中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

45.裁判

 王宮、法廷。


 俺、真雫、リーベ、国王陛下、バータ公爵その他諸々は、そこに集まっていた。無論、容疑がかけられているラウト公爵家もいる。その中には、シアーもいる。何気に俺に怨嗟の視線を送りながら、悠然と佇んでいる。


 まさか、ここで暴走はしないだろう。そんなことを考えているうちに、裁判が始まったらしい。


「──先日、プリンゼシン公爵家が御息女、リーベ・プリンゼシン様が何者かに誘拐されました。それについて、起訴されたラウト公爵家、及びその実行犯の可能性があるシアー様、弁明を」


 進み方が日本と違う気がするが、この世界、もしくはこの国の仕様なのだろう。


 弁明をすべく、シアーが立つ。


「私はやっておりません。その時、私にはアリバイがありました」


 弁護人ではなく、容疑者本人が弁明するようだ。嘘をつかれるのは困るので、軽く威圧を放っておく。勿論、シアーにだけ。


 その威圧を察知したのか、シアーが一瞬ビクッと身を震わせると、徐々に顔を青ざめさせていった。こうかはばつぐんだ!


「アリバイとは?」
「は、はい。その時、わ、私は──」


 威圧の所為で少し聞きづらかったが、彼は当時ギルド職員とともにギルド近くにいたらしい。証人もいるようだ。


 イマイチ強い証拠にはなり得ていない。裁判官 (?)も微妙な顔をしている。実際、アリバイ自体は魔法で偽装できる。無論、そのような常時魔法を所持していなければ無理だが、使えさえすればアリバイどころか他人を犯人に仕立てることも出来るだろう。ちなみに、これらは全て公爵情報である。


「真偽官、真偽は?」
「……真実です」


 この世界の裁判には、『真偽官』というものが存在する。真実を見抜く常時魔法を所持しているものだけがなれる役職だ。個人差が激しい常時魔法である真偽魔法は、年齢によって左右されるものが多い。例えば、長生きすればするほど、生まれた時、つまり若ければ若いほど、魔法の真偽を見抜ける範囲が拡大される。


 基本は簡単な嘘を見抜ける程度だが、条件に限りなく近くなればなるほど効果が上がり、些細な嘘さえも分かるようになる。


 ただ、この役職に就くには、その魔法の効果は勿論、平民でなければならない、という決まりがある。何故なら、貴族や王族がこの役職についてしまっては、家が嘘をついた時に、家の味方をしてしまう可能性があるからだ。その反面、この世界では身分が低く、罰が貴族に比べて強いため、裁判になりにくい平民がこの役職についている。


 シアーはそれ以上弁解はしなかった。……もしかして、こいつ、頭悪いのだろうか?それも相当。


 続いて俺たちのターン。


「私達は、彼ら転移者の協力のもと、これらの証拠を手に入れました。これがその証拠です」


 公爵がそう言うと、空中に証拠の写真が投影される。おぉ、ちょっとカッコイイ。


 それを見たシアーは、顔面に隠しもせず焦りを浮かべていた。完全に黒だ。リーベや俺の記憶を投影できればなお確定だったが、そんな魔法は存在しない。でも、そんなことをしなくても、疑う余地はなさそうだ。


 その顔を見て公爵は確信したのか、更に追求するのをやめた。そして、彼は言い放つ。


「真偽を」


 この言葉の意味は、裁判では少し特別だ。この言葉は、被告の犯罪を確定させるために、被告にそれをしたかどうかを真偽官が聞くのだ。


 過去にその犯罪をした場合、頭の理解が追いついていなかった場合、聞き間違いをした場合など、様々な可能性があるため、真偽官が直接被告に聞くのはNGだ。


 しかし、原告側が確定的な証拠を提出し、真偽をはかってほしい、と願い出た場合は、それを実行することができる。


 まさに今、真偽官に公爵は願い出たのだ。少し早い気もするが、まぁ、なるようになるだろう。ちなみに、この真偽をはかることは、裁判1回につき1回までである。


「被告に問います。今回の事件において、リーベ様を誘拐など、犯罪に関与しましたか?」
「…………」


 シアーが黙りこくる。こういった状況において、彼に黙秘権は存在しない。無言は肯定となった。


「あと10秒で答えなさい。今回の事件において、リーベ様を誘拐など、犯罪に関与しましたか?」
「……はい」


 彼はとうとう認めた。早い。何とも早すぎる事件解決だ。事件発生から2日も経っていないのに、犯人が自首でもなく認めるとは。


 シアーが犯行に至ったまでの道筋を聞く。


 以前から、リーベを誘拐する計画はされていたらしい。実際に実行するのはもう少し先だったらしいが、そんな彼に1つのチャンスが舞い降りる。


 そもそも、計画でのリーベ誘拐は、困難を極めるものだった。なんせ人間恐怖症だからな。でもその日、館からリーベが1人で走っていったのを、彼はたまたま見てしまった。


 その時、彼はリーベをつけて、何故か持参していた即効性睡眠魔法の付与されている魔法道具を使い、彼女を誘拐。


 そして、地下牢へとリーベを幽閉。


 どうしてやろうか、とクズな考えを巡らせていると、リーベの起きた時の姿を見て欲情、及び発情。理性がプッツンといってしまい、襲いかかろうとしたところで、俺達が登場。意識を飛ばされ、俺達が帰ったあとに目覚め、このままではまずいとギルド職員を買収してアリバイを作り、帰った。


 概ねこんな感じである。


 幾つか腑に落ちないところがあるが、裁判では事件に関係ないことは被告に聞けないことになっている。


 彼は有罪、被害者の誘拐及び強姦未遂の罪で牢屋に連行されていった。え、有罪確定するとすぐさま連れていかれるの?厳しいなぁ、この世界。


 こうして、リーベ誘拐事件は幕を閉じた。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「あの、公爵」
「?」
「なんで、自白させなかったんですか?その方が早かったと思いますが」
「あぁ、この国じゃ、自白は無効なんだ」


 そうなのか。日本と似ているな。


「……結局、あの手紙はなんだったんでしょうね」


 俺が腑に落ちない点。それは、館に置かれた手紙だ。


 それには、俺と真雫を交換条件とすることが書かれていた。だが、あの様子では彼は知らないだろう。俺達に対しても、前のことを恨んではいなさそうだし。


 シアーの犯行ではない、つまり、他にも何かが動いていた、ということだ。


「あれか……。ふむ、私にも分からない。分かり次第、君にも連絡しよう」
「はい、ありがとうございます」


 彼はまだ仕事があるので、と帰ってしまった。リーベも連れていかれて、残っているのは俺と真雫だけだ。


 あの手紙は館にあった。厳重な物理的警備が敷かれている公爵家の館に、だ。つまり、魔法であの手紙は置かれたのだろう。転移魔法は使えずとも、ものを動かす魔法とかでならいけそうだ。


 だが、なら何故あの手紙は置かれた?少なくとも、俺達に用があったのだろうことは分かる。


 しかし、あの場にはシアーと、少しの警備がいただけだ。俺が特に関係がありそうなものは特になかったはず。唯一あったのは、『オンカ・オンニル』による研究資料だけ。


 ……ものすごく限定的な考えだが、もしかしてその資料を見せるための手紙だったんじゃないか?証拠はないが、それだったら、辻褄が合わないでもない。一体誰が、という疑問は残るが。


 嫌な予感はする。なんせこれがもしそだとすれば、確実にゴット・ストゥールが絡んでくる。つまり、ヤツらはこの国にもいるということ。


 少し危機感を覚えながら、俺達は自室へと戻った。


 そして、翌日。


 シアーは無期懲役、その他当事件に関わった人も50年以下の懲役となった。長い。非常に長い。こんなに長いのなら、この国の犯罪発生率が低いのも頷ける。


「一件落着して良かった」
「まぁ、そうだな」


 朝食を頬張りながら、安心した顔で真雫はそう言った。一先ずは、確かに一件落着だ。


 ちなみに、あの場所の公爵による調査はもうしないことになったが、国王陛下がより本格的にあの場の調査をするらしい。ゴット・ストゥールのより詳しい情報を収集するためだそうだ。俺もその中の1人として加えられている。


 そろそろその調査があるため、集合場所にいかなければ。


「よし、行くか」
「うん、魔王を倒そう」
「うん、魔王退治にはいかない」


 朝から中二病を発動させる真雫を連れて、俺達は現場に向かった。

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