幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

46話 使い魔の強さ



 光が収まりなんとか前を見る。
 するとそこには辺り一帯を影で包み込む程大きい黒い龍が立っていた。


 周りからは生徒の悲鳴が聞こえて、逃げる生徒まで見える。
 黒龍は巨大な翼を羽ばたかせて、逃げる生徒達に口から魔法を放とうとしている。


「危ないっ!!」


 どうやら黒龍は怒っているようだ。
 あの大きさで暴れ回られたら、ここら一帯が火の海になってしまう。


「こらっ!」


 と、その時。黒龍の頭が地面に叩きつけられた。
 上を見ると、イヴが翼で飛んで拳を握っている。黒龍の頭を殴ったのだろうか。


 殴られた黒龍はビックリして、イヴを見つめては周りをキョロキョロ。そしてイヴと何かを話し始めた。


「そうだ! 僕が呼んだ! 皆を傷つけるならまた殴るよ! ……いいから使い魔になれっ!!」


 イヴは再び黒龍のお腹を殴り、黒龍はギャウッと声を上げてピクピクと腹を抑え始めた。どうやらあの巨大な黒龍よりもイヴの方が強いらしい。
 黒龍は大きな翼を小さく畳んで、なるべく身体を丸めた状態で再びイヴと話し始めた。


「分かった? それならいいんだよ。僕くらいの強さの人なら友達にもう1人いるし、もっと強い人だっている。下手な事はしない方がいいよ。……僕は男だっ!! よし、君の名前はウルド。よろしくウルド」


 ウルドと名付けられた黒龍は、気に入らなかったのかしょんぼりしつつもイヴを頭の上に乗せて俺達特別クラスの後ろ側に移動した。


「イヴ君……す、凄いね」
「だな。あの龍立ち上がったら四階建てのマンションくらいの大きさになるんじゃないか」


 黒龍と目が合うと、不機嫌そうな目でギロりとこちらを睨んできた。しかしすぐに、イヴに頭をペチんと叩かれて前を向く。


「えっと……どうやらイヴさんは魔力……によってサファイアが変異したようで、その影響で大きな黒龍が召喚されたようですね。あの黒龍は世界に1体しかおらず、白龍と対になる存在です。その黒龍を使い魔にしたという事は、世界の平和は確立されたでしょう」


 使い魔の授業で世界の平和について聞くことになるとは思わなかったなぁ……。
 一般クラスは遠くから眺めている為、こちらの話は聞こえていないようだ。安全だと分かって近づいてくる生徒もいるが、ほとんどはビックリして隠れている。


「これで全員の使い魔が召喚されましたので、主と使い魔の信頼関係を深める為に自由時間を取ります。太陽が沈み始める頃までには教室に戻るように。解散」


 どうやら今からは使い魔と仲良くなる為の時間らしい。白狼のベネディは立ち上がって尻尾を振っている。


「主よ。どうか名前を教えてくれないか?」
「あぁそういえば言ってなかったな。俺はシンシアだ」
「シンシアか……よし。ならば、1度手合わせを願いたい」


 手合わせ……ま、マジ?


「シンシアの強さを知る事で、我はシンシアの背中を守る事ができる。強さとは即ち信頼」
「う、うぅん分かった」


 その時、周りがザワッとして、上から黒龍の顔がニュッと現れた。ベネディはビクッと震えてシンシアの背後に飛び退く。


「シンシア〜! 僕の使い魔のウルドだよ!」
「あ、あぁ……でかいな。顔だけで俺よりも……」


 目を見るとギロッと睨まれた。怖いな。


「ちょっと今強い人を探してるみたいだからさ。ウルドと戦ってあげてよ」
「えぇ……俺今からベネディと戦うんだけど。それに俺がこんな強そうなのと戦ったら死ぬって」
「大丈夫! とりあえずって感じでお願い!」


 えぇ……まあイヴやクラリスさんやサラがいる事だし、もしもの時は助けてくれるだろう。


「じゃあベネディ、ちょっと遠くで見ててくれ」
「分かった。この戦いでどのくらいの強さか見極めるとしよう」


 ベネディはその場に風だけを残し姿を消した。
 気づけば遠くの一般生徒達がいる場所に立って、こちらを見ていた。あそこが観客席と思ったのだろう。


「じゃあ始め〜!」
「ちょっ、早いからっ!」


 シンシアは一先ずウルドの足元に潜り込み、内側から外側へと足に蹴りを入れた。
 すると簡単にウルドのバランスは崩れて、翼をバサバサと動かし始めた。そこでシンシアは魔力で身体強化をし、思いっきり上の方へ跳躍する。


 イヴのような翼はないものの、これでそれなりの距離頭に近づくことができた。
 ウルは空を飛ぼうとしているみたいだ。


「危ねっ……!」


 空中で飛んでいる状態での強風は危険だ。そこでウルの身体に張り付いて、耐えることにしたのだが……そのまま空を飛んだウルドはどんどん上昇していく。


「さ、寒っ」
「貴様それでもイヴの友達か?」
「しゃ、喋れるのか!?」


 なんとイヴがシンシアに話しかけてきた。主以外とは話せないのではなかっただろうか。


「我輩は龍。人の言葉なぞ容易く話せるわ」
「すげぇな……っと、このままじゃ危ないから」


 シンシアは上に手の平を向けて、思いっきり魔力エネルギーを放出する。


「何っ!?」
「有利な地形に誘い込むのは頭が良いけど、戻るよ」


 ウルドを掴んだまま、放出したエネルギーによって下に急降下していく。かなりの力で戻されているウルドは、翼をバタバタと動かすが動くことが出来ない。


「空飛ぶ為にジェット機を真似てエネルギー放出を考えたんだよ。地上で戦うぞ」
「くっ……このまま地面に落ちれば龍ではないお前は死ぬぞ!」
「あっ…………」


 まずい。着地の方法を考えていなかった。
 だって龍に捕まって雲の上にまで飛ぶとは思わなかったから……このままの勢いで地面に当たったら俺はミンチになってしまう。


「待てよ……よし、試してみるか」
「何をするつもりだ」
「これが成功したら俺はお前に勝つ。それだけだ」


 シンシアはクラリスやサラが使う魔法を思い出し、なんとかイメージを浮かばせる。


「転移っ!」


 その瞬間シンシアの身体は光に包まれて、いつの間にか地に足を付けて立っていた。


「シンシアちゃんいつの間にっ!?」
「今来た。もう終わる」


 両手を上に向けて、大きな空気砲をイメージ。
 そして高威力の衝撃を落下してくるウルドに向けて放った。


 ドゥンという今までに聞いたこともない衝撃音で、ウルドの身体は一瞬その場に留まる。そしてそのまま真っ直ぐと地面に落下してくるウルドの身体には、先程までのような力は入っておらず、気絶しているようだった。


「勝った……! よっしゃぁっ!!」
「えっ、勝ったの? 凄い!」


 落下してきたウルドを見ると、気絶しているようだ。
 あの速度で落下して下からそれ以上の力で衝撃を与えられたら気絶するだろう。流石に龍だから死ぬことはないだろうけど。


「ウルド〜! 大丈夫か〜!?」


 イヴがすぐにウルドの頭に近づいて起こす。


「な、なかなかやるな……」
「喋った!?」
「人間の言葉喋れるらしい」


 ウルドはゆっくり身体を起こして、こちらを向いた。


「ここにお前のように強い人間はあのどのくらいいるんだ」
「俺と〜……イヴ、後は教師のクラリスさんとサラ。学園長くらいだ」


 するとウルドは安心したように目を瞑った。


「人間はこれ程まで強くなったのかと驚いていたが、お前達が特殊なだけのようだ。もう我輩が言うことは無い」


 なんか心無しかしょんぼりしている気がする。


「シンシア。シンシアは強いんだな」
「おおベネディ、どうだった?」


 シンシアの使い魔が帰ってきた。


「驚いた。これ程までに大きい龍を地に落とすとはな」
「……よく見たらベネディ、モフりたくなるような毛並みをしてるな」


 ベネディの体毛を眺めていると無性にモフモフしたくなってきた。


「シンシアなら許そう。背中に乗るといい」
「ありがとうっ!!」


 すぐ背中に伸び乗ってモフモフ……モフモフ……最高だぁ〜……。


「い、いいなぁ〜……でも私のルナだってフワフワなんだからっ!」
「ンニ゛ャ〜〜……」


 黒猫のルナのお腹に顔を押し付けるアイリ。使い魔は嫌そうな顔をしてるけど、反撃されないだろうか。


──ベロンッ
「んひっ!?」


 突然尻を生暖かい何かが撫でた感覚がして、ゆっくり後ろを振り返る。


「ユニコーン……?」
「こらカク! シンシアちゃんに何をした!!」


 うぅ……な、なんかお尻がヌメヌメして気持ち悪い。ユニコーンの唾液ってこんなにネットリしてるのか。


「アデル! 自分の使い魔の管理くらいしっかりしなさいよ!」
「勝手に動くんだよ!」
「シンシアちゃん今拭いてあげる」
「あ、ああ、ありが──ひぃんっ!?」
「えっ?」


 な、なんだ今の感覚。ユニコーンに舐められた場所に吹かれただけで凄く擽ったかったんだが。


「だ、大丈夫」
「そう……? 分かった」
「……っはぅっ! ごめんやっぱり大丈夫じゃない! なんか変!」
「貴様! シンシアに何をした!!」


 ベネディがユニコーンに頭突きを当てて、ユニコーンは逃げていった。


「悪いシンシア……後でカクには俺から言っておく」
「あ、あぁ頼む。なんか服が擦れるだけで擽ったいというかゾクゾクする……」


 ユニコーンの唾液について、というよりユニコーンについて調べた方が良さそうだ。ずっとユニコーンの視線が薄気味悪かったし、アデルがしっかりしてくれれば良いのだが……。


「我がシンシアの移動を手伝おう。どこか行きたい場所はあるか?」
「ん〜……図書室で。アイリ達、俺ちょっと図書室に行ってくる」
「分かったわ。私達はしばらくしたら教室に行くね」


 シンシアはベネディの背中でモフモフを堪能しながら、図書室へと向かった。

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