自衛隊 異世界転移日報

タケダ

自衛隊 異世界召喚

ある予言の書

『今から数百年前、この世界には人と魔族が住んでいた。この二種族は互いに交易をしながら繁栄を築いていた。しかしある日、突如現れた魔族の悪しき心を持った魔族。魔王が魔族を率いて人類を攻撃した。だが、人類の希望である【勇者】が滅亡寸前の人類を救い、魔王を倒した。しかしその数百年後、再び魔王は復活し、人類に宣戦布告をするだろう。さらに強大な力を持ってして。そして再び人類は滅亡の危機に立たされる。しかし、勇者はもういない。だが、来るべきが来たとき、【ジエイタイ】が人類を救うだろう」


王国首都城
「姫様ぁ!ご無事でありますか!」
荘厳な王室に老執事が服をはためかせながら、ドレスを着た女性に近付いてきた。彼女は紺碧の瞳と、透き通るように艶のある金髪。身長は170とモデルのようなルックスだ。
「なんだ。爺」
「魔王軍により城が包囲されております。直ちに城から脱出のご準備を!」
ここは人類軍の最重要施設である首都城である。日々、魔王軍殲滅作戦の会議が開かれる。まさに人類の最後の希望だ。しかし今や陥落するのも時間の問題だ。既に十倍以上の魔王軍。そして多くの勇敢な戦士も、既に多岐に渡る戦で死んでいた。
「わかっておる。だが、この城から逃げることは出来ぬ。」
「しかし姫っ!あなた様が死んでしまえば、完全に人類の希望は失ってしまいます」
代々王国の王は世襲性で受け継がれている。その祖先とされるのは数百年前に人類を救った勇者から始まる。
「父母から託されたこの城と、民を見捨てるわけにはいかなのじゃ」
「しかしっ!」
「わかっておる。これが我が儘だとな。しかし命を賭して戦っている兵士、民兵を尻目に逃げることなど出来ぬ」
静かな王室に響き渡る二人の口論。そんな中、ドアが開けられる音が響く。
「何者じゃ!」
二人がドアへと振り向くと、そこには騎士団長が直立不動に立っている。
「第一騎士団!カルトであります!」
見知った顔をみた二人は安堵の表情を浮かべる。王女が用件を訪ねるとカルトは
「では報告します。あの伝説の勇者である。ジエイタイが謁見の許可を求めてきました」
と言い放ったのである。
「なっ、なんだと!あのジエイタイか?!」
「はい、伝説の予言書に記載されている、勇者に次ぐ世界を救うもの達、ジエイタイです」

数十分前

自衛隊統合本部
「なっ、何だあれ?」
自衛官は口を半開きにして突如現れた城壁都市を眺めている。
「あれ、先程までありませんでしたよね?というより砂漠でしたよね。ここ」
俺も頭の中が一瞬、おかしくなったのか太ももをつねるが激痛が俺を襲い、これが現実であると容赦なく突き付けてくる。
「一先ず、航空科にOH-1を使い、偵察するように伝える。各員はこの事は不用意に伝えるな。パニックにさせる可能性がある」
「ハッ!」 
俺は陸将補に敬礼し、部屋を出ようとする。ドアノブに手をかけようとした時、陸将補に呼び止められた。一体、何の用なのだろうか。
「済まないね。君を引き留めてしまい」
「いえ、大丈夫です」
頭の中で色々な考えが飛び回る。何かしらの危険な任務の予感が第六感に訴えかけている。
「航空科の尽力だけでは分からないこともある」
この時点で何を頼まれるのか察してしまった。
「誰かが自らの目で直接確認しなければならない。やってくれるかね?」
きたー。来てしまった。この言葉。相変わらずの拒否権が存在しない打診。自衛隊には入隊したからには精一杯頑張りますよ。けど、この拒否権のない打診って一番困るんだけどなぁ。
「はっ、了解致しました!」
いい加減上っ面の返事には慣れたし、まぁ、いいか。流石にゲリラだったら応援呼べば良いし。
「では失礼します」
最初はそういう軽い気持ちで挑んでいた。しかし後にそれは、妄想でしかないと思い知らされる。

駐車場
「普通科第五小隊。召集完了しました」
櫛が急いで集めてくれた部隊員の先頭に立って、俺に報告してくれた。安定の生真面目さが引き立つ。準備して綺麗に整列している自衛官の前でゆっくりと訓示を述べる。
「今回の任務は突如出現した謎の小都市の偵察である。これは一切の情報がなく武装勢力と交戦する可能性もある。各員はそこを留意して作業をしてくれ」
現在の陸上自衛隊の主力小銃である89式5,56㎜小銃を、控え銃をしながら話を微動だにせず聞いてくれている。
「状況開始っ!乗車!」
駐車場に停車している96式装輪装甲車の後方ハッチを開け、続々と乗車していく。俺は82式通信指揮車の車長に任じられているので、一応俺が小隊の指揮を執る。乗車メンバーは「山口」、「櫛」、「石川」、「小松原(俺)」、「松田」、「鈴木」、「田中」の七人だ。
エンジンを掛け、車列を成して偵察任務に向かって行く。先頭車両は82式指揮通信車で、次に96式装輪装甲車、最後尾は87式偵察警戒車となっている。
地響きをさせながら三両の装甲車は城壁へと近づいて行く。
「ドンッ!」
突然の衝撃が車内に響いた。
「何だっ!」
「IED(簡易対戦車地雷)では無さそうですし、ライフル砲では威力が小さすぎます」
観測員の松田が冷静に状況を分析して、報告してくれた。他の自衛官は警戒を一層に強めている。
「シキツウより各員へ、対抗勢力の攻撃の可能性あり、警戒を強めろ、オクレ」
「96よりシキツウ。了解オワリ」
「テイサツ了解。96と同じく。オワリ」
静かになった車内に段々と弱々しい声が聞こえてきた。
「タ、タスケテ・・・」
それは助けを求めていると判断するには充分の証拠だった。
「おい!外で要救助者あり!警戒して救助するぞ!」
すると96式装輪装甲車の数名が飛び出した。俺も釣られて車外に出る。強い日差しが容赦なく迷彩服に降り注ぐ。89式小銃の切り替えレバーを、安全の『ア』の所から単発の『タ』まで回す。しっかりと小銃を体に引き寄せながら周囲を見渡す。
すると指揮通信車の横に倒れている少女を見つけた。彼女はぐったりとしていてピクリともしない。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
すぐに少女に駆けつけ、瞳孔、脈、体温と比較的確認が容易な応急手当を行う。96式の自衛官はブランケットを彼女に被せ、体温の保温を試みる。現に彼女の体温は下がっていように感じた。偵察警戒車は彼女をかばうように車体を盾として、対抗勢力の追撃を防ぐ為に車を動かしている。
「いいか!回復体位にしろ!急げ!」
彼女を横向きに寝かせ、気道を確保する。
「本部に報告!傷病者一名!意識なし!何者かの暴行により負傷したと思われる!オクレ!」
俺は無線機に怒鳴り付けるように、応援を要請する。素早い行動が傷病者の命に懸かってくる。
「了解した。応援を送る。また、詳細な状況を教えてくれ、オクレ」
状況下を素早く把握し、まとめてから無線機をまた口元に近付ける。
「どうやら城壁内において戦闘が発生し、非戦闘員も巻き込まれていると思われる!オクレ」



自衛隊統合本部
「陸将補!直ちに出動の命令を!」
左官級の自衛官達が陸将補に厳つい形相で迫っている。内容は城壁内の非戦闘員を救助するか否かでだ。 数分前に入った偵察部隊の一報により、非戦闘員が対抗勢力に襲われていることが分かり、それを何処からか聞き付けた部隊長が迫っているのだ。
「しかし、防衛省との連絡が取れない以上、自衛隊指揮官のみの武力行使は出来ない」
左官達から顔を背けながら淡々と事実を話す。しかし、彼らにはその理由は聞き捨てならなかったようだった。
「陸将補!現時点において最高指揮官はあなた何ですよ!あなたが動かなければ行けないんです!」
「そうです!いつ復旧するかも分からないのにそんな悠長に待っていることは出来ません!」
「だが!もしも自衛隊側に死傷者が出たらどうする!自衛隊は国内から批判され、マスコミにも叩かれる。そうなれば責任を取るのは君達ではない。私だ!」
茹で上がったような赤い顔で、目の前の部下に反論をしている。今にも殴りかかりそうなほどどちらもヒートアップしている。
「ならばっ!我々は何のためにここに来たのですか!我々自衛隊は人道支援で来たんじゃないんですか!」
「そうです!防衛省との連絡が取れないだけで、目の前の命を見捨てることなど出来ません!」
「・・・、陸将補!」
部下達の心からの叫びが執務室に響き渡る。暫く目を閉ざしていた陸将補が、カッと目を開けると話始めた。
「・・・、腹がイタイ。これじゃー現場の指揮は取れないなー、トイレに籠っている間、指揮官は君達、部隊長になるなー」
ハッと部隊長は互いに顔を見合わせる。
「陸将補。よろしいのですか?」
「ん?何が?腹が痛いからな、トイレに行ってくる、後は任せた」
陸将補の寛大な処置であると心得た部隊長は、すぐさま行動に移した。
「空自と協力して非戦闘員を救助、必要あれば対抗勢力を撃滅、救出した非戦闘員は難民キャンプへと搬送。可能ならば治療を受けさせる。準備にかかれ!」















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