獣少女と共同生活!?

【夕立】

第七話 みぞれ、会社に行く(中編)

駅に着いた私は、券売機の所へ向かい上の路線図を見てみる。
いろんな色の線が沢山書いてあり、自分の居る駅の場所を探すのでも一苦労だった。
自分の居る駅を見つけた私は、そこに繋がっている線にそって誠さんの会社に一番近い駅を探す。
その線でさえ、上に行ったり下に行ったり……。道を外れたらまた戻って線を辿って目的の駅を見つける。
しばらく経って、ようやく見つけた私は料金を確認し、券売機の案内にそって乗車券を買った。
ここで難関を突破したと一安心しようとしたが、まだ電車に乗るには難所がある。
上り、下りの間違い。
誠さん曰く、上り下りで間違えると時間がとてもかかる。
目的地の反対方向に行くわけなので、戻るにしても元の時間にプラスで時間がかかってしまう為らしい。
その間違いを減らすための方法として、階段に書いてある進路方向の駅の一覧を見る方法と、駅員さんに聞くという2つの方法がある。
駅員さんに聞くのが早いが、駅員さんだって忙しいと思う。自分の力でなんとか出来るなら、自分の力でなんとかしなきゃ……。
まず、右側の階段の方向に行き、進路方向の駅の一覧を探す。こっちには……書いてませんね。
つまり、こっちの階段ではなく反対側の階段に登れば目的の駅まで行ける電車に乗れるわけですね!
しっかり乗れるか心配ではありますが、きっと大丈夫です。困ったら駅員さんに聞けば分かりますし……。
こうして、私の会社へのお使いの難所は超えたのであった──。


「えーっと、確かこの道を右ですね」

私は地図アプリを見ながら誠さんの駅へと向かう。住所さえわかれば、ルートも複数表示されますし、これで迷う事はないはずです!
すると、向かいから歩いてきた女性にふと目が行きました。
体力の買い物袋。野菜などがはみ出ているのを見る限り、スーパーなどの買い物帰りでしょうか。
見た目は私と同じくらいの身長で、制服を着ている。高校生かな?
ふらふらとおぼつかない足取りで歩いている彼女は、暫くするとバランスを崩し、転んでしまった。
私は急いで駆け寄り、散乱した荷物を拾うのを手伝い、彼女に渡した。

「あ、ありがとうございます……」
「いえいえ、たまたま通っただけですので。それでは」

そう言って私は彼女を通り過ぎ、誠さんのいる会社へと再度向かおうとした。

「あ、あのっ!」

助けた彼女が私を呼び止めました。
私は手助けをしましたが、お礼を何度も言われるようなことはしたと思ってはいなかったので、彼女に伝えました。

「お礼は大丈夫ですよ?お言葉だけで十分ですから」
「い、いえ。そうではなくてですね……」

モジモジと彼女は落ち着かない様子。初対面でお礼以外の話したい事……ですか。
いえ、もしかしたら既に一度会っていて、私が忘れているだけなのでしょうか?
もしそうなのであれば、すぐに謝って思い出さなければ彼女に失礼ですね……。しかし、何処かで会ったでしょうか?
動物の頃も物覚えは良かったので、今も物覚えは良いと思ったのですが……。今までのは偶然覚えてただけだったんですかね……?

「えっと、間違っていたら申し訳ないんですけど、もしかして動物さんですか?」

──今、何て言いましたか?
私はあの大きめの耳も、尻尾も完全に隠せるようになっているはずです。誠さんと何度も外に出て試しましたから。
そのはずなのに、私が動物だとバレました。
理由として考えられるのは2つ。
1つ目は私の匂いですね。
いくら擬人化していても、動物としての本能などはあります。さらには、人間には分からない程度ですが動物だった頃の匂いもするそうです。
つまり、この人も擬人化しているだけの動物の可能性があります。
2つ目として、その動物の飼い主──主様であること。
主様になると、擬人化した動物の匂いが勘で分かるようになるらしいです。
この2つから分かる事……それは、この人は私同様の動物に関わっていると言う事。
……なら、私の正体を言っても大丈夫かな?

「……そうです。私は擬人化していますが、ウサギです」
「やっぱりそうでしたか!私以外の動物を暫く見なかったので、少し不安になっていたんです!」

彼女はそう言うと、私の両手を掴んできました。目はキラキラと輝いていて、心の底から嬉しく思っているんだと感じました。

「ところで、あなたは?」
「あ、申し遅れました。私、すずめの秋風あきかぜと言います」

そう言うと、秋風さんはペコリと頭を下げました。私もつい反射で、同じように頭を下げました。
話を聞くと、どうやら主様は居ないらしく一人でバイトをしながら生活をしているそうです。
今はその買い出しの帰りで、これが終わったら今日の仕事は終わり、何処か休める場所を探すそうです。
家はない為、寝床はすずめの姿になって寝ているそうで、案外ここでの暮らしに動物らしく適応していると言っていました。
ですが、やはり人間の姿をとすずめの姿を変えて暮らすのは体力的に厳しいようです。
何かいい案はないでしょうか……?
……そうです!こんな時こそ誠さんです!

「秋風さん。私の主様の許可が下りればですが、一緒に暮らしませんか?」
「みぞれ様、宜しいのでしょうか……?」
「きっと誠さんなら許可をくれると思いますよ!」

根拠はないけれど、誠さんならきっと許してくれる。何故かそう感じました。
断られてしまったら、秋風さんには申し訳ないですけど……。

「でしたら、私もみぞれ様の主様に会ってお願いします!みぞれ様がお願いするのも申し訳ないですから!」

秋風さんは、目を輝かせていました。
誠さんがお仕事中ですが、聞けるでしょうか……?
タイミングは今じゃなくて、誠さんが帰る時間でも大丈夫。もし忙しそうだったら、帰る時間に言いましょう。
こうして、私と秋風さんで誠さんのいる会社に行くことになりました。
……誠さんは許可してくれるでしょうか?

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