幼女に転生した俺の保護者が女神な件。

フーミン

39話 イヴの部屋



「シンシア今日から短くスカートね」
「えぇっ!? い、嫌ですっ!」


 イヴの悪魔を取り除いてから次の日の朝、シンシアの部屋に遊びに来たイヴが短いメイドのスカートを持ってきた。


「メイドなら自分の力に適した仕事をする方が効率的だよ」
「いつからそんな効率厨になったんですか……」
「効率ちゅ〜……? よく分かんないけど、とにかく今日からシンシアには色んな仕事をしてもらうからね!」
「わ、分かりました……」


 シンシアとしては今まで通りの方が楽チンで助かるのだが、いずれ大魔道士になる身として色々な仕事を経験しておいた方が良いのだろうと考える。
 イヴには一時的に部屋から出ていってもらって、シンシアは部屋の中で短いスカートへと履き替える。


「うぅ〜……スースーするし足丸見えだし……確かタイツあったよな」


 クローゼットの下の棚を開けると黒いタイツがしっかり用意してあった。せめて肌だけでも隠そうと思い、そのタイツを履いてからイヴを呼んだ。


「おぉ〜! これで訓練の時も動きやすくなったな!」
「逆にスカートを気にしすぎて動きにくくなった気がします……」
「そうか?」
「やっ! やめろっ!!」


 気づいたらイヴが背後に回っており、スカートを捲ってきた。
 つい魔王に対する口調が崩れてしまい、咄嗟に口を抑える。


「へぇ〜そういう事言えるんだ〜」
「す、すみません……つい……」
「今度からその口調で話してよ!」
「えっ…………すみません、無理です」
「えぇ〜!」


 流石に普段の口調をイヴ様に対して使うのはメイドとしてダメだと俺は思う。立場上の問題であり、これは友達から関係ないということは無い。


「自分のこと俺とか言ってるのに?」
「そっ、それは〜……私っていうのは恥ずかしい……から……」
「シンシアも恥ずかしがる事あるんだね〜、ちっちゃいのにしっかりしてる」


 ちっちゃいと言われて反論しようかと思ったが、そろそろ時間も時間なのでシンシアはコホンと席をして改める。


「そろそろ訓練の時間です」
「やる気があるのは良いことだよ! じゃあ行こっか」


 2人は一緒にイヴの部屋へ向かい、戦闘の準備を始めた。


◆◇◆◇◆


「ねぇクラリス」
「何、エドウィーナ」


 強欲の魔女クラリス・ラナの隣に座る女、色欲の魔女エドウィーナはワイングラスの中の赤い液体を舌でぺろりと舐めて、クラリスを鋭い目で見つめた。


「あの悪魔がどこに向かったのか……貴女知ってるんじゃない?」


 ヴァンパイアという種族でありながら魔女となったエドウィーナは、莫大な魔力と色気で人を魅了する。
 魔王イヴと同じ赤い髪は胸元まで伸びており、その毛先を指でクルクルと回しながらワイングラスをテーブルに置いた。


「知らないわ。ただ、可能性のある存在ならこちらに向かってきている」
「ふぅん……やっぱりその子なのね。貴女がその子を弱らせていなければ面倒な事にはならなかったのに」
「私1人で対応する。それでいいでしょ?」


 するとエドウィーナは、魅力的な足を組んで空を見上げた。


「神と悪魔の力が合わさってるのよ。貴女1人でどうにか出来ると思ってるのならそれは間違い。私も手伝うわ」
「……好きにするといい。私はただ真っ直ぐな欲望が見たいだけ。人の欲に漬け込んで悪事を働く悪魔は許せないわ」
「あら奇遇ね。私も人の欲には敏感なの」


 2人は庭園の奥で走り回るもう1人の魔女を見て、ふっと微笑んだ。


「久しぶりに身体を動かしてみようかしら」
「私と軽く運動しましょうか」


 強欲の魔女クラリス、色欲の魔女エドウィーナは立ち上がり。魔力を高め合った。


◆◇◆◇◆


「ほらほら! 反撃しないと僕の腕が先に疲れちゃうよ!! 訓練したいんじゃないの〜?」
「くっ……スカートが捲れるでしょうがっ!!」


 シンシアは、イヴと力をぶつけ合いながら確実に成長してきていた。
 身体能力、魔力操作、反射神経、そして戦闘における判断能力はかなりの物だ。


「おぉっと、今の一撃はかなり重かったよ」
「だ、大丈夫でしたか?」
「そろそろ僕も本気で戦ってみようかな」
「いっ……」


 イヴは戦いで魔王の血が騒いでいるのか、瞳が燃えたように赤く光っている。翼は大きく開かれ、身体から魔力が溢れて異様なオーラを放っている。


「殺さないでくださいね……?」
「防御に徹してもいいんだよ」


 イヴの部屋では、激しい衝突音が響いた。






──イヴの部屋で日が登り始めた頃。ついにシンシアとイヴは倒れた。


「はぁ……はぁっ……っ……」
「はぁ〜……疲れた……」


 イヴは獣のようにハァハァと息を整え、シンシアは深く深呼吸をして心身共に落ち着かせる。


「全部防いだのは流石に驚いたよ……」
「あはは……骨がミシミシ言い始めた時は降参しようかと思いましたけどね」


 なんとシンシアは、イヴの本気の剣技を全て受け止めたのであった。9歳の身体で魔王の攻撃を防ぐのは人類史上初だろう。
 しかし、全て防ぐだけではいずれ押し負けてしまう。イヴの攻撃はこちらに反撃する暇を与えてくれないのだ。


「なんとかイヴ様以上の力で押し返さないと……ですね」
「メイドは魔王より弱くないとダメなんだよ」
「友達じゃないですか」
「じゃあ敬語やめて」
「メイドとして断ります」


 こんな冗談を言い合っている程余裕が出来てきたシンシアとイヴは、身体を起こして再び息を整える。
 また戦いを始めようとしているのだろうが、ふとシンシアは自分の腕に触れた。


「うわっ……パンパン……。休んだ方が良さそうです」
「えぇ? 僕が回復してあげるから」
「ダメです。筋肉痛が治るまでが成長なん──」


 と、その時。遠くの山から大きな爆発音が聞こえた。


「なっ、なんだ?」
「僕の部屋に他に誰かいるのかな」


 分からない。しかし今までイヴの部屋の中で、俺達が起こす騒音以外の音を聞いたことはない。


「イヴ様の部屋ってそもそも何なんですか? 別世界って言ってましたけど」
「うん。別世界で僕の部屋なんだけど、この世界の事何も知らないんだよね。生物はいるのか〜とか」


 何やらイヴの部屋には謎があるようだ。


「とりあえずさっきの音の場所に行きますか」
「そうだね。それほど遠くはないみたいだし」


 シンシアとイヴは、この世界の理解を深める為に冒険を始めた。

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