手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第三十三話 温もりの……

 あいつら、フィオーネが持ち帰った神代遺物アーティファクトに夢中で、俺のことなんて忘れてちまってるんじゃないか?


 目の前に現れた巨大な魔法陣を見て、その先に繋がっている先にいる奴らを思い浮かべると、俺は急に気が重くなる。
 ちょっとした誤解でこんなにも長い間、気まずい空気感が続くとは思ってはいなかった。
 もしかしたら、もう例の痛シャツのことなんて忘れてしまってるかもしれないが、どうも、これまで人との付き合いを避けて来たせいか、寄り添い方がわからないのだ。


 それに、正直、もうアミラのこともそんなに気にしていないし、あいつが謝って来たら許そうと考えていたが、そもそも話しかけてすら来ないから現状で停滞してしまっている。
 さすがに、作戦の日までには解決しないとな……。


「はぁ〜…………」


 俺は魂がそのまま抜け出てしまうんじゃないかと思うくらいに大きく息を吐くと、そのまま、ちょうど完成された巨大な魔法陣へと歩み寄る——。




 ……。


 ……えいいち!


 一瞬、視界全体が純白の世界に覆われた後、徐々に世界が着色されていく。
 それと同時に広がる周囲の音によって、俺は意識を覚醒させた。


「無事だったのね! 栄一!」
「だから言ったじゃないですか。フィイは自ら先に帰って来ただけで——」
「まぁ無事だったならいいじゃないか」


 目の前で鮮やかな色を動かし、鮮やかな音を出す3つの像。
 それは安堵の表情を浮かべている3人だった。


 状況を見るに、やはり、俺のことは蚊帳の外ではあるが、何か悪い気分はしない。
 自分が信頼を置く人たち、ちょうど両親のような存在が、目覚め側に穏やかな雰囲気の元、話しているのを見たかのような、そんな優しい空気を感じる。
 転移魔法を使った作用かどうかはわからないが、とてもポカポカする。


「でも指輪を取ってくるだけにしたらやけに遅かったから!」


(あれ? もしかして俺を心配してくれてたのか?)


 そこでようやく状況を読み込めた俺は、3人に歓迎されていると知ってなんだかこそばゆい気分になった。
 予想外に出来事に違和感も感じているのだろう。
 だが、仲間に迎えられるというのは悪い気分じゃない。


「そりゃあ、あれじゃあないですか? 自分の存在に気づいてない裸の女性が目の前にいるんですから……」
「栄一くんならあり得そうな話だね」
「……エロいち…………。ぷぷぷ」


 いや、どうやら俺は間違っていたみたいだ。
 あるいは歓迎されているのかもしれないが、俺をあざ笑うかのようにして見てきている3人を、俺は仲間とは思えない。
 断じて認めない。


「お前ら、いい加減にしろよ? これを研究できなくていいのか?」
「おおお!! それは例の!?」


 そう、俺がポケットから取り出したのは今回の作戦の目標である、例の魔術指輪マジック・リング。俺が持っている指輪とついになっていて、様々な効果を発揮するほか、能力を付与する能力、つまるところの、テンプレ女神の能力が詰まった至高の指輪だ。もし正常に使いこなせたらの話だが、これさえあればもはやチートとかそういうレベルでは強さを測れないほどの力を手にするかもしれない。リスクを犯して手にした甲斐があるというものだ。


「もうこれの能力は触れたことで手に入れたわけだし、ペアとなった時に発揮する能力くらいにしか利用価値がないんだよなぁ。こんなもの持っていても災いの元だろうし、今壊しちゃおっかなぁ〜」
「それだけはやめてくださいいいい!!」


 なんだかデジャブだなこの展開。
 この指輪を人質にした時の女神の反応とそっくりだ。


 あの時も、圧倒的不利な状況下で、この指輪の価値を頼りに脅して……ちょうどいい。
 この状況を利用して、ここ数日の問題を解決しておこうか。


「この指輪を渡すのに一つ条件がある」
「それってずるくないかね? 私たちの協力なしではその指輪は得られなかっただろう?」
「そうですよ!」


 全く、あまちゃんだなこの師弟コンピは。


「だが、今この指輪は俺の手の中にある。理解したか?」
「くそったれね!! 男として恥ずかしくないの!? この、こそ泥!」


 たまらずアミラも口を挟んできた。
 さすがにここまで言われると、少し心が動いてしまうな。
 だが、いくら命の恩人であるアミラとはいえ、ここは引けない。


「なあに。そんな難しい要求はしないさ。ただ、誤解を解きたいだけだ」
「誤解?」


 アミラはまだ、話に乗る気ではないようだが、フィオーネは俺の言葉に首を傾げて興味を持ったようだ。
 しめた。


「そう誤解。例のシャツに印刷された女の子のことだよ」
「うげ。そういえば忘れていました。ロリコンだなんて気持ち悪いのでとりあえず死んでもらえませんか?」
「だから違うんだって!」


 全くもう。これだから二次元に理解のない奴は困る。


「俺が好きなのは、この絵に描かれた女の子だけで、現実の小さい女の子にはコレッポチも興味はないんだ!!」


 ふぅ。言ってやったぞ。これで誤解も解けてうまく行くは……ず?


 3人を見ると、皆一様にこれまでにないほどに顔を引きずっていた。
 まるでどうしようもない変態を見た時の女子のような反応だ。


「……つまり。あんたは絵の中の女の子に恋してるってわけ? きっしょ!」
「栄一くん。さすがの私でもカバーしきれないよ。きっしょ!」
「キモいちさん……。きっしょ!」


「嘘だろ!?」


 さすがにこんな展開は予想してなかった。
 この世界にはない価値観だから理解できないのか?
 別に、現実の女の子に危害を加えるわけじゃないんだし、いいじゃないか!


「いやいやいや、俺の故郷では割とよくある話で、誤解されがちだけども、現実よりもはるかに上をいくこの絵に恋してるものたちは、むしろそれよりも下の存在である現実の女の子には興味がないから、つまるところは無害で安心っていうか——」
「もうわかったわよ」


 俺の必死の弁明を中止したのはアミラだ。
 見ると、何がおかしいのか、3人とも顔を揃えて笑っている。
 二次元嫁はそんなに気持ち悪いのか!?


「いや、その、でもな」
「栄一さんが悪い人じゃないってのはわかってますよ」
「そうだよ。エロいちくんが本当に外道だったら、今頃私たちは性奴隷にされているだろうしね!」
「ちょっとヤユさん!」


 どうやら、誤解はもともとなかったみたいだ。
 こんなことでずっと悩んでいたとは。


「さっき栄一くんが帰ってくる前にみんなで話してたんだ。なんとなく気まずい空気になって、それを打開できずに余計に気まずくなって……」
「だからこれを機に改善しようって! 栄一さんは女性に酷いことをするような人じゃないですもんね!!」


「二人とも……」




 やっぱりみんなもただ気まずかっただけで、別に俺を本気で嫌ってるわけじゃなかったんだな。
 なんだかホッとした。


 俺はそうして胸をなでおろしながらも、こっそりみんなにはバレないように、ポケットの中のまだ若干温かみを帯びている布を、念入りに奥へと押入れた。
 僕は女性に酷いことはしません!


「ま、まぁ、そうゆうことよ! それで、指輪の効果はどうだったのよ? どんな能力を保有しているの?」


 アミラは相変わらず素直になれないみたいだが、まぁ、もうこれがアミラだし、アミラなりに誠意を見せてくれているんだろうからもうこの件は良しとしよう。


「私も気になるな」


 ヤユにもせがまれたので、説明を始めようかと思って今、ようやく気付いたのだが、自分でもどんな能力を手に入れたのか把握してなかった。
 さて、どうしたものか。


「指輪に触れた時、おそらく、さっき手に入れたステータスプレートの効果だと思うんだが、脳内に声が響いたんだよ。『能力獲得』とかなんとか。でもその時はそれどころじゃなくて聞いてなかったんだ」
「あぁ、それだったら、もうステータスプレートの使い方のイメージはついたと思うんで、実物のステータスプレートを使ってみたらどうです? もう使えるはずですよ! プレートならみんなで見れますし」


 イメージがついたから使えるって、そんなに簡単なものなのか。
 まぁ、自称ではあるものの、確かに魔道工学のスペシャリストらしいフィオーネが言うのだから、とりあえず試してみようと、俺はカバンから例の名刺サイズほどの黒光りするプレートを取り出し、みんなに見えるように机に置く。


「えっと……。ステータス、オープン!」


 俺はイメージを膨らませるために(カッコつけるために)別に必要でもない呪文というか技名を唱えて、ステータスプレートに魔力を供給した。
 目を閉じ、集中して、自分のステータスを見るイメージを意識する。
 ステータス。力量。技量。能力……。


 すると間も無くして、目をつぶっていても伝わるほどにそのプレートが光を放ち始めた。
 その光が止むのを間も無くして、互いに頬で押し合い、食い入るようにしてプレートを見ていた3人が、一斉に悲鳴をあげる。


「「「えええええええええええ!?!?!?」」」


 ん?
 何か不具合でもあったのか?
 それとも、俺の能力が予想以上にかすかったとか?
 まぁ、今時、携帯にすら指紋やら顔やらパスワードやらで他人が使えないようにしているというのだから、女神の指輪の能力を、他人である俺が獲得することが不可能でも、なんら不思議ではない。
 だが、そうだとしたら残念な話だ。


 一人でがっかりしていた俺は、未だに大きく開いた口と目をを塞がずに、プレートを凝視してなにやらブツブツと呟いている3人を見て、俺は疑問が受かんだ。


「何でそんなに驚いてんだ? まぁ確かに勇者どもと比べて俺の基本ステータスはかなり低かったけど——って、うおい!?!?」


 3人の目から出る透明なビームに貼り付けられていたプレートを、俺はスッと取り出して見てみると、そこには現実離れした情報が記されていた——。






山田やまだ 栄一えいいち
 筋力: 10000
 体力: 10000
 魔力: 10000
 魔法耐性: 10000
 知力: 1000
 技能: 魔術指輪吸収、魔石吸収、魔力共有、空間転移、念話、回復加速、体力増進、衝撃吸収、痛覚緩和、思考加速、遠目、身体強化、身体加速、条件指定式爆弾、気配隠蔽、気配感知、鋼鉄防壁、雷束、火炎弾、火炎砲弾、火炎散弾、言語理解、能力値計算、魔石鑑定

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