中二病たちの異世界英雄譚

隆醒替 煌曄

7.鍛錬

「ほう、山羊の頭を持つ四つ腕の何かか。魔獣の類ではないのかい?」
「分かりません」


 魔獣とは、この世界に存在する、魔法を放てる獣のことだ。地球にもいた猫や山羊なども普通にいるが、この世界では魔獣も同じくらい存在している。飼われたりすることはないが、よく食卓とかに出てくるらしい。最近よく朝食に出てきた謎の肉も魔獣の肉なんだそうだ。どんな魔獣の肉なのかは教えてくれなかった。聞かない方がいい、という遠回しの注意なのだろうか?


「魔術師よ、何かわかるかい?」
「はい、恐らく悪魔の1柱、バフォメットだと思われます」


 見た目通りの名だったか。悪魔も存在するのか、この世界。もしかしたら、俺の想像する悪魔とは違うものなのかもしれないので、質問する。


「あの、悪魔とは?」
「……?今までの転移者は知っていたのだが、ノアさんは知らないのかな?負のエネルギーを持つ魔族の1つで、邪神の手下だよ」


 邪神の手下だったか、失敗した。邪神に関することは、できるだけ大事になるようにしたくなかったのだが、まさかその手下を倒してしまうとは。殺さず捕まえるべきだったか。確かにまだ邪神は復活していないと聞いているけど、意志だけはもう既に復活しているかもしれないから、注意しておくべきか。後で真雫にも伝えておこう。


「ところでノアさん」
「はい?」
「少しお願いがあるんだ」


 国王陛下が非常にいい笑顔で俺に語りかける。なんだろう?


「君たちは確実にこれまでで最強の転移者だ。初の戦闘で、軍1つと渡り合える悪魔を倒したのだから、それは保証する。だから、君たちには神殺しの1つ上のことを頼みたい」


 1つ、上?神殺し以上の何かがあるのだろうか?


「君たちには、神封じをお願いしたい」
「神封じ?」
「ああ、そうだ」


 国王陛下によれば、神封じはその名の通り、神を生きたまま・・・・・封印世界という場所に封じることだ。過去に1度、封印向きの転移者が現れたそうで、その時にも行われたらしいが、難しくて結局殺したらしい。その時に使われるはずだった道具が、まだ残っているのだそうだ。


「それを使って貰いたい。お願いできるか?」
「…………分かりました。任せてください」


 その道具は、また後日見せるとのことらしい。


 ただ、俺はもっと考えて返答すべきだったのだ。そうすれば、決してあのようにはならなかったのに。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


「おかえり、ノア。魔王との会談はどうだった?」
「ただいま。あと魔王じゃない、国王陛下だ。怒られるぞ?」


 どこまでも中二病だな。


 とりあえず、神殺しが神封じに変更になったこと、バフォメットのことも話しておいた。


「なんで、私に相談しなかったの?」
「スイマセン、少しの変化しかないので大丈夫と思いました」


 神封じのことを真雫に相談しなかったことを咎められた。殺すと捕まえるのは、同じようなもんだろ?


「全然違う。グングニルとゲイボルグぐらい違う。ノア、よく聞いて──」


 グングニルとゲイボルグという中二病的例えはイマイチ伝わらなかったが、封印するのは、殺すのよりもはるかに難しいとのこと。殺すのはギリギリでも大丈夫だが、封印するのならば、殺さないよう手加減せねばならず、そしてタイミングを間違っても殺してしまうので難しいとのことだ。何故そこまで知っているのか、と問いたら、「ゲーム知識」と帰ってきた。なんだろう、真雫らしい。


「はぁ、でも決まったことならしょうがない。これからはその方針で行く」
「了解」


 真雫のため息も珍しい。いつもは俺がつくのだが。


 時計を見れば、すでに午後3時を回っていた。流石に何も鍛錬とかしないのは、マズいか。


「じゃあ真雫、俺は少し鍛錬してくるから」
「ん、私も行く」


 え、真雫も行くの……?まぁいいか、害になるわけじゃないし。


 コートから、丘の木に刺した剣に酷似した剣を取り出す。


「”転移ファシーベン”」


 薄黄色の光が俺達を包み、そして消える。光が消えた頃には、俺達はあの丘にいた。


 転移剣ウヴァーガン
 俺の作ったオリジナルの剣だ。見た目は黒く柄のない短剣。切れ味こそ普通の包丁ぐらいしかないが、他の同じ剣の所へ、呪文を唱えることによって転移できる移動用武器だ。相手が一般人の時の戦闘にも向いている。意外とお気に入りの武器である。能力のアイデアは、某超大作ゲームから拝借した。


「おぉ、リアル転移武器」
「すごいだろ?」
「すごい」


 真雫がキラキラした目で褒めてくれる。うん、素直に受け取っておこう。


 ちなみに、訓練場の清掃とやらはもう終わっている。もちろん、そこにも転移剣ウヴァーガンをこっそり準備させてもらっている。


 なら何故、訓練場に行かないのかというと、真雫が何故か嫌かったからだ。真雫曰く、何かがいるんだそうだ。もしいるのなら、俺の【感覚強化】で気づくと思うが、気配を殺すのが上手いヤツなのか、はたまた真雫のただの気のせい、もしくは妄言なのだが……恐らく真雫は中二病のため後者の可能性が高い気がするが、それを気のせいや妄言で済ませるのは、単なるバカだろう。だから、もしもの場合を考えて、この場所を使っている、というわけだ。


 油を売るのもなんなので、始めるとするか。呪文を詠唱し、魔眼を発動させる。


複数ミーラレ武器ヴァッフェ召喚フォーアラードゥング : 自動剣フラガラッハ


 宙に10個の自動剣フラガラッハを出現させる。それらをある程度の速度で自分に向けて発射。そして避ける。


 自動剣フラガラッハは命令を下しておけば、あとはすべてその通り動いてくれる優れものだ。なので、最初に俺に直線的に当たるよう指示すれば、俺は必然的に避けなければならない。つまるところ、避ける練習ということだ。バフォメットを倒した後の帰り道に思いついたものだが、意外といいかもしれない。


 もし仮に剣があたることがあっても、持ち主に被害が及ぶときに、部分的な魔法障壁を出してくれる腕輪の自動盾モルガナを装備しているため、心配はない。


 1本ずつずれて向かってくる自動剣フラガラッハを、余裕な感じて避けていく。うん、まだ実際に余裕だな。


 バフォメットが俺に迫った時と同じスピードにすると、漸く自動盾モルガナが発動した。避けきれなかったみたいだ。この速さで鍛錬するか。


「はあああああああ!!」


 真雫も魔眼を発動させて、何かを試している。さっきから防御壁マウアーを発動させたり、解除したりしているのだが、何がしたいかさっぱり分からん。まぁ、じきにわかるだろうし、今度聞けばいいか。


 それから約3時間、ぶっ続けで俺達は鍛錬をした。流石に魔力を多く消費したのか、倦怠感がすごい。既に日の入り寸前だから、もう帰るとするか。真雫はもう既にお疲れモードで、芝生に倒れ込んでいる。


「真雫、もう暗いから帰るよ」


 そう言ったが、返事がない。ふぅ、とため息を1つついて、真雫のいる場所に歩いて向かう。


「ほら、帰るよ」
「……うん」


 真雫の手前に出した俺の手を、真雫が起き上がるために掴む。あったかい。


 空いた手で、コートから転移剣ウヴァーガンを取り出す。


転移ファシーベン


 綺麗な夕焼けを背に、俺達は薄黄色の魔法陣に包まれ消えていった。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 ボフンッ、とベッドにダイブする。思ったより疲れた。そういえば、あの鍛錬方法では、避ける能力しか上がらないんだよな。攻撃技術とかも上げないといけないだろうし、今度新しい鍛錬方法とかも考えるべきか。


 ソファに座り、色々考え事をしていると、玄関の方からノック音が聞こえた。


 玄関に向かい、ドアを開ける。目の前には、俺の胸元くらいの身長の侍女がいた。いつも朝食を持ってきてくれる人だ。


「ノア様、マナ様、お客様がおこしになっています」


 客?この世界に来て、まだ数日なのに、もう客?後ろを振り向いて、後ろの真雫と顔を見合わせて、お互いに顔をかしげる。行かなきゃ、分かるはずもないか。


 とりあえず、玄関から出る。したがって真雫もついてきた。客人が誰か、真雫も気になるようだ。


 廊下は、とても静かだった。まだ7時ぐらいなのに……ってそもそもここには五月蝿い人はいないか。


「王宮の応接間でお待ちになっております」
「分かりました、ありがとうございます。道順は分かるので、同行しなくても大丈夫ですよ」
「承知いたしました」


 とりあえず二人きりで行かせてもらう。実際に道順は分かるから大丈夫だろうしね。


「さて、真雫。誰だと思う?」
「多分、魔王」
「なんでだよ」
「うにゃ」


 早速中二病を発動させた真雫にチョップをかますと、猫みたいな悲鳴が帰ってきた。本当にブレないやつだ。


「じゃあ、上級魔族」
「真面目に言えよ……」
「分からない。でも、注意することに変わりはない」
「……だな」


 中二病な真雫の発言に頭を抱えながらも、俺達は応接間に向かった。


✟ ✟ ✟ ✟ ✟


 頭に入れた(主に真雫が)地図のとおりに進むと、3分経たないうちに、応接間についた。少し豪華なドアを3回ノックする。前にネットで見たが、確か面接とかは3回ノックした方がいいらしい。高校面接の時に、俺は2回しかノックしていなかった気がする。


「どうぞ」


 部屋から、透き通った綺麗な女声が聞こえてきた。ガチャり、ドアを開ける。


「はじめまして、ノア様、マナ様。私はプリンゼシン公爵家令嬢、リーベ・プリンゼシンと申します。リーベとお呼びください」


 俺達とさほど変わらない年齢の、フリルの沢山ついた服を着た金髪美少女がいた。いや、それよりも、公爵家か……。面倒事じゃないことを祈ろう。

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