自衛隊 異世界転移日報

タケダ

自衛隊 非戦闘員救出作戦1

首都城
「ほぅ、それであなた方が『ジエイタイ』であると?」
ここは人類軍の最後の砦、首都城。そして俺達自衛隊は、その首都城王室において話し合いをしている。なぜなら自衛隊はこれから対抗勢力から非戦闘員を守るため、武器の使用の許可を貰うためである。
「事は一刻を争います。既に難民の救助作戦は立案済み。いつでも動けます」
ちなみにここが異世界であると知らされたのは先程である。見慣れない服装、建築物などなどを不思議に思った田中一等陸士が、第一騎士団長のカルトさんに尋ねたところ、ここが異世界だということが発覚した。という経緯だ。
その時の我々普通科第五小隊のメンツは大層驚いた。というよりも愕然としていたと表現した方が正しいが。その後の報告でも、ここが異世界だということは一蹴された。
「ですから、武器の使用の許可をお願いします」
俺は勇気を出して、言ってみる。もしも下手したらその場で処刑という可能性もある。正直いって漏らしそう。
「うむ、そなたらが本当にあの『ジエイタイ』ならばこの程度の軍勢は簡単に捻り潰せるだろう。よい、妾にめんじて武器を使うが良い」
ん?あのジエイタイ?自衛隊は一つしか無いんだけどなぁ。だが、これで一安心だ。これで武器を使える。
「こちら第五小隊より統本(自衛隊統合本部)。時計の針を進めろ。繰り返す。時計の針を進めろ、オワリ」
事前に決めてあった作戦開始の合図と共に、輸送ヘリコプターのCH-47JAの群れと、装甲車群が一斉にエンジンの咆哮を上げ、動き始めた。

首都 民間居住区
「くそっ!数が多すぎる!」
「民兵だけで前線を防衛とか無理難題すぎるだろ!」
人類軍は最後の手段として、民家に隠れ、突然襲いかかるゲリラ戦を展開していたが、やはり物量の差でじわじわと追い詰められていた。既に多くの見方も戦死している。背水の陣を敷いた人類軍に逃げ場がない。待っているのは死か死よりも辛い捕虜のどちらかだ。
「奴等耐久力の強い死人を主戦力に置いてやがる!」
死人・・・そこら辺の魔族よりも耐久力が高いが攻撃力は小さい。しかし数が多く調達も容易なため、魔王軍の盾として利用されることが多い。
「もう、無理かもしれん」
民兵隊長が弱音を吐くほど士気は低下し、戦力はほぼ皆無状態だ。
「ただいま戻りました!」
伝令役として機能していた青年が、息も切れ切れに戻ってきた。
「第二騎士団は崩壊。現在の常備兵は第一騎士団と第六魔導部隊と第三歩兵隊のみ!」
絶望になるような言葉が彼から、つらつらと流れてくる。
バババババ
「遂に天のお迎えが来たか」
暴力的な音と風は戦士の闘志を、これでもかというほど打ち砕いた。しかし、それは絶望から希望へと変わった。

CH-47JA機内
「いいか!これより難民救出作戦を決行する!」
「はいっ!」
機内の爆音に負けないくらい小隊長が声を張り上げる。それに負けじと隊員も同じようにする。
「これより広場に着陸します!衝撃に備えてください!」
パイロットの忠告のあと、地面に接した。段々と後方ハッチが開き、光が差し込んで来た。先頭にいた自衛官が飛び出し、周囲を警戒する。一名はヘリの前方、もう一人は逆、そして一人は後方だ。
高機動車がゆっくりとスロープを降り、それに彼らは乗り込んできた。そしてあっという間に走り去った。
他の隊員は徒歩で降り、89式小銃やミニミ機関銃などをしっかりと抱え、展開していった。

「もうだめだ!」
死人を斬っても斬っても致命傷とならない。既に刃はこぼれ、切れ味は最悪だ。それでもやらなくてはやられる。がむしゃらに剣を振り回す。その瞬間だった。
「第一小隊!指命、前方の歩兵集団!単連発射撃!撃てっ!」
後ろから光の筋が目にも止まらぬ速さで通過し、死人に当たっている。多少のダメージを死人にあたえているように見える。
「なんちゅう固さだよ。コイツ」
斑模様の男が呟いている。手には何とも言えない武器?らしき物を手にしている。
「民間人だ。待避させろ」
数名の斑模様の男が叫ぶ。
「おい、こっちに来い!」
民兵の一員である自分に、指示している。自分はそれに従い、全力疾走し斑模様の男の方に滑り込んだ。それとほぼ同時に、男達はしゃがみ、武器を支え、何かを取り付けた。そして、ポンッという音のあと、黒い物体は飛び出して、死人の間に落下した。爆発が起き、死人は木っ端微塵になり、再び動くことはなかった。

自衛官の装備としては、89式小銃、9㎜機関拳銃、06式てき弾などが普通科隊員の装備として派遣部隊に使用されている。しかし特殊作戦群などの特殊部隊は、官品でスコープなどのアタッチメントは支給されないので、悲しいことに全て自費となる。
交渉が終わった第五小隊一行は、首都城を出る。すると木の柵の内側にはここの常備兵が、魔王軍の精鋭部隊と睨みあっている。
「退いて、退いて」
人混みを掻き分けると、目の前にはおぞましい面をした魔王軍がいた。通称オーク。突撃に関しては右に出るものはいない。だが、知能は低い。
「おい、シキツウと偵察車両は、あっちに置いたよな?」
俺が指を向けた方向は、まさに対峙中の敵のすぐ横だった。
「あちゃ、これは戦闘になりますね」
山口がムカつくように反応してきた。他人事みたいに言いやがって。
「一気に乗り込めば何とかなりますが」
装甲車に乗車すれば、剣や弓は絶対に効かず、さらにはブローニングで一掃できる。
「誰か?建設的な意見はないか?」
一同が沈黙する。これは終わりました。いやだなぁ、戦死とか。
「しゃーないな、どうにかして気を引かないと」
俺は懐から手榴弾を取り出す。これを使うしか他ない。訓練でもあんまり使ったら事が無いんだけどなぁ。
「手榴弾を一斉に投げて、先頭を転けさせる。その間に急いで乗り込む。そして増援が来るまで首都城を防衛する。これしかない」
「了解!」
隊員の顔が引き締まる。途端に緊張がその場に走った。
「三、二、一で動くぞ」
首肯する部下達。手で三を作り一つずつ減らしていく。そしてゼロになった瞬間、手榴弾の信管を外し、オークに投げつけた。それと同時に車両まで全力疾走だ。
「走れっ!」
鈴木が一番にシキツウに到着。ハッチを開ける。
「入ってくださいっ!」
隊員は滑り込むようにシキツウに乗った。
「どうだ?全員乗車したか?」
暗闇の狭い車内を確認する。
「鈴木」「櫛」「松田」「石川」「田中」、「山口」よし、全員の生存を確認。ここからが自衛隊の根性を見せてやるよ。
「よし、いいか!これより門内にいる対抗勢力を撃滅する!各員はシキツウ内より戦闘を開始せよ!」
「はい!」
アクセルを思いっきり踏み込み、柵の横に停車する。そしてブローニング12,7㎜機関銃を操作し、引き金を手榴弾の爆発で混乱しているオークに向け撃ちまくった。

「こちら空自第一輸送隊。難民の九割を収用完了。残り一機で搬送完了します」
「航空幕僚本部了解。現在陸自の増援がそちらに向かっている。暫し待て」
「了解」
空自と陸自は、難民を戦闘地域から離脱される為、共通の平地を利用している。難民は陸上自衛隊によってそこに誘導される。そして順番にCH-47JAに乗せられて行くのだ。担当は陸自の航空科、そして空自の輸送隊だ。これが終了次第、陸自と空自による掃討作戦が開始される。
「陸自の普通科第五小隊が対抗勢力と交戦中、付近の戦闘部隊は増援へ向かえ」
「第一小隊が最後の難民を輸送中」
無線から刻々と戦況が伝わってくる。今のところ自衛隊側に被害はなく、救出中の難民に被害は確認されていない。順調といっても過言ではない。
「陸自来ました!」
上空から新たな陸自仕様CH-47JAが降りてくる。そして広場へと着陸後、急いで誘導させていく。
あっという間の芸当で、作戦開始から一時間で難民を救助完了した。災害派遣実績が役に立った結果となった。そして作戦は第二部へと移行された。















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