ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

おいおい、可愛いな

「話はまとまったか?」

「ああ、こっちの三人は受け入れて、残りは拒否した。つー訳でこいつらは力を封じて制限掛けてくれ、受け入れた三人はそこまで強要しないけど、後で緩く制限かけて欲しい」

「良いだろう」

「なっ!? ふざける! 何故俺がそんな扱いを───」

 本当にバカだなこいつ。

「貴方達は今罪人として裁かれているのよ。それがまだ分からないのかしら? 本当なら死罪になるところを、ハクアちゃんの好意で生かしてもらっていると、いい加減理解しなさい」

 それも理解出来ないのかしら?

 そう匂わせる空気もどうやら通じてないようだ。

 とはいえ、上手くいって良かった。

 もし私が最初からこの要求をしていたら通らない可能性があった。

 だがやられた本人である私が譲歩して、あいつらがそれを理解せず、提案を蹴ったからこその結果だろう。

 私としても受けるなら人手が増えるし、蹴るなら要求をある程度通せると思ったが、そのまま通るとは思わなかった。

「もうよい。ね」

 未だに騒ぎ続けていた道化達に、おばあちゃんや私はおろか、会場中が冷めた視線を向けていたが、いい加減面倒になったのか、龍神が一言呟きデコピンのように指を弾く。

 すると道化達は、まるで弾かれたピンボールのように物凄い勢いで吹き飛ばされた。

 ほう……凄いな。

 今の何が凄かったのか。それは攻撃を受けるその瞬間まで、全くその気配がなかったことだ。
 隠蔽とかそんなレベルではなく、その瞬間まで本当に存在しなかった、不可避の一撃と言っても過言ではない一撃だった。

 通常、遠距離攻撃には二つの種類がある。

 一つは自分から発射、放出して現象を起こすもの。

 そして二つ目は今のように、相手や場所に直接作用するものだ。

 しかし直接作用と言っても、何もないところからいきなり攻撃出来る訳ではない。
 目に見えないパスをその場と自分に結び付け、そのパスを通じて現象を起こすのだ。

 ちなみにこの法則には魔眼などいくつか当てはまらない物もある。

 そして今回、龍神がやったのはその魔眼に近いものだった。

 私に見えるレベルじゃない隠蔽だったのか、それとも別のベクトルの力か技術なのか。

 どちらにせよ───おもしろい。

 知ってる限りの知識と経験を動員して、今目の前で起きた現象の解析に没頭する。

「ッ!?」

 だが、私はゾクリとする視線を感じ、その視線の主、龍神を睨み付ける。

 くそ、試された。

 目の前で起きた現象。その文字通りの神業を見せ付ける事で、私がどれほど、どこまで気が付くのか。
 そうやって興味を引き出された。

「チッ」

 望み通りの反応を引き出し、満足そうに見下ろす龍神に舌打ちしたらもっと満足そうにしやがった。

 少し前までくだらん戯言聞いてつまらなそうにしてたくせに、私をからかって何が面白いんだこんちくしょう。

「それで二つ目の願いはなんだ」

 いやいや、龍神って名乗っててその聞き方は、なんか似た感じの神の龍思い出すんですが?

「二つ目はどっちかと言えばおばあちゃんへのお願いかな」

「あらあら私へのお願いなんて何かしら」

 龍神同様、何故かおばあちゃんもめちゃくちゃ楽しそうに聞いてくる。

 一体何がこの人達のセンサーに引っかかっているのだろう?

「えっとね。アトゥイをおばあちゃんの直弟子にして欲しい」

「んな!?」

 私の言葉に会場中が驚きのあまり絶句した。

 シーンと音のない音がしそうな中、アトゥイだけが何故か私の袖を掴み、涙目で見上げながら首を振ってる。

 おいおい、可愛いな。

 さっきからアトゥイの表情が、七変化どころじゃなくコロコロ変わって大変よろしい。

 しかしまあ、会場の空気もアトゥイが涙目になるのも当然だろう。

 私が要求したアトゥイを直弟子にと言うのはそれほど大きな意味がある。

 現状、次期水龍王はほぼ一択と言っていい。
 そこに水竜であるアトゥイが、おばあちゃんの直弟子になると言うことは、アトゥイが次期龍王候補として認められたという事に他ならない。

 しかも、おばあちゃんがアカルフェルを認めていないのは周知の事実。

 この提案はそれくらいこの里を揺るがす提案なのだ。

 ドガァッ!

 何かを叩き壊す音。

 そこに目を向ければ、憤怒に満ちた表情でむせ返る程の殺気を私に浴びせるアカルフェル。
 先程の事もあり二度目の乱入こそないようだが、どうやら本気でブチ切れているようだ。

 そんなアカルフェルにニコリと返し、私は再びおばあちゃんと龍神へ視線を戻す。

「ハクアちゃんはそれがどういった意味になるのか、それがわかっていてそんな事を言ってるのかしら?」

「うん。まあね。でも、おばあちゃんも観たはずだよ。アトゥイの才能の片鱗を、独学であそこまでいける才能を放っておくつもり?」

 火龍、風龍、地龍と違って、水龍には明確な強みが分かりにくい。だが分かりにくくても水龍にも優れた部分はある。

 それが力のコントロールと感知だ。

 元来、凄まじい力を有するドラゴンは、その有り余る力を雑に使っても強い。その中で水龍はそのコントロールと感知力が優れているのだ。

 しかもこれは他と違い先天的な才能による部分が大きい。ある程度は訓練でなんとかなるが、アトゥイのレベルとなるとこれはもう才能と言うよりないのだ。

「確かにそうね。でも、それなら他にも方法はあるのではないかしら?」

「そうかもね。でも、おばあちゃん自体、この才能を育ててみたいとは思わない?」

 その言葉を聞いておばあちゃんは今までにない凶暴な笑みを浮かべる。

 そりゃそうだ。

 慣習や血筋など関係ない。実力主義のおばあちゃんだからこそ私も提案しているのだ。

 総合的な能力はアカルフェルと天と地ほどの差が今はあるだろう。だが、水龍に最も必要な感覚的な才能はアトゥイの方が勝っている。

 それをおばあちゃんもわかっているのだ。

「あっ、後ついでにこの四人とレリウスも鍛えてやって」

 うん。これはほんとについでである。皆驚いているが頼むだけならタダなので便乗してみる。

「あらあらうふふ。困ったわね。流石にこれは私の一存ではどうにもならないもんだいだもの」

「じゃあ誰なら許可を出せるの?」

「それはもちろんねぇ?」

 笑みを深くしたおばあちゃんがわざとらしく言葉を口にする。それに習うように私もまた、予め決められていたように言葉を交わし、揃って龍神の方へ視線を投げる。

 そう、この提案はこの場でのみ出来る提案。

 おばあちゃんが気まぐれで教えるのではなく、里の全員が集まった状態で、龍神の許可を得てアトゥイを弟子にする。

 そうする事で里の全員がアトゥイの事を、次期龍王候補として認める土壌が出来るのだ。

 そしてそれは龍神もわかっているのだろう。

「良いだろう。水龍王が認めるのならば龍神の名において認める」

 私がこの里にもたらす混乱と変革、その全てを理解して私達と同じように笑う。

「畏まりました。それでは全員に問います。貴方達、私の訓練を受ける覚悟はあるかしら? 特にアトゥイ、貴女はこの決断の意味をよく考えて答えなさい」

 おばあちゃんの言葉に、アトゥイを除く全員が決意を込めた目で頷く。

 だが、アトゥイだけは下を向いたままだ。

「……ハクアは本当に出来ると思うか?」

 何が。とは言わない。いや、言えない。

 アトゥイ達にとってこれはそれほど大きな事を意味する。

 だから───

「そうじゃなきゃこんな事は言わないよ。まあ、正直事後承諾になったのは悪いと思うけどね。アトゥイの考え方も、努力も、才能も、その全部を考えて推薦した」

「……そうか。ふぅ……なら後は頑張るだけか」

「そうだね。どこまで行けるかも、どこまでやれるかも血筋とか立場とかも関係なく、アトゥイの努力次第だよ」

「そうだな。水龍王様! 非才なこの身ではありますが、その期待に応えられるよう努力致します。なので、どうか私を貴女様の弟子として強く鍛えて下さい」

 弟子として、そう自分で宣言する事で、新たにその重しを自ら背負う。

「良いでしょう。ならば私、水龍王アクアスウィードの名にをおいてアトゥイを直弟子として認め、他の者達も同様に鍛え上げましょう」

「「「オオオォォオ!」」」

 会場中が今までとは別種の熱狂が渦巻く。

 その宣言は新たな龍王候補の生まれた瞬間だった。

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