幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

56話 この世界にプールの季節が



 朝からシンシアはテーブルに項垂れていた。


「シンシアちゃん大丈夫?」
「暑い……最近本当に暑い……」


 ついに地獄の夏がやってきた。
 夏といえば朝から騒がしい蝉が鳴いて世界がサウナと化すあの夏だ。
 精霊の力を借りて風を起こすが、生暖かい風がモワンと顔にかかるだけで何も涼しくない。


「水よ……冷たい塊となり 我の枕になれ…………あぁ〜冷たい」
「そんな詠唱あったっけ……」


 氷の塊を作り出して枕にすると、頬がひんやりと冷えて気持ちが良い。これでこの夏は生き残るか。


──ガララッ
「皆さ〜ん! 明日はプール開きです!!」


 元気よく教室に入ってきたサラが大声をあげた。


「皆さんには今日自分の水着を渡します! 医務室に行って身体測定しますよ!」


 ついにこの世界にもプールの季節がやってきた。


◆◇◆◇◆


 医務室で、シンシアとアイリが下着姿だけになりサラとクラリスに身長、体重、スリーサイズを測ってもらう事になった。
 シンシアはブラなんて着ける年頃ではない為、アイリにマジマジと身体を見られて身体を隠す。


「お風呂で見たことあるんだし、隠すことないでしょ」
「そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいんだよ」


 なんとか身長体重も図り終わり、スリーサイズも測ったところでクラリスが何か魔法を発動した。


「はい。シンシアちゃんとアイリさんの水着です」


 その水着は前世で実際にはあまり見ることはないが、かなり有名な形状のあのスクール水着。これを着た姿を前世の変態に見られたら薄い本間違いなしのあの水着だ。クラリスが即座に2人のサイズに合わせて作ったようだ。


「えぇ〜これ着るのか」
「この世界じゃどこもそのデザインよ」


 露出が多いのは嫌いなシンシアは、ほぼ隠す場所が下着と変わらない事に不満を抱いていた。


「明日はそれ着て特別クラスはプールで泳ぐよ!」
「っていうかこの学園にプールとかあったのか」


 知らなかったな。


◆◇◆◇◆


 身体測定を終えて、水着を片手に教室に戻ってくると男子達がこちらを一斉に向いた。


「やっぱりスク水か!」
「土よ 奴を貫く矢となりて 放たれたまえ」
「うおわぁっ!?」


 アデルが喜んでいるような声を出した為、アイリが即座に魔術でアデルを攻撃した。


「危ねぇ……」
「次は当てるわよ」
「悪かった」


 シンシアとアイリは水着を自分のバッグの中に入れて椅子に座った。


「……あれ? イヴは身体測定まだなのか?」


 さっきからずっと椅子に座っているイヴを不思議に思い、シンシアは聞いてみた。


「なんか僕は特殊だから1人で身体測定するってさ」


 まあ見た目が美少女なのに付いてるモノは付いてるからな。そりゃ分けられるのも納得だ。


「じゃあイヴの水着はどうなるんだろうな」
「私達と一緒なんじゃない?」
「イヴ……それでいいのか?」


 男なのに女物のスク水って絶対嫌だろう。


「いいよいいよ。僕女の子の格好するのなんか慣れちゃった」
「えっそれは……」
「もしかして女装に目覚めちゃった?」


 女装という言葉を聞いて、イヴはハテナマークを浮かべた。


「女装って?」
「男なのに女の子の格好をする事を女装っていうの」
「へぇ〜じゃあ僕、女装好きかも」
「マジかっ! じゃあ今度から女装してきてくれ!」
「分かった」


 シンシアがそう頼むとイヴは清く受け入れてくれた。
 これでイヴを女の子として見れる!  男だとしても、イヴは見た目では女の子なんだから女の子だ。


「へぇ、シンシアちゃんそういうの好きなんだ」
「ちがっ、ただイヴなら女装した方が違和感ないだろって意味でだよ」
「確かに。イヴちゃん可愛いもんね」


 イヴはあのクラリスでさえも男だと分からなかった完璧な男の娘だ。それはつまり女でも問題がないという事。


「あ、イヴちゃん。ちょっと髪結ばせて」
「あんまり引っ張るな〜っ!」


 アイリがイヴの赤い髪をポニーテールにすると、印象が全然変わって更に可愛くなった。


「おぉ〜可愛い」
「前髪は前に残したまま、っていうのがポイントね」
「髪結ぶと涼しいな!」


 イヴも喜んでいるようで何よりだ。


「お、俺も結んでくれないか?」
「仕方ないなぁ〜、可愛くしちゃおっと」


◆◇◆◇◆


「「おぉ〜!」」


 鏡を見ると、結構複雑な結び方をしてある。
 後ろ髪の上半分だけを結んでいるような髪型で、これも前髪を残して結んでいる。


「これはハーフアップっていう髪型よ。前髪を残すのは私の趣味」
「ただどうしても耳にかからない髪があるんだけど……気になるな」
「この髪はヘアピンとかで止めれば良いんだけど、こっちの世界にはないわよね……」


 ヘアピンかぁ〜今までヘアピンの使用用途が分からなかったが、こういう纏まらない髪をまとめる為にあるんだな。


「なんか髪型をオシャレにしてみるのも良いかもな」
「そうだね〜僕も色んな髪型にしてみたいかも」
「そうだ! 今度プール上がりに色んな髪型にしてあげる。ついでに結び方も教えるから、楽しみにしてて!」


 それを聞いたシンシアとイヴは、明日が楽しみになった。


「よし! 僕この髪型皆に見せる為にサッカーしてくる!」
「あっ、じゃあ俺も行くぜ!」
「いってらっしゃ〜い」


 イヴとアデルが教室から飛び出していった。
 男は元気だなぁ。


「イヴちゃ〜ん身体測て……あれ?」


 丁度サラが来たようだ。


「イヴちゃんなら外にサッカーしに行きましたよ。それよりもサラ先生!」
「どうしたの? あっ!! シンシアちゃんの髪型可愛いっっ!!」
「どうも」
「サラ先生の髪も結ばせてください!」


 するとサラは自分の髪を触りながら。


「じゃあお願いしようかな?」


 それからサラは教卓の椅子に座って、アイリの手によって色んな髪型にされた。
 髪型を変えるだけでこんなに楽しいなんて知らなかったな。

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