手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第三十九話 本領発揮

「さっさと死ね」


 その瞬間、その言葉を持って、奴の存在・・は完全に消滅した。


 〈やつの姿が見えていたのはわざとみたいだな。それか何か制限があるとかか?〉


 まぁ、前者の場合、やつの性格上、俺の魔法の仕組みを聞くためってのもあるんだとうけど、目立ちたかったってのもあるのかもな。


 俺はそう思考しながらも、例の打開策に向けて準備を進める。


 この驚異的な脳を持ってしても、恐らく限界すれすれの勝負になるため、集中するためにもその場であぐらをかいた。
 そして俺は、もともと最初から嵌めていた指輪へと、俺の魔力を大量に注ぎ、そして精神を研ぎ澄ます。


 転移のイメージ。
 俺が今考えるのは、逃げるのではなく、守備を固めるのではなく、ましてや、やつの居場所を探すのでもなく、ただただ、転移先を探すこと。


 成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功……。


 次から次へと、この空間での転移先の確認をする。
 そこら中に散らばっている指輪との繋がりを利用した転移だ。


 もちろん、これはやつからの奇襲に備えながらやれるほどに、簡単な作業ではない。
 何しろ、約20センチメートルおきに、ちょうど囲碁の基盤のような間隔で転移先の確認を行っているのだ。
 だが、だからと言って、無防備でいるわけはもちろんなく、俺がこうできているのには理由があった。


 〈何余裕ぶっこいてんのよ! 帝国でスパイの経験もある私ですら、こんな超絶級の気配操作の術者は見たことないのよ!? 五感だけではなく、魔力の流れすら隠してしまうなんて……〉


 その声は、俺から約10メートル前方で、俺と、そして自身の周囲に防御結界を張りながらも、彼女なりに必死になってやつの居場所を探ろうと試みていたアミラから飛んできたものだ。
 怒り顔で、呆れ顔で、必死な形相で、彼女は俺への不満を漏らし、そして俺への支援を行う。


 やつが姿を消した時、ほとんど時差なく、アミラはまず、俺へと結界を張っていた。
 位置的にはアミラの方がやつからは近かったというのに、だ。
 そして、俺はそれに全力で答えるため、こうして打開策に向けて準備を進める。
 この間、俺にとっては思考加速を使っているのもあってとてつもなく時間が経っている気がするが、実際には10秒も経っていない。


 成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功。成功……。


 〈すまん、アミラ。もう少し。あと25%で終わる!〉
 〈早くしなさい!! この結界も、やつほどの魔力の使い手なら持つかどうか微妙なところなのよ!〉
 〈あぁ〉〈——急いで!!〉


 全方向への針の射出。
 結界を張り終えたアミラが、最初に行ったやつを探すための魔法だ。
 しかし、変な軌道で動く針も、突然何かに当たったように動きを止める針も現れなかった。


 ならばと、アミラは、周囲の重力を上向きへと変えて、地面に広がる瓦礫や血液を上へと持ち上げ、そして落とした。
 だがそれも異変は見られずに終わる。


「なにそれ!?!? ふざけんじゃないわよ!!」


 アミラは髪をぐしゃぐしゃを掻き乱して、地面を蹴りつけた。


「こんなの反則じゃない!? 目に見える全てが嘘かもしれないなんて!! 栄一、まだなの!?」
 〈あと10%だ!〉
「早く!!」


 アミラはそう言うと、絶え間なく発動していた魔法を止めて、その思考のプロセスまで全てを口に出すほどに周りを気遣う余裕などなく、熟考を始めた。


「もしかしたら近くにいないのかも? いや、そう油断させて奇襲を仕掛ける気だわ。じゃあ、周りを炎の海にして——って、そんなことじゃやつは倒せないし、私たちも攻撃できないんだから八方塞がりよ! しかもあれほどの魔力の使い手なら炎の操作なんて赤子の手を捻るより簡単でしょうね……。いや、目に見えなくても、存在はしているはずだから重力には逆らえないわよね。いっそのことあたり一面を10Gくらいにしてやるのも——あいつには意味がないかもしれないか。それに私の魔力が一瞬で尽きてしまう……。もう!! こんなこと考えている間にやつは……。栄一!!」
 〈5%!!〉


「とにかく今は一秒でも時間稼ぎを!!」


 早く、早く、早く……!
 彼女はそう唱えながら、体全体を動かし、全方向を見渡しながら、小型の火炎球を俺とアミラの周りにひたすらに飛ばす。
 両手を突き出し、右へ左へ前へ後ろへと、とにかくできる限り多くの火炎球をあたりに撒き散らしていた。


「なんで当たらないのよ!? 全方向に打ってるはずよ!! …………もしかしてっ——」
 〈1%だ!〉


 そこで、アミラは、攻撃のためにあげていた腕を落とし、何かを悟ったような顔をした。
 今の彼女には、もはや俺の声も届いていない。
 だがそれも無理はないだろう。
 なぜなら、彼女は今、自分の攻撃範囲に、穴があったことに気がついたのだから。
 そして、ちょうどその位置を俺も……。


「 ……もしかしたら奴は今、私の真上に——」


「正解」


 例え見えなくとも、声の持ち主がニタニタ笑っているだろうことがわかるような、気色の悪い声音の直後に、アミラの張っていた結界が物理的に破れれ、ガラスが割れるような音があたりに響いた。


「えっ?」


 あまりにも突然すぎる出来事に、彼女は上を向いたまま身を硬直させる。
 絶望する暇もなく、このままだとアミラは殺されるだろう。


 〈え? え? え? え? え? え? え? え?〉


 アミラの焦りが念話として飛んできている。


 殺される。


 言わずとも、念んじずとも、その考えは伝わってきた。
 直後、彼女の頬に一本の赤い線が浮かび上がり、そしてそこからじわりと液体が漏れ出る。


「くたばれ」


 そのドスの効いた声を追従してかき消すように、重みのある鈍い音があたりを包んだ。


 先の戦闘で発生していた砂埃が宙に舞う。
 そこら中に転がっている7,80キログラムの死体をもたやすく吹き飛ばすほどの爆風によって、空間全体が茶色に染められた。


「…………」


 静寂。
 全てのものが動きを止め、砂埃が舞う音だけがしばらく鳴り響く。


「ぐはっ!?」


 だがすぐに、それは盛大に飛び散った血潮によって洗い流された。


「やっと失敗できたか」「栄一!?」


 砂煙から姿を現したのは、俺の横でキョトンとした顔で俺の顔を見上げているアミラと、数十メートル先で血だらけになって壁に打ち付けられている金髪タキシードだった。

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