ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

確かにとか少し思った自分が憎い!

 はい。本日は楽しみにしていろという言葉通り、結界の中に閉じ込められているハクアさんです。

 結界に閉じ込められる事の何処を楽しめば良いのかと、丸一日ほど掛けて議論したい今日この頃。はい、逃げたいだけです。

 なんとも入念に五重に張られた結界は、テアとおばあちゃんの合作。これを破れる人物はこの世界でも数えるほどだろう堅牢さだ。

 目の前に居るソウは私と同じく結界の中に居るが、先程から準備体操を入念に繰り返し、今は屈伸運動の真っ最中である。とても楽しそう。

 しかもいつもは下ろしている髪を、今日は短いポニテ風にまとめ、誠と書かれた浅葱色の羽織を着ている始末。

 うん。わかっちゃいたんだが実際に見ると結構テンション上がるわー。

 史実とは違う、偶像の末の人物。

 そうはわかっていても言ってしまえば偽物の本物。

 私にとってはこれがソウ。これが沖田総司なのだからやはりテンションは上がる。後でちょっと羽織ってみたい。

 ソウの顔はとても楽しそうで、見る者を魅了する不思議な力があるが、それと同時にその目には幕末の獅子……ではなく、志士のそれを感じる。

 常駐戦陣。

 いつでも何処でも臨戦態勢な人斬りの天才が本気になっている。

 ビリビリと肌に感じる圧力は、今までの強敵に比べれば弱い。

 しかし、その鋭利さはその中のどれとも比べ物にならないほど鋭く、私の喉元に常に刀が突き付けられている感じだ。

 もしこのまま一歩でも必殺の間合いに入れば、その瞬間に切って捨てられる事が容易に想像出来る。

 まあ、関係ないが。

「で、何やんの?」

 テクテクと歩き普通に必殺の間合いに侵入して質問する。

「……ハクちゃんって本当におかしいよね? なんで私の殺気に気が付いてて、間合いに普通に歩いて入ってくるかな?」

「いや、だってまだ始まってないし」

「そうだけどね」

 笑いながら応えるソウは殺気を解いてしょうがないという空気だ。

「何をするかだよね。まあ、簡単に言うと今からハクちゃんの中の鬼を完全に目覚めさせるんだよ」

「ほほう。するとどうなる?」

「ハクちゃんは完全に鬼に呑まれて暴走するね」

「ふむふむ。つまりあれか? 良くある【暴れてる本体は抑えるから、その内に自分の中の力を屈服させるんだ!】展開ですな」

「そうそれ」

「マジかー」

 キツそー。

「でもそういうありきたりな展開は誰も望んでないから、良くないとハクアさん思います!」

「確かにそうだけど、このままじゃハクちゃん危ないし……何よりほら、きっとありきたり云々よりも、ハクちゃんピンチになる事の方がそれっぽいよ」

「ド畜生。確かにとか少し思った自分が憎い!」

 ってか、私が不幸になる事望んでる奴とか誰だよ。神かコノヤロウ!

「貴女達は二人にすると相変わらず締まりませんね」

 結界の外で私達の話を聞きながら皆と見学していたテアが、呆れた雰囲気で言うがしょうがない。これが私達二人の空気感なのだ。

「まっ、あんまりシリアスしててもしょうがないですからね。それに……今くらいは楽しくしてても良いじゃないですか」

 今くらいは……ね。

 それはもう既にこの後は楽しむ余裕なんざねえよ。と、言っているようなもんだと思う───あっ、言ってるんですね。そうですね。わかります。

 私がそう考えた瞬間、こちらを見てニヤリと笑う顔を見て確信する。

「じゃあそろそろ始めよっかハクちゃん」

「はあ、何すりゃ良いの?」

「おっ、今日は聞き分けいいね?」

「だって逃げらんないじゃん」

 少しでも可能性があるなら試すが、どう考えても一部の隙もなく、逃げるのは絶対に不可能だろう。

 そもそも元女神二人に龍王二人、龍王クラスに近いのもぞろぞろ居る中で、結界の中に捕まった状態で逃げ出すのは流石に不可能だ。

 地中なら行けるかと探査したら、この結界はご丁寧に地上にドーム状に張っている訳ではなく、地中を含めた球状の結界なのだ。

 流石私のことをよくわかってらっしゃるんだよ。

 因みに結界の厚さも全て均一、弱い所は存在せず、一部に圧力をかけても全体に拡散する仕組みにもなってる。

 実に興味深い仕様となっているのも特徴だ。

「うん。潔いいのは良い事だね。じゃあここに座ってくれる?」

 ここ、ここ、と地面を指差し示した位置に座る。

 すると今度はソウが私の両肩に手を置き、何やら力を送って来る。

「これは?」

「今、私の力でハクちゃんの中の鬼を目覚めさせてる最中だよ。それで、さっきも言ったけどハクちゃんには、自分の中───精神世界で鬼の力の源と戦って貰う」

「……因みに負けたら?」

「想像通りだよ」

 あっ、やっぱ乗っ取られる感じですね。

「しゃあなし。頑張るね」

「うん。こっちはこっちでやっとくから頑張って」

 軽く挨拶を交わすとソウが私と距離を取り剣を構える。

 先程から自分の中の力が弾ける寸前っぽかったので丁度いい。

 離れた事を確認した私は、湧き上がる衝動を抑える事なく、その衝動に身を任せた。
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 先程まで普通に話し、笑っていたハクアからダラリと力が抜ける。

 そして、その瞬間を待っていたかのように、紅い力の奔流が嵐と雷となり放たれる。

「ガアアアアアァァァアアア!!」

「うわっ、凄い力っすね」

「ムーでもゾワゾワするの。これ、あの時の鬼以上なの」

「うむ。これがハクアの力なのか」

「ええそうです。とはいえ、これもまた白亜さんの力の一端ですが」

「ふふ、本当に面白くて末恐ろしい子ね」

 五重の結界があるにもかかわらず感じる力の圧力に、テアと水龍王以外の全員が驚きを露わにする。

「うん。無事に目覚めたみたいだね」

 そんな中、一人紅の本流をその身に一身に受けながら、涼しい顔で受け流したソウが、その口を歪め凶暴に嗤う。

 見つめる先に居るのは、紅の力を纏った白髪の美鬼。

 禍々しい破壊の力を振り撒き、全てを破壊しようとする本能の鬼だ。

「ガァッ!」

「消え───」

「あそこ!」

 一瞬、力の奔流が止んだと思った刹那。

 美鬼の姿が掻き消えたと同時、金属と金属がぶつかり合う音で、ようやく美鬼の姿を視認するミコト達。

 ぶつかり合うは刀と長く伸びた紅い力を纏う爪。

 恐くその姿を追えたのは女神と龍王を除けば、その実力に近いトリスのみだろう凄まじいスピード。

 しかも美鬼は初撃を受け止められると同時に、素早く嵐のような連続攻撃へと切り替える。

 縦、横、斜め、前、後ろ、下、上、左、右、あらゆる角度、あらゆる方向から放たれる攻撃に、紅い残光が線としてその軌跡を描く。

 しかし───

「……つまらない」

「オッガァ!」

 その死の暴風に晒されているソウは一言呟き、美鬼の動きに合わせ強烈なカウンターを叩き込む。

「ふう。正直、その身体はハクちゃんのモノだからもう少しやると思っていたけど、とんだ勘違いだったようだね」

「ガアッ!」

 ソウの言葉に怒りを滾らせた美鬼が、先程よりも更に速い動きで攻撃を繰り出す。

 だが───その全てが幕末の天才剣士には届かない。

 女神としての力を失った今のソウより確かに速い。力も強く総じてステータスはソウよりも高い。

 だとしても、ただ本能のまま力任せに突進を繰り返す獣など、この剣士には指一本とて届かない。

「雑」

「ギャッ!?」

 不要に飛び込む美鬼の腕を、すれ違いざまに斬り落とす。

 その動きに一切の躊躇なく、その目に一切の感情は映さない。

「ガアアアァア!」

 雄叫びを上げる美鬼に応えるように、斬り落とされた腕が再生する。

 それを見ても美鬼の前に居る剣士の感情は何も動かない。

「私はお前より余程厄介な、力と冷静さと残酷さを併せ持った鬼と肩を並べて来たんだ。ただのケモノ風情が力だけで触れらると思うなよ」

 鬼と剣士。

 二人の怪物の戦いは第二ラウンドに突入した。

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