手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第三十五話 怪物が二人

我突弾がとうだん。まだまだ調整が必要か)


 明らかにオーバーキルだった自分の技の果てを目にして、俺はがくんと肩を落とした。
 そもそも、重力操作なんていう初めての感覚に、まだ俺の体は全然慣れていないわけだし、これも仕方がないのだが。


「栄一! 今のはなんなのよ!?」
「いや、今はそれよりもそっちの敵だろ」
「あぁ」


 アミラは、念話も使わずに叫ぶと、まるで自分の任務を今思い出したかのようにひょんな顔をして、前の敵へと向き直した。
 流石に、五人の武装兵らも、少しは冷静さをは取り戻していたらしく、全員が俺たち二人を向いて警戒態勢をとっている。
 というか、今にでも魔法を打ってきそうな勢いだ。
 五人のうち、俺たちに遠い方の3人が何やら詠唱を始めちゃっている。


 もしかして間に合わないか?


 しかし、そう思った瞬間には、その考えが間違っていたということが、目の前に広がる異様な光景によって証明される。


 バタン、バタン、バタン、バタン、バタン。


 次々と五人の兵がその場に崩れ落ちた。
 それは、「疲れたから」とかそんなふざけた理由ではもちろんなくて、俺の隣で、眼前のその光景にも目もくれず、何やら1人で熟考している様子のこの変人によって引き起こされた現象である。
 その証拠に、先ほど、アミラが投げ飛ばし、空中で浮遊していた無数の針が、今は兵たちの体に突き刺さっている。
 まるで全身の力を余すことなく全て吸い取られてしまったかのように、力なく、抵抗なく、意思なく、主人を失った操り人形のようにスラリとやつらは崩れ落ちたのだ。


(あの脱力感。アミラのやつ、いきなりあれを使いやがったな)


 その光景を見て、俺は、アミラとフィオーネが共同開発していた新兵器を思い浮かべた——。




「——凄くないですか!? ただでさえアミラさんの魔力量は膨大なのに、これを使えばどんなに複雑な大規模魔法でも……。ぐへへぇ。最強な新兵器が出来ちゃいますね!!」
「フィオーネ。よだれ垂れてるぞ……」


 もはや、その状態がデフォルトと化した興奮中のフィオーネを見て、俺は呆れながらも横に置いてあったタオルを手渡した。
 よだれを拭きながら夢中で何かしらの計算式を書き始めたフィオーネに、流石のアミラも呆れ返っているだろうなと目を向けてみると、アミラもまた、目を輝かして何かしらの計算式を書いていた。


「単純な魔法式なら魔力量の調整はいらない。だとしたら、この指輪で事前に決まった量の魔力を込めておけるわ。戦闘中にいちいち、注入する魔力量やそのスピードのコントロールをしてたのがいらなくなると他の作業に集中できるし効率も上がる……。それに非魔術師でも魔力はあるし、魔術師と同じように内包魔力が枯渇すれば意識を失って最低の場合は死に至る。吸収速度を上げるために体内に直接これを差し込めればいいかしら。球だと最初に投げにくいしかさばる……。針。そうね。針か何かを、重力操作で至近距離から打てばまず外すことはないし、外してもUターンして狙い直せばいいわね。針一つ一つを直接魔法式に繋げてしまうと、もしその針が失敗してしまった時に使えない魔法が出てくるから、一度どこか一つに貯めておいて……」
「おお!! さすがはアミラさん! ただ魔力を吸収するだけじゃなくて、それ自体を攻撃として利用するとは!!」
「当たり前よ。それよりフィオーネ。魔力の転送効率をもっと上げるために魔法式の組織化を考えてるんだけど」
「それならアドム理論を応用すればできそうですよ! あとは転送先の割り振りを大きく設定してやればいいですね」
「なるほどね! じゃあ、ヤミリャン値を調節して、さらに——」




 ——なるほどさっぱりわからん。


 あの時の俺の素直な感想はそれだったが、やはりとんでもないものを開発していたのだな。
 つまりは、針の刺さった相手の魔力を吸収して、自分の魔法に組み込むことができるというものだろう。
 さらには、そのまま相手を気絶、ないしは殺害することができると。


 俺にはまだ戦闘経験があまりないからわからないが、コンマ一秒で生死が分かれるような戦場では、魔力を注入する時間すら惜しいらしいし、この速度で相手の魔力を吸収できるなら、実質、針が刺さった瞬間に相手は終わりだ。


「全くえげつない武器だな……」
「——えげつないのはあんたの魔法よ!」


 俺の何気ない呟きは、激高したアミラの声によって遮られた。
 気配感知でいくら敵のおおよその位置を把握しているからといって、一応、戦場の真っ只中にいるのは確かなので、俺はアミラなだめようと試みた。
 が、しかし、ちょうど俺の手が振り払われたのと同じように、俺の試みが全くもって無力なものだったことは言うまでもない。


「あの鉄板は魔道具バカの指輪を使ったとして、途中でいきなり出現させたのは、魔力を転送したからよね? それだと攻撃の直前まで指輪を飛ばすだけの力しか必要ないから効率的にはなる……。だとしても・・・・・!! 鉄板を出現させた後も、あの威力を維持しながら鉄板を揺らさずに真っ直ぐ動かすなんて 、どんだけ複雑な魔法式を使ってんのよ! そんなの、この短期間で準備できるわけないわ!」


(ここまできたら納得させる方が早いか……)
 そう判断して、俺は説得いいわけを始める。


「いや、まぁ。それはアミラさんのいう通りでして、ヤユに制作を頼んではみたんだけど、流石に間に合わなかったみたいでさ……」
「そりゃあそうよね」


 俺がそう言うとアミラは一瞬、納得をしたような顔をしたが、すぐにその顔をまた不満げなものに戻した。


 ならば、どうやってあの魔法を完成させたのか。
 焦らさずに早く教えろと言いたげなアミラのために、俺はその答えを告げる。


「——だから、俺が自分の頭で直接やることにしたんだ」
「はぁ!?!?」


 そのアミラの声は、壁も天井も音声遮断結界も超え、建物中に響き渡った——。

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