幼女に転生した俺の保護者が女神な件。
プロローグ
「おいこら邪魔」
「へいへい……」
コタツで横になっていた俺の頭を軽く蹴ってきたのは姉の三咲。陸上部で俺より力がある。
そんな姉に逆らえない俺は、仕方なくダランと伸ばしていた腕を引っ込める。上下関係という物は本当に理不尽だ。
「お母さん、今日お父さんいつ帰ってくる?」
「そんなに遅くないと思うよ」
「カレー食べたいな〜」
姉と母親が話している間、俺は1人スマホで動画をボーッと眺めている。本当に退屈で平和な幸せな1日だった。
しかし、それは突然やってきた。
部屋が大きく揺れ、電気やテレビが消えて辺りは真っ暗。
「何っ!?」
「きゃぁっ!!」
姉が普段出さないような悲鳴を上げる。
何が起きたのか……そう、大地震だ。
大きな地鳴り。窓の外から聞こえる悲鳴。
暗闇に視界が慣れて辺りを見渡すと、家具やテレビは倒れていて、窓は割れている。
──ガラララッ! バキバキッ!!
古い家はいとも容易く崩れ、俺達は建物の下敷きとなった。
◆◇◆◇◆
「うっ……痛ぇ……」
鋭く尖った木材が皮膚に刺さり、足は家を支える柱が倒れてきていて動かせない。
「姉ちゃん! お母さん!!」
二人の名前を呼ぶが返事がない。
「スッ、スマホッ!」
なんとか誰かに連絡を取る為にと持っていたはずのスマホを、狭いスペースでなんとか顔を動かして探す。
「どこだっ……皆っ……あった!」
スマホらしい物を見つけ、すぐに手を伸ばして掴む。
「……くそっ!」
画面が割れて何も見えない。
「誰か〜っ!! 誰か助けてくれぇっ!!」
必死に助けを呼ぶが辺りは静かなままだ。
ふと、何か物音がした。
「何……だ?」
その瞬間、再び大きな地震がやってきた。先程よりも大きな地震だ。
「あ゛ぁっ!!!!」
再びやってきた大きな地震のせいで、足に乗っていた柱が動いて骨をゴリゴリと削る。周りの瓦礫も動いて傷を広げていく。
「くそっ……くそっ…………何だよっ……」
さっきまであんなに平和な日常を送っていたのに。ほんの一瞬で、今まで住んでいた家が崩れた。ほんの一瞬で俺は一人になった。ほんの一瞬で、俺は死ぬかもしれない状況になった。
大きな孤独感と痛みで涙が溢れてくる。
「誰かぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
今までの人生で1度も出した事がないような声で、必死に助けを呼ぶ。
◆◇◆◇◆
「だれ゛がっゲホッ!! はぁっ……はぁ…………」
喉が枯れるまで何度も助けを呼んだが、物音一つ聞こえやしない。
「はぁ……眠い……」
俺はこのまま、瓦礫の中で一人死んでいくのだろうか……。お母さんやお姉ちゃんは生きてるのだろうか。
お父さんが崩れた瓦礫の中で死んでいる俺達を見つけたら……どう思うんだろうか。
「死に゛たぐ……な゛い……死にだくな゛いよ゛……」
しかし現実は残酷だ。薄れていく意識をなんとか保とうとしたが、人はどう足掻いても死ぬ時は死ぬのだろう。いつの間にか思考すらしていなかった。
◆◇◆◇◆
ここはどこだ?
俺は死んだのか?
皆は?
家は?
「目を覚ましましたか?」
気づけば、俺は真っ暗な空間で綺麗な女性の前に座っていた。
「俺……助かったのか……?」
目の前に人がいることを認識した途端、今俺はここに生きていると安心した。しかしその女性から現実を突きつけられた。
「いいえ。貴方は母親とお姉さんと共に死にました」
「ぁ…………嘘つくなよ……」
「真実です。今貴方の父親は瓦礫の中にいる家族を捜索しています」
それを聞いた瞬間、胸が苦しくなって再び涙が溢れてきた。そして地震が起きる前の記憶。地震が起きた瞬間の記憶を思い出して表現出来ないような感情が心を蝕んだ。
「ぁぁ……ぁっ…………ぁ……」
「仕方の無いことです。自然災害である地震は神である私でさえも防ぐ事ができないのですから」
「……か、神……?」
女性の言葉を俺は聞き逃さなかった。
「ええ、私は今回の地震で不幸にも死んでしまった方達を新たな人生へと導く者です」
「……生き返れないのか?」
神様なら人を生き返らせる事なんて簡単な事だ。そう思い頼んだ。
「人の身体は、1度死んで魂が抜けてしまえば生き返る方法はありません。正確には30分以内であれば可能ですが、その間貴方はずっと眠っていました」
「…………じゃあ……俺は生まれ変わるのか……」
今まで生きてきた人生を全て捨て去り、別人として新しく生まれ変わる……本当にそれでいいのだろうか。
「言わなくても分かりますよ。貴方はこのまま別人になり、今までの記憶を忘れてしまう事が辛いのでしょう?」
「……辛い……」
忘れたくない記憶もあれば、忘れたい記憶もある。このまま全ての記憶を忘れたくない。
「大丈夫です。私はそっち系専門の女神ですから」
「そっち系……?」
「貴方はこれから今までの世界とは異なる世界。異世界に一部の記憶を失った状態で転生する事になります」
異世界……転生?
まるで小説で呼んだような展開に困惑する。
「そうです。よく小説等で描かれている世界と同じような世界です」
「……そうか。その方が幸せかもな……」
「ですので、今から準備をしましょう」
そういう女神の顔は活き活きとしていた。
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ノベルバユーザー601720
面白い要素詰め込みすぎでまた読みたいです!