幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

48話 精霊契約ガチャ



朝から教室に座って、緊張した空気の中サラとクラリスを待つシンシア達。
 使い魔達は大きさによって肩の上や頭の上、廊下や外等に出されている。アデルの使い魔のカクは一応帰ってきているようで、廊下でこちらを見ていた。


「な、なぁアイリ」
「どうしたの?」
「またカクに見られてるんだけど、大丈夫だよな……?」


 アイリがカクの方を見ると、カクもアイリを見つめ返してきた。


「怖いね。でもイヴちゃんの使い魔がいるから大丈夫だよ」
「そうだよな……あ、先生来たみたいだ」


 クラリスとサラが教室にやってきて、特別生徒全員は姿勢を正した。


「おぉっ! 皆気合い入ってるね〜!」
「サラ先生、これを皆さんに配ってください」
「は〜い!」


 サラとクラリスが配り始めたのは、白いチョークと白くて透明な石だ。
 全員に配られると、クラリスが道具の説明を始めた。


「この石は魔石といって、魔力をこの石の中に入れて持ち運ぶ事が可能になる石です。魔力の無い者でも魔法が使えるようになる石ですが、今日は別の使い方をします。
 このチョークで少し特殊な魔法陣を描きます」


 すると、クラリスは黒板に普通のチョークで魔法陣を書き始めた。


「少し複雑ですが、皆さんに簡単に描けるように私がこの魔法陣を作りました。一人一人分かりやすく教えていくので、とりあえず自分の机に描いていってください。始め」


 早速黒板に描かれた魔法陣を机に移さないといけないのだが、これはかなり難しそうだ。そもそも魔法陣を手書きで描くというのは普通ではありえない。
 新しい魔法を開発する時くらいにしか魔法陣は描かれないのだが、クラリスは魔女なだけあって普段から新しい魔法を考えているのだろう。


「難しいなぁ……」
「シンシアちゃん、ここ文字が違う」
「……はぁ〜……あっ、粉が飛んでくっ」
「クラリス先生が1番から教えていってるから、しばらくは私達で頑張ろう」


 かなり集中力のいる仕事だが、これも白魔術を覚える為に必要な事だ。


◆◇◆◇◆


「ここは三人まとめて教えますね」
「あっ、クラリスさん」


 クラリスさんがやっと俺達の所にやってきた。


「ここは精霊がいる場所を示しているので、黒板の通りに描かないと別の物が召喚されてしまいます。──それと、この文字は対象を精霊に絞る為の物です」


 分かりやすい説明で、魔法陣についての知識もどんどんと入ってくる。


「あのクラリスさん。俺も魔法陣って作れるんですか?」
「魔法陣を作るには特殊な文字を覚えないといけないんですけど、それさえ分かってしっかり魔法陣に組み込む事ができれば作れますよ。失敗したら魔力が爆発しますけどね」


 プログラミングみたいな物か。じゃあアイリとかそういうの得意そうだ。今度アイリと一緒に作ってみたいな。


◆◇◆◇◆


「はい、皆さん魔法陣が完成しましたね」


 クラリスの分かりやすい説明によって、早めに魔法陣を作る事が出来た。しかしまだここから色々とする事がある。


「では自分の魔力を魔法石に注いでください」


 言われた通り魔法石に魔力を注ぐと、白く透明だった魔法石が綺麗な青に変色してきた。更に魔力を注ぐと赤色も混ざってきて、角度によって青や赤に見える不思議な石が完成した。


「その石を魔法陣の中にある小さな丸い円の中に置いてください」


 この魔法陣には、中心から少し上の場所に丸い円が描かれてある。そこが何なのか分からなかったのだが、どうやらここが魔法石を置く場所らしい。
 そこに魔法石を置いていると、チョークで描いた魔法陣の線が青色に光出した。


「今光っているのは魔法陣として成立している証です。ここから精霊に呼びかけて召喚をするので、こう唱えてください。──"精霊よ この呼びかけに答え 我と契約したまえ"」


 おぉ、魔法らしくなってきた。
 周りの生徒達が唱え始めたので、シンシアも早速言葉を唱えた。


「精霊よ この呼びかけに答え 我と契約したまえ」


 すると魔法陣は更に青く光り、目の前にフワフワと浮かぶ緑の光る玉が現れた。これが精霊なのだろうか。


『私と契約してくれるのですか?』
「っ!」


 その声は直接脳内へと響いてきて、不思議な感覚に鳥肌が立ってしまった。


「は、はい」
『では条件があります』


 返事をすると、言われていた通り条件を出された。この条件がシンシアが満たせるか満たせないかで契約できるかできないかが決まる。どんな条件を出されるのかは精霊次第だ。


『私に魔力を常に供給し続けてください』


 それがどういう事なのか言われた瞬間には分からなかったが、少し考えてなんとなく分かった。
 つまり魔力を常に精霊に奪われながら生きていく事になる。という事。


 ……キツいな……。


『安心してください。少しずつ取っていくので食事を沢山取り続ければ魔力切れを起こすことはありません。契約してくれますか?』
「ん〜……厳しいなぁ……その魔力を1度に奪うとかって
……出来たりしますか?」
『一日の始めにまとめて貰う事は可能ですが、その場合急激な魔力の低下、魔力切れによって最悪死に至ります』


 だ、だったらさっきの条件が良い訳か……。食事さえ取れば良い訳だし……特に問題なさそうだ。多分……いや、心配だ。


「ふぅ〜……どうするか……」


 ふと周りを見ると、他の生徒達も結構悩んでいるみたいだ。厳しい条件は俺だけじゃない、という事か。


「皆さん、もしその条件が自分には不可能は場合、別の魔法石を用意してますのでそちらで再召喚してください」


 クラリスがそういうと、2人は再召喚をする為に魔法石を貰いに行った。


『魔力を少しずつ取られてしまいますが、そのデメリットよりも精霊の加護を受けるメリットの方が大きいですよ』
「精霊の加護……?」


 白魔術を使えるようになるだけではないのだろうか。シンシアはそう思い聞き返した。


『全体的な魔力濃度の上昇、これによって今までより
魔法の威力が上がります。五感が鋭くなり、他にも精霊の力を使う事も可能になります』
「精霊の力……っていうのは?」
『私と契約した場合、風を操る事ができます』


 まあ精霊の力はおまけ程度の物だろう。とりあえずはこの精霊が良いだろうな。


「分かった。契約する」
『っ!』


 すると精霊はプルプルと震え始めた。なんだ?


『契約完了です』


 精霊はフワフワと漂い、ゆっくりとシンシアの身体に近づいてくる。


「おっ、おぉっ……なんだ……?」


 精霊がシンシアの胸元までやってくると、そのまま体内に吸い込まれてしまった。


「な、なんか怖いな……」


 イヴに身体を操られたような感覚がしなくもなっ……なんだ?


 突然、身体から綺麗に光る小さな玉……? 粒子のような物が出てきて身体の周りを覆った。


「シンシアさんが契約を完了させたようです」


 どうやらこれで契約完了らしい。
 今の光の粒子は精霊の加護だろうか。なんとなく身体が軽くなった気がするが、少しずつ魔力が奪われていく感覚もほんの少し感じる。


「条件は何でした?」
「常に少しずつの魔力を奪われる、という条件でした」
「ま……まあ問題はないでしょうが、私生活に常に影響してくる条件というのは面倒なので頑張ってください」


 やっぱり面倒臭いのか……。まあ契約した事だし頑張るしかない。


「皆さんの契約が完了したら白魔術の授業に移ります。シンシアさんはゆっくりしていてください」
「分かりました」


 ひとまず精霊の力、風を操れるみたいだしやってみるか。
 自分の顔に爽やかな風を……来ないぞ。まさか白魔術みたいに決まった言葉を詠唱しないといけないのか?


「クラリス先生、精霊の力を使えるらしいんですけど、どうやったら使えるんですか?」
「精霊の力は特殊な詠唱は必要ありません。普段のように会話する感じで喋ってみてください」


 会話する感じ……か。


「顔に風が欲しい……おぉっ」


 しっかりと顔に風が吹いてきた。面白いぞこれは。
 少し悪戯してみるか。


「使い魔のベネディの鼻に擽ったい風を少しだけ」


 すると廊下で眠っていたベネディは、鼻をフスフスさせながらチラリとこちらを向いて再び眠りについた。
 ……そ、そうか。狼は耳が良いから今の言葉も聞かれてて……。


「ごめんベネディ」


 悪戯はやめようと思ったシンシアだった。

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