手違いで勝手に転生させられたので、女神からチート能力を盗んでハーレムを形成してやりました

如月勇十

第一話 その世界は……?

「俺の愛するもんに手は出させねぇ!! お前はここで倒す!」
一輝いつき!」「いーちゃん!」「いっくん!」


 満身創痍、鎧も砕けてボロボロになりながらも、自分の愛したものたちをかばうようにして前に出る。そして、本来なら立っているのもやっとであるというのに、震えた腕をもう片方の手で押さえながら、対峙する憎き相手ーー魔王へと剣を突きつけ、自らを鼓舞するように、また、彼女たちを安心させるように、そう勝利宣告をした。その顔は憎悪で溢れていたものの、どこか自信や希望というものを感じさせるものだった。


「行くぜ! うぉりゃあああああ!!」




 〜〜続く〜〜




「ふぁああああああああああ!! ここで終わるんかーい!」




 嬉々としてやや大きめの声で物語の続きに期待を寄せながらも、俺はふと時計の方へと視線を向ける。
学習机の上に置かれたそれの短針は、ちょうどてっぺんを超えたあたりだった。


(明日も学校だしそろそろ寝ようかな……でも続きが気になる…………)
 机に突っ伏して、そう逡巡しながらも、最初から答えなど決まっていた問いに、


「よっしゃっ! 今日は徹夜だぜ!!」
 と意気揚々と応え、起き上がり、横に積まれた5,6冊はあるであろう青年向け小説、別名ライトノベルに手を伸ばす。
 本の山の下には、『宿題』と手書きで書かれたプリントが見えるがそんなことは知ったこっちゃない! 今は続きが気になりすぎて宿題どころではないのだ!
 さぁさぁ、続きはどうなってるのかな。


 表紙をめくり、最初のページにある煌びやかなイラストを見て俺は思った。


「こんな世界に住んでみたいな」


 魔法。科学とは相反する非物理的現象。
 そしてそれが存在する異世界。
 そこには宿題や勉強という面倒なものもなくて、代わりに胸躍らせる冒険や、仲間との青春、なんてのがある。


 もし自分が、この物語の主人公のように異世界へ転生されたらどうなるんだろうか。


 奇跡のような出来事や、神からの恩恵によって、いわゆる『チート』と呼ばれるほどの固有スキルを手に入れ、それを使って縦横無尽に敵をなぎ倒す! きっとこの俺ならば、眼前の卓上に並べられている様々な異世界転生系ラノベの主人公たちよりも上手くやるに違いない。
 そうなると、そんな俺に惚れて種族・年齢問わず、多種多様な美女が俺の周りを囲んで……ッゲフンッゲフン。
 でもまぁ、素晴らしい世界になることは間違いないだろう。


「はぁ。俺も異世界に転生したいな」


 授業中や登下校中。中学2年にラノベを読み始めてからもう4年。
 今まで何度言ってきたか数え切れないほどに呟いたそのセリフを、俺は息を吐くように口から漏らした。


「でもまだトラックに轢かれたくもないし、召喚だとチート能力を手に入れるまで大変だし……。今はこれで我慢だ」


 パラパラと手のラノベを捲り、俺にとっての夢の世界へと意識を向ける。


 そうして今夜も俺の日常が始まっていった——。




      ◇◇◇




「はぁ〜…………」


 どれくらい時間が経っただろうか。
 気づけば、窓の隙間から伸びた光の線が薄っすらと手に持つラノベを照らしている。
 どうやら夜が明けたようだ。
 日が差している事すらも気づかないほどに集中していたなんて……。


「んーー……」


 物語が終わりを迎えた時の、なんとも言えない喪失感を胸に抱きながらも、長時間の読書による疲れを癒すべく体を伸ばす。


「さすがに少し寝たいな……学校までチャリで飛ばせばなんとかなるか……」


 いくらラノベやアニメのために徹夜を繰り返してきた俺とは言え、そろそろ体力にも限界が来ていた。
 手に持っていたラノベを山に積んで、俺の意思に反して閉じようとする瞼を擦ると、重い腰をゆっくりと上げる。


(あぁ。アラームセットしないとな)
 そう思い、目を閉じたまま時計がある方へ手を伸ばした。




(…………?)


 だがそこには何もなかった。


 ……何もない?
 いつもなら時計があるべき場所に、時計どころか学習机の棚も存在しない。
 眠すぎて距離感覚を失ったかと考え、半分閉じかかった目を再度擦って、目を見開く。




「ん?」


 だが、そこにはやはり何もなかった。
 正確に言うなら、さっきまであったはずのラノベが山積みにされた学習机の棚やそこに置かれた時計、その他フィギュアなどが一つの例外を除いて全て消えている。
 心なしか机の色や材質も変わっている気がした。


「どういうことだ?」


 唯一消えていない、例外である、今さっき読破したばかりの6巻分のラノベに手を添えて、純粋に疑問を呟く。


(もしかして寝ぼけているのか?)


 そう思い、立ち上がって部屋をぐるりと見渡してみると、目の前には信じられない光景が広がっていた。




「なんだこれ……!?」


 思わず驚愕の声をあげてしまった。
 だが、それも無理はないと思う。
 なぜかと言うと、いつもの俺の部屋になら所狭しと壁に貼ってあるはずのアニメのポスターが一切なくなっていて、それどころか壁が元の塗り壁とは似ても似つかない安そうな木材でできていたからだ。
 もちろんそれだけではなく、ベッドや椅子も記憶にあるそれとは全く違った姿形をしていて、間取りも変わっていた。何より、俺の命よりも大切な、アニメBDやラノベを収納していた棚が消えている。


「……ドッキリか? それとも……明晰夢というやつか?」


 目の前に広がる光景があまりにも非現実的過ぎたために、むしろ現実ではないんじゃないかとさえ考え始めている。


「ドッキリにしては大掛かり過ぎるよな……。いくら俺がラノベに熱中していたとは言え、俺に気づかれずにこんなことできるか……? そんなのまさに神業だろ…………」


 ドンッ
 そんな音が鳴り響く程の勢いで、完全に脱力しきった俺は再び腰を椅子に落とし、一度思考を停止した。


 ふと無意識で、特になんの目的があったわけではないが先ほどまで読んでいた本に触れてみる。




「……神業……神の所業…………」


 なぜか頭に残ったこの言葉を、俺はなんとなく呟いていた。手に持つ本の表紙には『あの神様? ここって異世界ですよね? 神様のトイレではないんですよね?』と大きく書かれている。


 ……今更だけど酷いタイトルだよなぁ
 転生された先が神の家のトイレで、いきなり神にトイレ掃除を命令されるんだよね……


 大好きな物語の冒頭部分を思い出しながら感傷に浸っていると、なんだか心も頭も落ち着いてきた。
 改めて真剣に自分の現状を把握しようと、一旦本を置いて居住まいを正す。


 そしてそこで突如脳に電撃が走ったような衝撃が走った。


(……転生?)




 寝てないから思考が正常に働いていないとか、いきなりのことで動揺してるとかそんなことは一切考えず、俺はただ、脳裏によぎった言葉を復唱する。


「転生……。異世界転生?」


 ようやく手に入れた、この状況を説明するのに一番適切な言葉に、首を傾げて疑問を覚えた。


「まさかそんなわけないよな」


 半信半疑というよりも、9割がたありえないと思っていながらも、俺の心臓の鼓動が高まっていくのを感じる。




「……まさかな」


 いてもたってもいられなかった俺はその場から飛び出して部屋を物色し始めた。
 小走りで家具から家具へと見て周り、そして見たこともない古びた木製の家具や部屋に、さっきの仮定があながち間違っていないんじゃないかと考え始めていた。


(外はどうなってんだ?)


 当然、部屋の外がどうなっているのか興味が湧いたので、そのままちょうど近くにあった扉のドアノブに手をかける。


 ギィーー
 オイルが十分に塗られていないのか、そっと開かれた扉はそんな音を鳴らしながら、外の世界を俺へと見せる。




「……」


 恐る恐る顔を部屋の外に出してみると、そこには見覚えのない、これまた100%木製の廊下が広がっていた。


 ガチャン
 なんだか見知らぬ空間に恐怖を覚えて、部屋へと顔を引っ込め、扉にもたれかける。


 静寂した部屋の中で、自分の荒ぶる心臓に気づく。


「おいおい、嘘だろ…………」


 さっきまであったはずの時計やラノベや漫画、それどころか家具まで消えて代わりにあるのは、まるで中世ヨーロッパで使われていたんじゃないかと思わせるような木製の家具たち。


 ——俺に気づかずにそんなことが人間にできるか?
 もしできたとしても、気づいたらそこでドッキリ?は失敗なわけだし、そんなリスキーなことはできないよな?
 夢だとしてもさすがにこれはリアルすぎるし。


「……だとすると、やっぱりここは…………んっ?」


 そんな俺の思索は、突如俺を照らし始めた光によって遮られた。
 その眩しさに目を細めながらも、俺は光源へと目を向ける。


「そうか……!!」


 その先には僅かな隙間から光を漏らしている窓があった。
 俺はそれを見た瞬間に自分が何をすべきか思い至り、そして窓の方へと走りだす。


「もしここが、本当に異世界だったら……!」


 既に眠気なんて忘れてしまっていた俺は口元に笑みを浮かべ、窓へと手を差し出した。


 俺の部屋にあったはずのカーテンの代わりに両開きの木製の扉があったが、部屋の豹変は今更。そんなことは気にせずに勢いよく俺は窓を開ける。




「……っう!」


 容赦のない日差しに思わず腕を上げて目を守る。


 そして徐々に光に慣れてきた目が俺にその異様な光景を見せた。


「……やっぱりここって!!」




 目の前に広がる世界は、紛れもない異世界だった——。

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