」
クラリスが頬を撫でると、ベネディは答えるようにその手を舐めた。
「じゃあ行ってくる」
「気をつけて」
シンシアはベネディの背中に乗り、再び街の人々から情報を集め始めた。
◆◇◆◇◆
「2人ともっ……どこにっ……」
「泣くなシンシア。まだ時間はある」
どれだけ探しても情報は得られない。街の人々も何人かこの状況を理解して手伝ってくれてる方もいるが、未だに手がかりはゼロ。外も暗くなり始めて、シンシアの心の中に不安が大きくなり、ついに涙を流し始めた。
サラとアイリがいなくなるだけで、こんなにも悲しくて辛い気持ちになるとは思わなかった。
「シンシアッ!」
と、そこに空からイヴが降りてきた。ウルドに乗って色んな所へ探し回っていたのだろう。
「イヴ……どうしたんだ」
「隣の国で、豪雨の雲の上で怪しい影が物凄い速さで飛んでいくのを見た。っていう話が沢山ある」
「っ! どっちの方向だ!?」
「ここからだと丁度南だ」
やっと手がかりらしい話を手に入れたが、それがサラとアイリに関係しているのか分からない。ただこの情報にかけるしかない。
「クラリスさんに報告しに行こう! ベネディに乗って!」
「分かった! ウルドは雲の上を飛んで怪しい何かがいないか監視してて!」
「容易い事だ」
ウルドは大きく翼を羽ばたいてあっという間に雲の上まで飛んでいった。
シンシアとイヴを乗せたベネディは、建物の上を飛び移りながらクラリスの元へ急ぐ。
◆◇◆◇◆
クラリスにイヴからの話を伝えると、少し驚いたような顔をして何かを察したように顔を下に向けた。
「ど、どうしたんだ……?」
「ここから南にはイヴ様と違う魔王が住んでいるの。もしその魔王が悪魔の手に落ちていたとしたら、サラ先生が連れ去られるのも納得できる。……ええ、あの魔王なら昨日の状況も有り得るわ」
「「教えてくれ」」
シンシアとイヴは同じタイミングでクラリスに聞いた。
「簡単に説明すると、南の魔王は天気を操れるの」
「天気を……? それでどうやってサラ達を連れ去ったんだ?」
「それは私にも分からない。南の魔王には謎が多いの。ただ1つ知ってる事を言うなら──隣の魔王はイヴ様よりも強い」
イヴよりも強い。それはつまり、今のシンシアやクラリスでは手も足も出ない存在だという事を理解するのに十分な言葉だった。
イヴよりも強い魔王が悪魔の手に落ちた。それならサラやアイリは……今頃生きているかどうかすら怪しい。
サラは女神だ。本気を出せば強い部類に入るだろうが、それでも悪魔には更に上がいる。そしてシンシアは昔サラに言われた言葉を思い出した。
──「サラは俺の言うことってどの範囲まで聞いてくれるんだ?」
「ん? そうねぇ〜……」
人差し指を立ててじっくり考えている姿も女神並みに美しい。女神なんだけど。
「世界を滅ぼすとか、人を殺すとか以外なら基本的になんでもいいわね。あ、私より強くするなんていうのは不可能だからそれも無理かな〜」──
その言葉がどういう意味なのか。
つまり、シンシアはサラよりも強い存在に勝つことは不可能だという事。
「……どうしたら……いいんだ?」
「どうしようもできないわ」
クラリスに助けを求めるように聞くと、あっさりと希望を絶たれてしまった。
「そん……なっ……サラと……会えない?」
「どうかしらね。今から会いに行くとするなら、私達も悪魔の手に落ちる事になるかもしれないのよ」
「嫌だっ……会えないくらいなら…………」
「落ち着きなさいシンシアちゃん」
「落ち着ける訳ないだろっ!?」
シンシアは自分に何も出来ない悔しさで、クラリスにその怒りをぶつけた。
「サラ達が連れ去られる理由あったか!? 普通に過ごしてただけなのになんで悪魔が来たんだよ!! そんなの理不尽じゃんかっ!! ふざけんなよクソッ……なんで! ……なんでサラなんだよ……こんなの……理不尽だよ……」
こんな事をクラリスに行っても仕方ないことなのかもしれない。しかし、シンシアは世界の理不尽さに怒りにも近い感情と悔しさが混じって、自分でも訳が分からないくらいの狂いそうな衝動に襲われた。
しかし、そんなシンシアを黙って抱きしめるクラリス。シンシアの感情を読み取ったイヴも辛い表情をしている。しかしクラリスは黙って抱きしめてあげる事しかできなかった。
◆◇◆◇◆
「シンシアちゃん、もう寝るの?」
「……寝る……」
「シンシア風呂入らないのか?」
「いい……」
シンシアはクラリスとイヴの言葉を軽く受け流し、そのまま寝室に帰っていった。
いつもならサラの温もりで暖かいベッドも今日はひんやりと冷たい。熱が燃え尽きたかのように、シンシアはただ天井を見つめてボーッとしていた。
横にいるベネディが頬をぺろぺろと舐めてあげても何の反応も示さなくなってしまっている。
しかし、ふいにシンシアが口を開いた。
「ベネディ。クラリスさん達が寝たら連れてってほしい場所がある」
「……その考えが正しいと思うのか?」
「思わないし、俺に何かができると思ってもいない。でもこのまま何もせずにいるよりは、せめてサラとアイリの為に動いて死にたい。だから南に。魔王の城に行ってみよう」
「……我は使い魔として主の命令に従うだけだ。準備ができ次第背中に乗るといい」
それからシンシアは、リビングから物音や話し声がしなくなるまでじっと眠ったふりをしていた。
◆◇◆◇◆
「誰にもバレてないな」
「起きた様子はない。任せろ」
シンシアとベネディは、夜の街をお互いに銀色の髪を揺らしながら飛んで南へ向かった。
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