ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

そこは流すのが優しさっすよ!?

「ふむ。ハクアはユエにゴーレムを任せて、自分は木人形を相手するようじゃな」

「みたいっすね。まあ、ハクアの攻撃力でやるよりは貫通効果があるユエの方が早そうっすね」

「ええ、水龍王がユエをねじ込んだ意味をちゃんと理解していますね」

「ああ、だから水龍王様はユエを無理矢理ねじ込むなんて事をしたんすね」

「納得なの」

 ハクア達がボス部屋に侵入した事で、全ての映像でボス戦の映し出されている。
 ハクアとユエそれぞれの映像に、お互いを俯瞰で映す映像と至れり尽くせりの状態だ。

「ユエの方は優勢のようだが、ハクアはいつまで逃げるつもりなんだ?」

 そんな中、ハクアの映像を観ていたトリスが呟く。

 確かにトリスの言う通り、木人形を引き付け逃げ回るばかりで、一向にハクアが戦う気配はない。

「まあでも仕方ないのじゃ。あの木人形は見た目に反して攻撃力がバカみたいに高い。ハクアでは下手をすれば一撃で沈みかねない」

「ムーでも痛かったからハクアにはキツいと思うの」

「あー、確かにそうっすね。しかもあれどんどん湧いてくるし、倒してもキリがないっすからね」

 ミコト達の評価は確かに正しい。

 木人形はその動きこそ遅いものの、その数は当初よりも更に増え、八体から十五体にまでその数を増やしている。
 しかもミコト達の言う通り、その攻撃力は素人が作った土産物屋の作品のような見た目に反して、地面を砕くほどの威力を誇る。

 ハクアと言えど、偶然当たる可能性は否定出来ない。

 それがハクアが攻撃に移らない理由の一つでも確かにあったのは確かだ。

『さてさて、それじゃあ私もそろそろやりますか』

 しかしそれは確かに理由の一つではあった。

 とはいえだ。ハクアの本当の目的は一度に出る木人形の最大数を調べる事、動きの規則性の調査、そして何より一人で戦うユエの様子を観察していたのが大きい。

 そしてその全てを十分に観察し終えたハクアの反撃が始まる。
 木人形を引き付けたハクアは、ゴーレムから十分に距離を取ると戦闘態勢に入り、おもむろに両手を広げる。

 両手を広げたハクアの指からは糸が放出され、背後に寄り集まり次第に大きな塊へと変貌していく。
 そしてそれは何時しか人型を形作り、その人型の糸を影が呑み込み包み込んだ。

糸繰いとくり竜面鬼神影法師りゅうめんきしんかげほうし

『オオオオォォォオォオ!!』

 ハクアの言葉に呼応するように現れた竜面の鬼武者が産声を上げた。

「な、なんっすかあれ!?」

 ハクアの背後に現れた上半身だけの黒の鬼武者。

 その姿をみたシーナの驚愕の声が響く。

 しかしそれもしょうがないだろう。
 何故ならハクアの出した鬼武者にシーナを含めた数人には見覚えがあったからだ。

 面が違う。

 細部の意匠も違う。

 だがその鬼武者が醸し出す雰囲気、映像越しでも判る肌を刺すような感覚は、かつてハクアが死闘を演じた血戦鬼の圧力と同じか、それ以上の圧力を持ってハクアの背後に生まれたのだ。

「あれは白亜さんの新技ですよ。糸と影魔法を組み合わせ、そこに白亜さんの力を乗せた影法師の人形です」

『……行け』

 テアの説明に合わせるようにハクアの命令が鬼武者に飛ぶ。それに呼応するように細い一本の糸でハクアと繋がった鬼武者は、命令に従い目の前に迫る獲物を狩り始める。

 ゾンッ! と、振るう刀で空間を削り取るような斬撃が木人形へと放たれ、まるで木の葉を散らすかのように吹き飛んでいく。

 その一撃はまさしく血戦鬼のそれ。

 シーナ達の記憶にこびり付く、圧倒的な死の予感を感じさせるあの斬撃。それをハクアは自らの力で再現してみせているのだ。

 しかしシーナ達の驚きの一方、龍王達の表情は硬い。

 それが何故かと言えば───

「面白い技ではあるが使い物にはならんな」

「ええ、全くとは言わないけれど少なくともハクアちゃんと同格以上の相手に使うには辛い、使い所の難しい技ではあるわね」

「ん? なんでなの?」

「反応が遅いからだ」

 龍王達の言葉に反応したムーの疑問それにトリスが簡潔に答えてみせる。

「反応が? 確かにハクアよりも少し遅いみたいっすけど、それでも十分強いと思うっすよ」

「いや、今のハクちゃんのレベルであの反応じゃ同格には通用しなくなってくるかな。それにあの技の性質上、ハクちゃんの反応もほんの少しだけ遅くなる。それは決定的な致命だね」

「ええ、それに白亜さんだからこそ成立していますが、あれは二つの異なる戦闘をこなし、なおかつ莫大な集中力で力を扱うので、普通ならその力で自分を強化した方が早いし楽ですね」

「そもそもがハクちゃん以外には出来ない、奇跡的なバランスで成り立ってるからね。あれ、例え龍種でも無理だと思うよ」

「「「えー……」」」

 てっきりハクアのフォローが入ると思っていた元女神達から、いっそ龍王よりも辛辣な評価が下され思わずハクアに同情の声が上がる。

「でも、ハクアちゃんならその辺は織り込み済みよね?」

「ええ、もちろんです」

「えっ、でもさっき……」

「うん、だから普通なら……だよ。あそこに居るのは普通にしてても普通から外れてくハクちゃんだから」

「「「あぁ……」」」

 納得。もう納得である。

 それだけでもう何も言えないほどに納得してしまう。
 更に言えば普通にしてても普通から外れてく。という表現がまた、なんとも言えないほどしっくり来てしまうからしょうがない。

『クシュッ! ハッ!? なにか言われてる気がする!?』

「だからなんでわかるんっすか!?」

 思わずツッコミを入れてしまうほど絶妙なタイミング。

 龍神にしてもハクアにしても、こちらの声が聞こえているのでは? と、疑いたくなるほどのタイミングの良さだ。

 しかし本人達に届くはずのないツッコミに、少し顔を赤くしたシーナがコホンと咳払いをして話を戻す。

「で、どういう事っすか?」

「……誤魔化したの」

「そこは流すのが優しさっすよ!?」

「話を戻しますと、単純にデメリットだけではなく、限定的とはいえメリットがあるからですよ」

「メリット? 話を聞く限りじゃとそんなものがあるようには思えんが……」

 ミコトの言葉にそうですね。と応えつつ、テアは映像に目を向けながら影法師に就いて説明を始める。

 まずデメリットだが、これは先程から話している通りである。
 一見、自律行動しているように見える影法師だが、その実ただの力の塊に過ぎない影法師は、ハクアの思考制御によって動いている。
 故に相手の行動に合わせて行動を設定、それを影法師に伝えて動かすというプロセスが必要になる。その為、どうしてもそこには一秒未満とはいえタイムラグが発生してしまうのだ。
 無論完全に同期させる事も出来るのだが、それでもやはり糸を通して行動を伝える為、少なからずタイムラグは必ず発生する。

 そして二つ目はテアや聡子が言った通り、大量の力を使って維持、行動させる影法師は非効率だと言うことだ。
 簡単に操っているように見えても、放出した力を人の形に維持し、人の動作を取らせるというのは、無駄な上その難易度は驚くほど高い。
 もしもハクア以外が同じ事をすれば、無駄に力を使うだけならまだ良い方で、下手をすれば一気に力を使い切りショック死、力が暴走して大爆発が起きてもおかしくないのだ。

「想像以上の無駄っぷりなの!?」

「そうですね」

 そしてメリットだが、これもハクアならではのメリットでしかない。
 知っての通り、ハクアの力は未だハクアが十全に扱えるほど生中なものではない。龍の里での厳しい修行を以てしても、その力に耐えられる器にはまだ至っていないのだ。

 しかし影法師はハクアの糸で人型を作り、その中に竜と鬼の力を注入したモノだ。
 つまり、ハクアが力を暴走させずに留める事が出来れば、その力を十全に発揮出来る仮初の肉体になるのだ。

 更にハクアの防御力は全員が知っての通りお察しのレベル。だからこそハクアは被弾を抑えるのが重要なのだ。
 格下相手ならほぼ全てを読み切る脅威の読みも、偶然や乱戦の前には絶対ではない。

 だが、影法師を使えばそれが解消される。

 生き物のように見えても実際は力の塊、攻撃を受けても死ぬことは無く、疲れも知らない影法師は、ハクアの集中と力が持てば永久に戦える存在だ。

 更に影法師はハクアよりも大きく出力も高い。更に力を込めればより巨大な肉体を形成出来る。

 それは対大物との戦いにも役立つ。

 例えば見上げるほど巨大な生物に挑むとする。そうなった時、人の肉体では有効な部位に攻撃するには、飛び上がるなどそれに見合った動きが必要となる。
 しかし影法師を使えばそんな大物と、正面から戦うという選択肢も生まれるのだ。

 一つの強い手札がいつも通り毎回使えるとは限らない。こと戦闘に於いて自身の手札の数が増えるというのは、それだけ強さの総合値が上がると言ってもいい。

「と、いう訳で白亜さんにとってあの影法師は、雑魚敵掃討と対大物との戦闘にはもってこいなんですよ」

「ほえー。ハクアは色々と考えてるの」

「そっすね。私らなんてデカい奴とやり合うなら、竜化して元の姿に戻れば良いだけっすからね」

「ふむ。勉強になるのじゃ」

 理由が分かればなるほど確かに合理的ではある。 
 ただし、ハクアにしか使えないほど、高度な技術である事を除けばだが。だがそうだとしても、その有用性と考えは、そんな事を気にしない龍族にとっては面白い思考だった。

「それに驚くのはまだ早いですよ」

 テアの言葉に続いて映像から放たれた声に思わず映像に視線を戻す。するとそこには驚きの光景が広がっていた。

「「「えっ? えぇーーー!?」」」

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