は・み・る・な日常

リーズン

~~白亜の日常=裏側澪サイド5~~

 ホームルームが終わり教師が出て行くと同時に、私と瑠璃は早速居眠りをしている馬鹿の元へと行く。


「起きろ」


 私がそう言うとのそのそと緩慢に顔を上げながら「もう帰る時間?」と、聞いてくる。


 本気で帰る気満々だなこの馬鹿。


「ハーちゃん、まだホームルーム終わったばかりですよ」


 瑠璃の返事を聞いて何故か絶望的な顔をする馬鹿に説教をしながら、この後の授業位起きて置けと言うが逆に「何で?」と、聞いてくる始末。


 こいつ、このままだと本気で寝るな。


「起・き・て・お・け・よ」


「ラジャ」


 私の言葉に目を逸らしながら返事をする白亜だが、その時ふと何かを感じ視線を向けていた。


 何を見てる?そう思い私も同じ方に視線を向けると、丁度白亜から目を逸らす所だった。


 それを見た白亜は地味に凹んでいる。


 こいつは私や瑠璃と共に居る為に周囲から妬まれて居ると思っているが実は違う。


 何せ本人は全くと言って良いほど自身の容姿にも能力にも無頓着だ。その為、他者が自分と話したいが気後れして居ると言う事は全く考えが及ばない。


 ・・・まあ、私も瑠璃もこいつが私達以外と仲良く話している。そんな場面を見たら嫉妬やら焼きもちやらを焼くのは分かっているから言わないが。これもこいつの人見知りや、自信の無さの一端になっているんだろうが、私も人の子と言う所か?


 そんな事を考えて居ると国語教師が教室に入って来たので、私は最後にもう一度「寝るなよ」と、念を押し席へと戻る。


 授業は滞りなく進みチラリと見ると、ちゃんと白亜もギリギリだが起きていた。しかし、私が一人それに満足していると、事もあろうに国語教師は何故か突然、今まで教科書を読ませていた順番のセオリーを無視して「じゃあ、適当に何日だから何番で」と、白亜を指名した。


 あいつ大丈夫か?


 私と瑠璃がハラハラしつつ見ていると、意を決した表情をしながら白亜が朗読を始める。


 何もそこまで覚悟を決める事でも無いだろうに。


「えと~~~~~・・・・・・。」


 あいつの声は良く通る。


 それこそ朗読の恥ずかしさから声こそ小さいが、良く通る声は小さいからこそ良く聞こえ雰囲気を出す。


 読んでる物が物なだけにあいつの声と良く合うな。


 その証拠に白亜の声に聞き惚れる人間が男女共に何人も居るのが良くわかる。


「はい、そこまでで」


 白亜の朗読を教師が止めると途端に聞き惚れていた者達が、周りの人間と「素敵」だとか「鈴の様な声」とか言って称賛しているのが聞こえる。・・・・が、本人はその内容まで聞く余裕が無く、不安げにオロオロしながら耳を塞ぎ机に突っ伏して仕舞う。


 ああ、あれはダメ出しやら酷評だと思っているな。


 人がいくら言っても、自信の無いあいつは人から称賛されているとは考えない。


 あのまま寝るな。しかし、しょうがない今回は見逃すか。


 私は苦労を労い見逃したが、その後授業が終わっても起きる様子は無く、二時間目教師が起こそうとした所「士道さんは疲れてるんです!」とか「無理して学校まで来てるんだから寝かせてあげて下さい」等と援護が入り寝続けた。


 実はこいつ。本当に心臓が少し弱く全力で動けるのは30分ほどだが、日常生活だけならば何の支障もない。マラソンやら激しいスポーツにフルで出られないくらいだ。


 だが心臓が悪い事だけが知れ渡っている為に、見た目だけで本性を知らなければ深窓の令嬢の様な見た目で、触れれば壊れそうなほど華奢でか弱く見える。その上、引きこもりのゲーマーの為、肌も透き通るほど白い事から、大多数の人間からの印象は《病気がちな中、体調不良にも関わらず学校に通っている子》と、言う事になっているのだ。


 だから、普段からゲームのやり過ぎで寝不足の為、フラフラしながら授業中に寝ていてもこうやって庇われている。(因みにこれらは本人は知らない)


 どれだけ甘いのやら。


 その後も寝続けた白亜は三時間目数学教師が来ても寝続けていた。


 白亜自身、自分の成績や点数に興味がないから知らないが、白亜の成績はこの学校のトップ。加えて言うなら全国模試でもトップの成績を叩き出している。だから教師も体の弱い事も知っている為、あまり口出ししない。


 だが、この数学教師は白亜の事を毛嫌いしている珍しい奴だ。


 と、言うよりも自分以外を馬鹿にしているだけだがな。


 そんな数学教師は、生徒を馬鹿にしながら大学クラスの問題を黒板に書き、今も「お前らの様な奴等にはこれは解けないだろう」などと馬鹿にしている。


 本当に何でこんなのが教師を続けていられるんだ?


 そんな数学教師は、今も寝こける白亜に目を付けると起こす為に近付いて行く。


 勿論この教師にもクラスメイトの連中は白亜を寝させる様に訴えだがすげなく却下される。


 これが当たり前何だがな。


「士道!士道!士道白亜!」


「ふぁい!」


 明らかに寝惚けながら返事をする白亜に、顔を歪める数学教師は事もあろうに大学クラスの問題を、前に出て白亜に解かせようとする。


 はあ、馬鹿だな。白亜を見くびりすぎだ。


 案の定白亜は黒板に書いて在る問題を、悩む素振りすら無くスラスラと解いていく。


 あいつはあの天才の姉の後を追おうとしたんだ。この程度の問題を解けない訳が無い。


 白亜が問題を解けるとは思っても見なかった数学教師は口をポカンと開け、周りの生徒は「おお~」と、感嘆したような声を上げる。


 そそくさと戻る白亜の顔が赤いのは、きっとこの程度の問題も解けないと思われた。とか、そんな事だろう。逆だ馬鹿。


 そんな白亜は机に戻るとまた寝息をたて始めるのだった。


 寝すぎだ馬鹿者。



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