俺は5人の勇者の産みの親!!

王一歩

第5話 パッフェルベル


 俺は建設中の塔をどうにか取り壊しを始めようと力を入れる。

「ばっ、バカじゃねぇの?! 何言い出すんだよ?!」

 当然の反応に、カノンは驚きもしない。
 それどころか、当たり前のことのように話を続ける。

「そう、えっち。さぁ帰るわよ。あなたの家ってお風呂沸かせる?」

 再び胸ぐらを掴まれると、流石にこれには従えないと足を止める。

「お前、本当にどうしたんだよ?! 俺が急に好きになったのはまだしも、会って数日でえっちするなんておかしすぎるだろ!」

 俺は混乱して頭を抱えるが、それでもカノンは全く動じない。
 それどころか、鼻を鳴らして笑う。

「は? 好きってのは嘘。アリアみたいな女の子からリュートを独り占めするための作戦よ」

「は?!」

 作戦だと?
 告白の事や好きとかなんとかも、作戦とか言いやがったのか!

 カノンはそれでも引っ張って連れて行こうとする。
 あまりにも強引すぎる彼女に対して怒りを覚えた俺は、手を払うって完全に立ち止まる。
 怒った俺を見れば、流石にもうやめるだろう、と思ってた。
 あ、そうだ
 この子、カノンだった。
 ……諦めるわけないってことだよ。

 カノンは頭を掻きながら溜息をつく。
 そして、重そうな口を開ける。

「リュート。あなたのことは全然好きじゃないの。あなたの子供が欲しいだけ。あなたとの子供を作るにはえっちしかないでしょう? ほら、行くわよ」

 そういうと、カノンはもう一度俺の胸ぐらを掴もうと近づく。
 しかし、伸ばしたカノンの手は、俺に触れることを躊躇した。
 ……ように見えただけかもしれない。
 理由としては、俺の情けない姿を見たからだろうな。

「……なんで泣いてんのよ、やめてよ」

「は? 泣いてないし」

「嘘、泣いてるじゃない、リュート」

 カノンは俺の泣き姿を見ると呆れたのかため息しかつかなくなる。
 ぽりぽりと頭を掻く、ため息をつく。
 ため息をついて、口を開く。

「ごめんなさい。私って悪い女よね。その、不器用だから私。男の子とどう接していいかわからないというか。その、あなたの人生に干渉しない方がいいとは思ったけど、こればっかりは難しいことなの。あなたの大学人生の最初だけでもいいわ。私に体を貸して頂戴。そしたら『リュートは愛想を尽かして、私をフッた』ってことにして」

 カノンはハンカチを俺に渡すが、受け取ろうとは思わない。
 それは、俺からすれば慰謝料モンの出来事だ。
 人生に干渉しない、だと?!
 俺がどれだけ大学生活初日で目をつけられたと思ってる!?
 体を貸せ……だと!?

「……なんだよ、それ。意味わかんねぇ」

 自分の手で涙を拭き取ると、真っ赤になった目でカノンの心を見る。

 おかしいとは思ってたよ。
 急に告白してくるなんてまずおかしい。
 どこまでもついてくる時から疑うべきだった。
 体目当てだったなんて思わないじゃないか普通。

「……わかって頂戴。どこまでも私の都合よ。でもね、あなたとどうしてもえっちして子供を作らないと帰れないの」

「どこにだよ」

 カノンは後ろを振り返って誰もいないことを確認する。
 アリアが追ってきてると思っているのか?
 だが、なぜか空まで見てる。
 なんなんだよ、マジで。

「……どうせ言うつもりだったからここでいうわね」

 出来るだけ俺に近づくと、スカートを軽く持ち上げる。
 ふわりとした服装の下から、太ももが見える。
 ツルツルと月の光を反射する脚は、綺麗な光を纏った宝石のように見えた。
 細身ながらも、少しだけ肉つきのある太もも。
 かぶりつきたくなるような綺麗な肉だ。
 こんな脚で挟まれたら、どれだけ気持ちがいいのだろうか。
 やっべ、エロすぎるっ!

「……私の名前は、江夏 奏音。でも、本当の名前は、パッフェルベル・トゥル・カノン。違う世界、そして未来から来た王女よ」

 俺は口をあんぐり開ける。
 またまた、そんな厨二病設定足しちゃって。
 魔法でも使えるってか?
 ドラざえもんってか?
 シュタインなんとか的なやつか?

 意味わかんねぇ。

「……どう言う設定だよ」

「まぁ信用できないわよね。証拠を見せたほうが良いでしょ? はい、これが証拠」

 そういうと、カノンは右手を上げて地面に手のひらを向ける。
 ふわふわと黒い髪が上に上がっていくと、少しずつだが髪の毛が白くなっていくように見えた。

「心弦解放、ティレジアル!!」

 神々しく右手が光り輝くと、地面から一本のヴァイオリンがヌルヌルと出てくる!

「おおっ……!!」

 美しい木目が人の目を惹く煌びやかな光沢を放ち、魅了する弦の一本一本が生きているように見える。
 水族館で見たことあるぞ、発光するクラゲみたいだ!

 彼女がヴァイオリンを握ると、光の筋が消えていく。
 五線譜のような光が空中に描かれると、月明かりに吸い込まれるように消えていった。

「はい、これが証拠。魔法が使えるのよ、私。これで信じてもらえるかしら」

 ヴァイオリンを再び地面に押し込むと、地面に埋まっていくように消えていった。

「……。一旦信じるけど、なんで俺と子供を作りたがるんだよ」

 ドクンドクンと波打つ心。
 それは、この後に起こることが不安で不安で仕方がなかったからなのか。
 いや、楽しみだったのか?
 どちらにしても、何かやばいことに首を突っ込んでるような気がする。

 そして、カノンは俺と目を合わせて決心付いたような顔になった。
可愛い唇がぷるりと揺れると、面白い事実を俺にぶつけてきた。

「それはね、リュートの子供が勇者になるからよ」

「俺の子供が、勇者になる?」

 つづく。

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