ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

ハクアさんもビックリである

「はぁ〜。修行が少しは楽になるかもとか考えていた時期が私にもありました」

「一人で何言ってるのハクア?」

 私の真下で集中していたミコトが、真上の私に向けて呆れた視線を寄越す。

 うん。どういう状況かって? それはまあ字面の通り?

 現在私は出会い頭に拘束、ロープでぐるぐる巻きにされ、逆さ吊りのミノムシ状態で、皆の修行を眺めていたりする。

「……何故こんなことに」

「心当たりは?」

「ミコトは雨に濡れてびしょ濡れになった服を見て、どこから濡れたのか分かる人?」

「……心当たりがあり過ぎて分からないと」

「そうとも言うかもしれない」

 しかしここまでされる程のことをしただろうか?

 修行中に壊した物をちょこちょこアカルフェルのせいにしたり、料理人組に食料調達を命じて、その獲物を少しちょろまかしたりとか、あれやこれやらどれだろう?

 もしかして人を多くして、おばあちゃんの修行をサボるプランがバレたのだろうか?

 それなら同意したシーナとムニも同罪だから、公明正大と評判のハクアさんはちゃんと二人も売り渡さねば。
 もしそうなら二人も私の横に早く吊るして貰わないといけないから、確定は早くして欲しいものである。

「……ねぇ、ハクアはああなるって知ってたの?」

 そんな風に考えているとミコトが私に聞いてきた。

 先程までの明るい空気はなく、どこか落ち込むような悩むよう雰囲気。

 ミコトの言葉に主語はないがハッキリと同じことを考えている。

 あれは茶番劇を終えた次の日のこと、私の前にソレはあった。

 ソレはかつて生き物であったモノ。

 三つのソレが私に届けられたのは、巡ってくるはずのなかった機会が得られた事への礼か、はたまた別の思惑か。

 しかしソレは私に素材として使ってくれ。そんな文章と共に贈られた物だった。

 一目で分かるほどの無惨な姿に、一目で誰だか分からないほど凄惨な光景が脳裏に蘇る。

 ミコトがみなまで言わずともそれが分かるほどには衝撃的な出来事だった。

 前日に皆が泊まったことが仇になるとは思わなかったからなぁ。

 ミコトの真剣な目。

 だから私も真面目に答える。

「半分は予想通りかなっと」

 関節を外して縄から脱出すると、ミコトの隣に腰を下ろす。

 その瞬間、皆の意識だけがこっちを向いた。

 心配はしているがどう声をかけて良いのかわからなかったのだろう。

 しかし自然と話す環境を作るのに、私をいちいち吊るす必要はないと思うんだよ? ハクアさんは吊るされないと、二人で話すのが不自然な子じゃないんだよ?

「半分って?」

「正直な話、報復はあると思ってた」

 その理由はアイツらの態度だ。

 あれだけの事をして、全員が見ていたと知っても態度が変わらなかった。

 その自信がどこから来るのかと考えた時、それが今までの実績から来るものであろうと思ったからだ。
 そう考えれば手口が手馴れていたのも頷ける。それが一度や二度ではなかったのだろう。

 そしてそれはあの惨状を見て確信に変わった。

 傷口からみて十数人は確実に参加していた。さらにあの容赦のなさは、恐らく私が思っていた以上に、アイツらは色々とやっていたのだろう。

 それこそ……命を奪う行為まで。

 私の予想を上回っていたのは恨みの深さ、行動に移すまでの早さの二つだ。

 そしてそれを届けたのは恐らくは感謝、ということなのだろう。

 龍神の言った素材にしても良い。

 その言葉が頭に残っていたのかもしれない。

 損壊が酷かったが私はそれを【解体】のスキルを使って素材にした。一部は遺族に綺麗にして返そうと思ったのだが、それは止めた方が良いと言われ断念した。

 龍神に認められていない者を返すというのは、龍神の意見に逆らうになるからだそうだ。

 実際にはそんなことはないのだが、里の者はそう思っている方が圧倒的に多いそうだ。

「だから半分。流石に私もあそこまでは予想してなかったよ」

「そっか」

「ショックだった?」

「……そう、なのかな。うん、そうかも、里の仲間だと思っていた人達が、あんなことを出来るだなんて考えたこともなかった」

 ああ……本当に純粋なんだな。

 汚いモノを見せないよう、余計な知識を与えないよう、徹底的に管理されていた。そんな思惑めいた影が時々ミコトにはチラつくことがある。

 そしてそれはきっと私が考える通りなのだろう。

 だとしたら───

 元老院辺りか。

「ハクアがよく爬虫類とか言う理由がなんとなくわかった気がするよ。わたしも龍族であることを誇りに思ってるけど、結局、龍族であれ人であれ何も変わらないんだね」

「そうだね。憎いものは憎い、怨みもすれば怒りもする。誰だって何も変わらないよ」

「そうだね。フフッ、やっぱりハクアもヤーカムルと同じこと言うんだね」

「へぇ、あいつも同じことを……」

 ヤーカムル。ちゃんと話しをしたのは屋台をやってる時に、元老院の奴らに因縁を付けられた後の会った時だけ。

 その後、ミコトを迎えに来た時に顔を合わすことはあっても、軽い挨拶くらいで話すことはあまりない。

 だが、それでも。

 あいつはなんか違うんだよなぁ。

 ヤーカムルは他の奴のように、私に嫌悪感を最初から抱いていなかった。むしろそれはミコトやシーナ達に近しい感じだった。

 だからといって皆のように好意的という訳ではない。それはむしろおばあちゃんや龍神のような試すようなものに近い、だが、近いが同じではない。

 試すような視線は感じる。

 だが、それと同時に他の誰にもない感情。

 焦がれるよう、羨むような、そして何よりも妬みや嫉妬のようなものも感じるのだ。

 正直奴とはそんなに話たことがない。しかしそんな感情は向けられる、それがどうにもチグハグな印象を抱かせる。

 何よりも───アカルフェルとアイツだけが、妙にこの里の中で人間臭い。

 共通点はないにも拘わらず、それがどうにも気になる。

 そしてこれは完全な私見だが、アカルフェルとは違った意味で、絶対友達とかいなそうなタイプの奴だ。

 あんなでもアイツはアイツで求心力はある。

 しかしヤーカムルは完璧主義っぽくて、基本主であるミコト以外どうでも良さそうな空気がまたなんとも……。

「どうしたの?」

「うんにゃ。ココ最近は色々あったなぁとね」

「ああ、そうだね」

 思わず誤魔化す為に言った言葉。

 しかしそれは紛れもない事実でもあった。

 次の日に起こった事件、そして料理人にする予定だった三人以外に、龍神や龍王の方から数人、合計で十五人の大所帯の人数が派遣されてきたのだ。

 これにはハクアさんもビックリである。

 まあ、その辺はテアにぶん投げたから良いんだけど。

 私に教わると思い込んでいた全員が、蓋を開ければ龍神よりも格上の元女神に料理を教わると知り、ド緊張しているのは中々に見ものな光景だった。クソワロス。

 そしてもう一つ起こった大事件、それは更に次の日に起こった。

「貴様は己の眷属だろう。何をアホ面下げてあんな龍神の力なんぞ簡単に注ぎ込まれてる!」

 開口一番、鬼神のお叱りを受けた私は、そんな言葉と共に頭を鷲掴みにされたのだった。

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