手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第三十八話 戦闘開始

 こいつには後で試してみたい魔法があるし。


 俺はそう考えて、金髪タキシードの出方を窺っていると、俺の意を察したのか、アミラも突撃はせずに戦闘体制を維持している。
 直後、訝しげな目で敵を見ていたアミラから念話が飛んできた。


 〈おそらく、諜報員ではなく、ただちょっと隠密行動に長けているってだけの戦闘員ね〉
 〈わかるのか?〉
 〈えぇ、だって、今はあんたもあいつのことを認識できているでしょう? 気配を遮断できる魔術指輪マジック・リングとかなら、たとえ目の前にいたとしても認識できなかったりするわ〉
 〈なるほど〉


 そこで俺は、ヤユの魔道具屋で俺を襲ってきた諜報員のことを思い出した。
 確かにあの時、俺は奴のことを見ていたというのに、突然姿を消したのだ。


 〈もしこいつ程度の人間が諜報員として活動したもんなら、一瞬でバレて殺されるわ。だから諜報員とかではないでしょうね〉


 つまり、戦闘員ではあるが、隠密行動も少しいけるというだけか?
 さっき俺が奴を見逃したのも、ちょっと集中力が切れていたからで、音や振動を消して行動することはできても姿までも消せるわけではないと。


 だとしても、あの態度は、数々の修羅場を乗り越えてきたと感じさせるほどに傲然としていた。
 戦闘なれしてる感じだ。
 ……何か引っかかるな。


 そんな金髪タキシードは、もう笑うのにも飽きたようで、攻撃して来る様子はないが、代わりにじっと俺たちの方を見ている。
 まるでいつ獲物を仕留めようか窺っているみたいハンターに。
 こういうところが他のチンピラとは違うのかもしれない、と俺は思う。


 〈一応、魔力の流れでも奴の居場所がわかるからって油断するんじゃないわよ〉
 〈もちろん〉


 再度、俺はいつ戦闘が開始されてもいいように武器の位置の確認や、周りに他の敵が潜んでいないかなどの確認を気配感知と遠目の能力を用いて行った。
 ヤユの店に置いてあった水晶球から得たその能力で、俺は五感プラス魔力の流れの全てをある程度、具体的には俺を中心に半径100メートルほどなら、同時に全ての情報を把握することができる。
 ただし、常人には、例えば部屋の一角程度しか一度に認識できないらしいのだが、先にも話に上がった通り、女神の指輪によって見違えるように賢くなった俺の脳を持ってすれば、それが可能というわけだ。


 そしてどうやら、この辺りには他に誰もいないようだった。
 だが、金髪タキシードのような奴がまだいるかもしれないので、一応、退路の確認などもしておく。


「かっかっかっかっか!!」


 と、そこで、突然、金髪タキシードが天に向かい、高々と笑い始めた。
 あまりに唐突だったので少し構えてしまったが、奴にはまだ、攻撃する気は無いらしい。


「俺様の他に、気配を消せる輩などここには存在せんわ。安心せい」


 普通なら敵のいうことなんか全く信用できないのだが、こいつのこの混じり気のない笑顔を見ていると本当なんじゃ無いかと思えてくる。
 というか、こいつ、絶対馬鹿だろ。


「それはそうとそれよりお前。あの技はなかなかにおもしれぇな! 本来なら着用して使う魔術指輪マジック・リングを直接相手に飛ばして使うとは! 敵ながらあっぱれだぜ?  かっかっか!」
「そ、そうか」


 いきなり笑い出したからどうしたのかと思えば、俺を褒めているのか?
 よくわからんやつだ。
 それに俺は褒められ慣れてないからこういう時には反応に困る。


 そして見る前からわかってはいたが、横を見るとアミラも頭上に『?』マークを浮かべていた。
 こんなにも生臭いところで、こんなにも楽しそうにできるのはこの金髪タキシードくらいだろうな。


「それだけじゃねぇ。使ってる指輪も上級なんて遠に超えてるような超上物だしな! 重力魔法に光魔法、この俺様ですら生で見るのは初めてだしよ! そして使い方もおもしれぇ! 防御用の鉄板をナイフのように使ったり、重力魔法で敵を敵に吹き飛ばす。えぐい技だ!」
「解説ありがとう」
「それはどうも」
「かっかっか!」


 そうして、相変わらず金髪タキシードは自分の言いたいことを言うと、また自分一人で勝手に笑い始めた。
 そろそろアミラも慣れてきたようで、奴に礼まで言っている始末だ。
 他の連中も来そうだし、さっさと立ち去りたいんだがな。


 しかし今更だが、やはりあの魔法たちはかなりの上級クラスの技になってくるみたいだ。
 あまりにもこの世界の常識に疎いせいで、自分の使っている指輪のことでさえ知らないことが多くなってしまっている。
 ——っと、俺までこいつのペースに乗せられていた!


「だがよ、二つ、俺様にはどうもわからねぇことがある」


 その言葉を口にする刹那前、金髪タキシードは今までの高笑いが嘘だったかのように、真っ直ぐに俺を見つめ、そしてその表情を少し曇らせた。


「てめぇ、どうやって遠隔で指輪を操作した? 普通、魔力を流した瞬間に魔法は発動されるはずだ。だがてめぇの指輪はターゲットの元に着いたと同時に発動しやがった。なぜだ?」


 うーぬ……。
 そう言われても、『たまたま帝国のスパイにかけられていた呪い——指定された条件を満たすと動作するという魔石——の能力をコピペして、時間や相手の位置によって魔術指輪マジック・リングを発動させた』なんて言っても信じてもらえないのが目に見えている。それに、まず間違いなく、能力付与能力についての説明を求められるだろうし、そうなると女神やヤユのこととかもあったりで面倒だから、あまり答えたくはない。
 はてさて、どうしたものか……。


 などと考えていると、痺れを切らした金髪タキシードが、痺れを切らしながらも、あたかもそれを押させつけているかのように落ち着いた様子で口を開いた。


「まぁこれはいい。どうせ俺の知らねぇ魔法工学の技術とかがあんだろう。しかし、しかしだ。これだけは今、ここでそのタネを明かしてもらわねぇといけねぇ」
 〈栄一。こんな奴に無理に応える必要は——〉
「——てめぇは八つの指輪を同時に使ったな? どんな技術でそれらを識別した?」
「…………へ?」


 質問をもったいぶった挙句にアミラまで拍車をかけてくるから一体どんなことを聞かれるかと思ったら、なんだよ、そんなことか。
 いや、まぁ、『そんなこと』と言っても、女神しか使えない能力を使っているわけだから凄いことではあるんだろうけど、どうせならもっとなんか、こう、俺が考案した魔法について突っ込んで欲しかったな。
 どうやって鉄でできた指輪をいとも簡単に破裂させたんだ、とか、どういうカラクリでターゲットを水に溺らせさせ続けたのか、みたいに。
 全くわかってないな。


「俺様の目には、お前が無作為に懐から八つの指輪を取り出し、そしてそれらを間近の敵へと飛ばしたように映った。全く同じ形の指輪を、だ。
 だがしかし、実際に使われた指輪は、どれもそれぞれのターゲットに適応したものだったよな。例えば、敵が密集しているエリアには、火炎球を三つ、螺旋を描くように飛ばして一度に大勢を殺したり、敵が過疎だったエリア、すなわち、仲間の助けを得られないようなエリアには巨大な水球を作ってターゲットを溺らせた。俺様にはどうも狙ってやったようにしか思えねぇ」
「お前、いい目をしているな」
「そんなことはどうでもいい。それより、答えを聞かせやがれ!」


 まさかここまで見られているとは思わなかった。
 あまり人を褒めることがない俺が素直に褒めているんだから、もうちょっと喜んでくれてもいいのに。


 だが、それにしてもせっかちだな。まぁでも、わかるわけもないか。
 どうせこの質問からは逃げられそうも無いし、俺としてもこいつの気配隠蔽能力について聞き出すためにも、ここは正直に答えてやろうと思う。


 そうして、アミラが『こいつ殺してもいい?』と書かれた顔をこちらに向けてくる中、俺は信じてもらえるようにできるだけ切実に、金髪タキシードへと答えを言う。


「俺は、俺が持ってる能力ならば、指輪や魔石、そして人間にそれを付与することができるんだ」


 金髪タキシードの眉がピクリと動く。
 だが俺はかまわず説明を続けた。


「だから指輪を飛ばす直前に、臨機応変にそれらに能力を付与して——」
「てめぇ。ふざけんのも大概にしろよ!」


 ほら、やっぱりこうなった。だから言いたくなかったのに。


「いやいや、本当だって」
「クソが! 俺様がちょっと話でも聞いてやろうと思ったその気まぐれで、自分たちが生かされていると言うこともわかんねぇのか?! 本来ならとっくに殺されてるはずの死に損ないの分際で!! そこのブスが俺様を見る目も気にくわねぇ! てめぇら、俺様が目で・・見えてるからって調子に乗ってだろ! あぁ?」
「お前、今、なんつった?」


 俺のことを悪く言うだけなら、地獄で味わうことの十倍の苦しみくらいで勘弁してやったが……。
 こいつは絶対に俺が殺す。


「目で見えている……? まさか!」


 そこで、俺とは違う部分で金髪タキシードの言葉に興味を持ったアミラが、自分がバカにされたと言うことも聞いていなかったかのように、今後の展開を予想して顔を青くした。


 確かに、今、俺はこいつを俺の目で見ている。
 それゆえに、さっき五感と魔力で周りを確認した時はこいつのことなど再確認しなかった。
 なぜなら、その時、目の前にそいつは存在していたから。
 だが、奴の言葉が気になって確認し直したところ、奴の言葉の意味が理解できた。


 〈魔力が感じられない!?〉


 念話越しでもアミラの息遣いが伝わってくるほどの焦り。


 存在するが存在しない。
 奴は目で見て耳で聞く分には確かにそこに存在するのだが、他の情報上では奴は存在しないのだ。
 通常、魔法を使えない人間でも、魔力というものは多少なりと存在していて、特に奴は視覚以外の五感において、気配を消すという魔法を使っていたわけだから、魔力の流れというものが奴の体内で生じるはず。
 そして、俺は水晶から得た能力によって、きっかけを手に入れ、魔法の訓練を積むことで、魔力の流れによって人の存在の有無を確認できるようになった。
 しかし、基本的に他の感覚とは違って、どこにいる奴が、魔力をどれくらい宿していて、どれくらい今の魔法に使ったかということにしか使えないため、俺は気配感知の時には五感だけで済ませていたのだ。言い訳をさせてもらうと、魔力の流れを読むには、結構な集中力と慣れが必要なわけで、使わなくてもいい能力だと俺は判断していた。ゆえに、直近の再確認時にも使わなかった。


 話を戻すと、俺が『存在するが存在しない』と言った意味。そう、目の前にいるそいつからは、一切の魔力が感じられなかったのだ。


「栄一! 一旦ここは引いて作戦を立て直すわよ! ほら、何してんのよ! 早く!!」


 しかし、俺はここで引くわけにはいかない。
 いや、その言葉には少し語弊があるな。


 確かに、ここで引けば、もう二度と目的の神代遺物アーティファクトを手に入れられないかもしれないし、くそったれの勇者を一騎打ちで倒すことも叶わないかもしれない。それに、こいつをぶっ殺せないかもしれない。
 だが、それはあくまでここで俺たちが引けない〝理由〟でしかなくて、そもそも、引かなくて済むなら、そんな理由は必要ないのだ。
 俺にはこのいけ好かない野郎を打破する算段がある。
 それゆえに俺は——


「お前はここで殺す」
「ほぉ……。真面目に応える気がねぇなら……」「——栄一!!」


 再度アミラが俺の名を呼ぶが、俺は手でそれを制止する。


「さっさと死ね」


 その瞬間、その言葉を持って、奴の存在・・は完全に消滅した——。

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