ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

おやすみなさい。偉大な森の王様

「ハクア。大丈夫か?」

「……大丈夫そうに見える?」

「……いや」

 顔逸らすぐらいなら聞くなや。こっちは息も絶え絶えで虫の息だわ!

 長いようにも短いようにも感じたマナビーストの戦闘がようやく終わった。
 全てを出し切り、先の力を前借りまでようやくこの状態だ。

 勝った───と、言えるほど厚顔ではない。

 脅威に感じたマナビーストも、実際は私達の前に現れた段階でかなり消耗していた。それを全員で戦い、最後の最後に私が少し頑張っただけ。

 それで胸を張って私が勝ったとは言えないだろう。

「おい、嘘だろ……」

 後ろから聞こえるその声に反応して前を見ると、私の攻撃で倒れたマナビーストのツルが、触手のようにウネウネと動き出している。

 その光景に全員が絶望を感じているが、もう既に敵意がない事も、ましてやここまで互いに出し尽くし、今更足掻くほど無様を晒すような奴でない事は分かる。

「大丈夫だよ」

 全員を安心させるように言葉を口にすると、動くのも億劫な身体をユエとアトゥイの二人の肩を借り、助けて貰いながらマナビーストの近くまで行く。

「「「なっ!?」」」

 するとマナビーストは何を思ったか、そのツルを自分の身体に突き立て、ただでさえボロボロの身体を自ら崩し始めた。

「あれは……」

 そして身体の中央の胸部を完全に崩したマナビーストは、ドクドクと心臓のように淡い緑色に発光して脈打つ、サッカーボール大の何かを抉りだし、ゆっくりと私に差し出してきた。

「……これを私に?」

 私の言葉に弱々しくもしっかりとした頷きで返す。

 その姿はどこか満足そうにも見えるのは、私の自己満足だろうか。

「まさか、ビーストコアを自分から差し出すとは……」

「ビーストコアってコレの事? アトゥイ知ってんの?」

 アトゥイの信じられないものを見た。と言うような呟きに反応した私は、ビーストコアと呼ばれた物を見せる。

「ビーストコアはマナビーストの力の核……心臓のようなものだ。蓄積されたマナと元となった動物の生命力が物質化したものなんだが、こんな大きさのものは私も初めて見た」

 力の核……いや、そんなことよりも。

「いいの?」

 そんな私の言葉にマナビーストは動かなくなった身体の代わりに、優しげに目を細める。

「わかった。ありがとう……そして、貴方は強かったよ。もうゆっくり休んでおくれ」

 紛れもない本心からの言葉。

 長く、永く、とても膨大な時を誰かを、仲間を、家族を護るために費やしてきた偉大な王への言葉。

 その言葉を聞いたマナビーストは、一瞬目を見開き驚いた表情み見せると、またすぐさま優しげな目に戻りゆっくりと瞳を閉じた。

 パキリ。

 マナビーストが瞳を閉じた瞬間、パキリパキリと音を立て、全ての力と色を失ったかのようにマナビーストの身体が白く、栄養を失って久しい枯れ木のような姿へと変質していく。
 そして……全身が白い枯れ木へと変わったマナビーストの身体は、その形を維持するのが限界だったのかバサリと粉状になり崩れたのだった。

「おやすみなさい。偉大な森の王様」

 短く黙祷したするとユエ達の方へと振り返る。

 そして───

「ゴメン。もう無理……」

「あるじ!?」

「ハクア!?」

 最後の強がりでニコリと笑った後、その表情を崩すこと無く私は倒れたのだった。
 ◆◆◆◆◆◆◆
「あー……知ってる天井」

 果たしてこの台詞は何度目で、後何度言わなければいけないのだろうか?

「おはようございます。白亜さん」

 そんな事を考えていると、私が目覚めた事に気が付いたテアが、声を掛けながら起こしてくれる。

 だいぶダルい。身体中がバキバキで、至る所がズキズキと痛む。

「どれくらい寝てた?」

「まだ半日です」

 どうやら全ての戦いが終わったのが日付けが変わる頃だったらしく、今は試練があった次の日の昼だそうだ。

 ユエやアトゥイ、その他の試練に参加した者は皆無事で死傷者はなし、もちろん逃げ出した奴らも無事、なんだったら私が一番の重傷者らしい。

 逃げ出した奴らに関しては、巻き込まれて死んでても良かったくらいなのでどうでもいい。生きてるなら生きてるで、報復タイムがあるだけなのだから。

 まあ、私がいちいちなにかするまでもないだろうけど。出来れば私に益があれば尚よろしい。

 そしてアトゥイ達に怪我がないのも朗報だ。

 帰り道は私という、文字通りのお荷物があったから心配していたが、テア曰く、率先して場を乱していた奴らが居なくなった分、戦闘はむしろ安定していたらしい。

 いや、うん。本当に役に立たないなあいつら。

「と、まあ、こんな感じです」

「そっか。なら良かった」

「それにしても倶利伽羅天童ですか。なかなか良かったですよ」

「そりゃどうも」

 あれは今の私の集大成と言っても良いが、あくまで今の私のだ。出来ればあの力を全力ブッパだけでなく扱えるようになりたい。というかしたい。
 威力があるのは認めるが、使い勝手も悪いし、何より一発撃ったらその後の戦闘に支障が出るなんて、自分の首を絞める行為にも程がある。
 ここからはあれを更に発展させるのが、当面の目標になるだろう。

「白亜さん自身わかっているようなので何も言いませんよ。でも、あの状況で良く生き延びて、最後まで戦いましたね」

 そう言って目を細めて頭を撫でる。

 止めて欲しい。私はそんなので喜ぶ歳ではないのだ。

「……そういうことにして上げましょうか?」

 心を読んだ上でそんな事言うの止めて貰えませんかねぇ!

「あらあら仲良しね」

「ってやっぱりこのタイミングって……えぇ……」

 やはりと言うべきか、前回同様このタイミングで現れたおばあちゃん。しかしその手にはお盆を持っており、そのお盆の上には、七色に発光するナニカが入った湯呑みのようなコップが乗っている。

 ヤバい逃げなければ!?

「白亜さん。急に動くのは身体に負担が掛かりますよ」

 瞬間的に逃走を選んだ私。

 しかしそんな私の腕を掴んだテアは、何処にどう力を入れているのか、たったそれだけの行動で全身の動きを制圧する。

 しまった罠か!?

 遅まきながらその事実に気が付いたがもう遅い。

 七色に発光するナニカを持ったおばあちゃんはすぐ目の前だ。

「さあハクアちゃん。おばあちゃんが作った特製の霊薬よ。味わって飲んじゃダメよ?」

「それもう口にして良いモノを差し出す時の台詞としてどうなの!?」

「大丈夫よ」

「何が!?」

「ちゃんとした物しか入れてないもの」

「むしろそれでどうして七色に発光する液体が出来上がるの!?」

 そもそもなんで発光出来るの!? アニメとか漫画の表現じゃないんだから、発光なんて普通の食べ物、飲み物には到底無理な芸当なんだよ!?

「はい。それじゃあ飲みましょうね」

「せめて言い訳ぐらいし───みぎゃー!」

 なんだこれ? なんだこれ!?

 口に入れた瞬間、甘味、酸味、苦味、塩味がそれぞれに広がってうま味が全くない。その癖、何故か一つ一つの味覚は嫌にハッキリ主張して来る!
 そしてそれら全部が合わさるとなんとも言えない、常軌を逸した味のようなものが、これまた何故か口の中じゃなくて全身に広がる。

 なにこれ怖い!? 全身に味が広がるってどういう状況なのこ───。

 瞬間、プツリと視界が途切れ、味覚が死に、意識も失った。
 ◆◆◆◆◆◆◆◆
 ……知ってる天井パート2。

 なにこれ怖い。身体は非常にダルいし、頭もボーっとするけど、痛みがだいぶマシになってる。
 それなのに全く動ける気がしないのが超怖い。

「起きましたね白亜さん」

 ヤバいバレた。おかしい……目を開けたのは一瞬の筈なのに。

 そのまま抵抗する事も出来ず座らされる私。

 そしてそんな私の鼻を刺激するなんらかの臭い。

 もう嫌な予感しかしないの……。

「さあ、お代わりの時間よ」

「待ってスパンが早い」

 辺りが暗い事から恐らく半日は更に気絶していたのだろう。

 そんな中、暗がりから現れたおばあちゃんの手には再びお盆が。
 しかし今度は発光こそしていないが、凄い臭いがする。

 しかも蓋をしてあるのにだ!

 そうして注視していたからであろう。おばあちゃんはニコリと笑うと蓋を開け、自分の身体から離すようにサッと差し出してきた。

 というかテアもいつの間にか離れてる。

 しかしだからといって逃げられる訳ではない。

 私の身体にはいつの間にか魔力の糸が結ばれ身体の自由が利かないのだ。
 そして操られた私はコップを手に取る。

「待っておかしい。なんで鳴き声があるの?」

 そこには、怨嗟の声を上げるようにオオォォオと、音を出すナニカが入っている。
 コールタールのような真っ黒な液体、熱している訳でもないのにゴポゴポと沸騰するように泡が弾けて消える。
 そしてその度に煙を上げキノコ雲を生み出し、ドクロの形を取って消えていく。

「これ絶対飲んじゃダメな毒とかだ───みぎゃー¥'#♪/○△」

 口に入れヘドロのような口当たりを感じた瞬間、一気に意識が吹き飛ん───……。

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