幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
53話 これが俺の保護者の女神
「可愛ぃぃぃぃっっっ!!!!!!!」
「シンシアちゃぁぁぁあん!!」
「ちょっ、そんなにくっつくなって! む、胸触るな!」
サラとアイリがシンシアの胸に飛び込んできて、慣れない胸の感覚に違和感を感じつつ2人を身体から引き剥がす。
「とりあえず元に戻るからな」
「そんなぁ〜……」
「でも小さいシンシアちゃんも可愛いからいいよね!」
「おかえりシンシアちゃんっ!」
子供に戻って椅子に座ると、久しぶりに会ったアイリとサラは隣にやってきた。
「寂しかったんだよシンシアちゃん」
「そうそう。だからその分一緒に色んな事しようね」
「はぁ〜……まあいいか」
ずっと部屋に篭ってて寂しい思いさせてたしな。2人は多分引きこもりの子供がやっと外に出てきた、みたいな感覚なんだろう。
「この2人ずっとこの世の終わりみたいな顔して教室で死んでたんだぜ」
「アデル君とかイヴちゃんは外でサッカーしてるし、本当に暇だったんだよ〜」
まあイヴもちゃん付けされてるけど、男だしな。男は外で遊ぶのが一番だ。
「ねえねえ! 明日は休みだから大人になったシンシアちゃんと一緒に街に行こうよ!」
「いいですね!」
サラが提案すると即座にアイリが乗った。しかしシンシアは疲れが溜まっている為、しばらくのんびりしていたい。
「シンシアちゃん、大人になった時服が窮屈だったでしょ? だから服も買わないといけないし」
「あぁ〜服……そうだ。胸が窮屈なんだよ」
今着てる服は子供用。シンシアは9歳の身体な為、大人になって少し服が伸びてしまっている。破れるような服じゃなかったから良かったとはいえ、しっかりとサイズの合った服を買わなければならない。
「それにさ、大人になったシンシアちゃんならハンター登録しても良いんじゃない? 」
「いやハンターは別に良いかな。戦うよりは魔法の道を進みたいって思ったし、色んな魔法を作ろうと思う」
するとクラリスがシンシアの両肩を掴んで揉みはじめた。
「シンシアちゃんも魔術の良さに気づいたのね。私の助手にならないかしら」
「良いなそれ。俺がこの学園卒業したらクラリスさんに付いていこうかな〜」
そう言いながらサラとアイリを見ると、頬をプックリと膨らませていた。
「シンシアちゃんは私と一緒にいないと駄目なんです!」
「クラリス先生には独り占めさせませんよ」
はぁ……この2人から少しの間離れてるだけでこんなにも俺にくっついてくるとは思わなかったな。1年くらい居なくなったらきっと恐ろしい事になるだろう。
「シンシアちゃんはこれからどうしたい、とかあるの? 私はシンシアちゃんの意見を尊重するわよ」
「わっ、私も! シンシアちゃんどうなの!?」
「どうなの?」
クラリスさんが大人の発言をすると、サラとアイリはすぐそれに乗っかってきた。
アイリも可愛い物の前ではIQが下がるのか。
「俺は……そうだな。一人旅とかしてみたい」
「「ダメ!」」
「えぇ……」
意見を尊重するとか言っていたのにサラとアイリはあっさり拒否してしまった。
「サラ先生、アイリちゃん。シンシアちゃんだって子供じゃないのよ。いつまでも頼らせて生きていたら何の成長も無いわ」
クラリスが良いことを言うと、サラとアイリは残念そうな顔をした。
「でも……」
「シンシアちゃんが心配な気持ちは分かるわ。でも今のシンシアちゃん、私から見ても凄く頼れるのよ」
「えっ、マジ?」
初めてクラリスにそんな事を言われて、シンシアは嬉しさと驚きの混じった表情で聞いた。するとクラリスはふっと微笑んだ。
「魔法陣だって私と同じくらいの知識を持っているし、戦闘に関してもイヴさんと同じくらいの強さよ。使い魔や精霊とも契約している。もう一流のハンター、それ以上に頼れる存在なのよ」
「な、なんか恥ずかしいな……」
恥ずかしくて顔が熱くなってきた。クラリスさんがそんな事を思ってくれていたなんてな……。
「子供はいつか独り立ちする時が来るの。保護者なら分かってあげても良いんじゃないかしら?」
もうクラリスさんが俺の保護者で良いんじゃないかな。
「うぅ〜……シンシアちゃんは……どうしても一人旅がしたいの?」
「あ、勿論使い魔のベネディは一緒だけど、そうだな〜……一人旅……したい……よな」
男の浪漫、一人旅、自分探し。大魔道士になる目標を一人旅しながら叶えていく。それが俺の人生だと思う。
「俺もその気持ち分かるぜ!」
「アデルは黙ってて」
「あ、はいぃ……」
アデルはアイリに黙らされてしまった。
「うん、一人旅したい。今すぐにとは言わないけど一人で世界の色んな場所を旅して魔法作って、世界に名を轟かせてから帰ってきたい」
シンシアには可愛いと思われたくない、という目標も存在する。人々に尊敬され、カッコイイと思われる存在。
クラリスさんはそんな俺を認めてくれた。クラリスさんのような人をもっと増やしたい。
「まあ……大体1年半くらい後に、かな」
「な、なんだ……良かった。じゃあそれまでは一緒に居てくれるんだよね?」
1年半くらい後という事を伝えると、アイリは安心したような表情を浮かべた。
「ああ。もしかしたらもっと先になるかもしれないけど、今はまだ皆と一緒にいたいよ。一人旅は俺の目標だから」
「うぅぅぅ……シンシアちゃん……私寂しいよぉ……」
「えっ」
サラが号泣していた。怒ってるのか泣いてるのか分からないような顔だ。
「ずっと一緒にいたいよぉ〜!」
「まるでシンシアちゃんが保護者ですね」
泣いて抱きついてきたサラを見て、クラリスは呆れた様子で見ていた。
◆◇◆◇◆
「ぐすん……」
「もう泣かないか?」
「うん……泣かない」
シンシアは泣き止んだサラの頭を撫でていた。
「これじゃ本当にどっちが保護者か分からないな」
「ねぇシンシアちゃん……」
「うん? ──っ!?」
その時、唇に柔らかい感触が触れた。
目の間にサラの顔がやってきて、サラは目を瞑りながらシンシアの唇にキスをしているのだ。
「まあ」
「わぁ」
「俺は何も見てねぇぞっ」
かなり長い間キスが続いて、やっとサラは顔を離して目を開けた。その目は涙目で赤くなっているが、ほんの少し笑っている。
「シンシアちゃんの保護者は私です」
「あ……ああ、そう……だ、な」
この雰囲気、初めてサラと会った時の真面目なサラだ。
初めてサラはシンシアの前でこんな表情を見せた。
「だからせめて」
「……」
「せめて私も連れてってよぉ〜!!」
しかし真面目なサラはほんの一瞬だけしか現れず、また泣きながらシンシアにお願いをしてきた。
「えぇ〜……」
「シンシアちゃんお願い! 私シンシアちゃんがいないとダメなの! だって私、女神の仕事放棄してまで来たんだよ!? お願い!!」
「えぇっ!? サラ先生! 女神の仕事って何ですか!?」
「サラ先生それについて詳しく私に説明してください」
「はぁ……言っちゃったか……」
今までシンシア以外には明かさなかった秘密、サラは女神であるという事をこの場で明かしてしまった。
どうやらそれほどシンシアに着いていきたいらしい。
「わ、私ね……シンシアちゃんがこっちの世界に来る時の担当の女神だったの……それで、シンシアちゃんが可愛くお願いしてきたから……保護者になってね……一緒に暮らそうって決めたの」
「女神がそんな事を……」
「凄いですね」
仕方ない。一人旅が夢だったけど、サラも連れていくしかないな。
「分かった。サラも一緒に来ていいから、その代わり俺はサラを頼ったりしないからな」
「っっ!! シンシアちゃん大好きっ!!」
サラは勢いよくシンシアに抱きついてきた。
はぁ……これが幼女に転生した俺の保護者の女神か。なんて保護者らしくない保護者なんだろうな。
「でも、1年半くらい後に。だからな」
「うん! 明日は皆でお出かけだよ!」
元気を取り戻したサラは、すぐに立ち上がって教卓に座った。
「なんで俺を抱っこしたままなんだ?」
「ずっと一緒♪」
これは前よりも依存が酷くなったかもしれない。
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