ゴブリンから頑張る神の箱庭~最弱からの成り上がり~

リーズン

バカだなぁ。ユエは

「それにしても、ハクアがあんな風に言うのは少し意外だったの」

「ん?」

「そうだな。お前ならあのままブチ切れると妾も思っていた」

「ああ、まぁ弱いの本当の事だからね」

トリスの言葉にそう答えると、何故か全員がびっくりした顔をする。

何をそんなに驚いてるんだろう?

「だってそうでしょ? ユエだけじゃなくて私もこの里の中では下から数えた方が早い。というかぶっちぎりで最下位なんだから」

そもそも私に至っては、下手したらその内らユエ達にもステータス抜かれそうでビクビクしてるくらいだし。

私は突発的なイベントでレベルが上がったりするが、基本は訓練と研究などで一日が終わってる。
だがユエ達は真面目に依頼をこなしているので、実はレベルが順調に上がっていたりするのだ。
しかも聞くところによると、私の配下になった皆は何気に成長ボーナスがついているのだとか。

ユエ達にまでぞんざいに扱われ始めたら私も泣くぞ。

「いや、そりゃそうなんすけど」

「なんでそんなに歯切れ悪いの?」

「なんか納得いかないな」

「だからなんで!?」

「あるじ……」

「ユエ!? 大丈夫なの?」

皆で話していると隣りの部屋からユエがやって来た。その姿は大分消耗しているようだが、後ろにいたテアに目を向けると、静かに頷くので多分大丈夫なのだろう。

「あるじ……あるじ……ごめっ……ごめん……なさい。ごめんなさい」

私の顔を見るなり縋り付き泣きじゃくるユエ。

「どうしたの? 何をそんな」

泣きじゃくるユエになるべく優しく声をかける。

するとユエは嗚咽を漏らしながら、自分が今何故泣いているのかを話し始めた。

「だって、ひっく……だって、ワチ、、何も出来なかった。せっかくあるじに力を貰ったのに、こんなにいっぱい助けて貰ってるのに、結局何も出来なかった。ごめ、ごめんなさい。ごめんなさい。約立たずでごめんなさい」

ああ、本当にこの子は。

「バカだなぁ。ユエは」

私の言葉を不思議そうな顔をして聞くユエの頭を撫でながら、伝わればいいと、少しでも楽になればいいと思いを込める。

「ユエは自分がどれだけ凄いのかわかってないんだよ」

「凄い? ワチが? でも、ワチ、何も」

「うんん。違うよ」

首を振り、ユエの言葉を明確に否定する。

「確かに今回、ユエは何も出来なくて死にかけた。でも、ユエはほんの少し前までなんの力も持たないただのゴブリンだったんだ」

皆は黙って私の言葉を聞く。 

「そんなユエが例え殺す気がなかったとはいえ、ドラゴンを相手にしてこうして生きてる。それは本当に凄い事なんだよ?」

これは本心だ。

ただのゴブリンがドラゴンを相手にして生き残る。これがどれ程の偉業か。

殺す気がなかったとしても簡単に死んでしまう。
それほどの力の差がゴブリンとドラゴンには存在する。それは少し強くなった今でも変わらないのだ。でも、それでもユエはこうして生き残った。
そこに私の存在があったとしても、生き残ったことには変わりはないのだ。

「だから、ユエは駄目なんかじゃない。謝る必要もなければ、約立たずでもないんだよ」

「でも、あるじは」

「私でも同じだよ。正攻法で正面からやれば私も勝てない。だから考えて、色んな力を使うんだ。だからさ、それでもまだ悔しいと思うなら、なんとかしたいと涙を流すなら、一緒に強くなろう」

きっとユエならちゃんと強くなれるから。

「泣かなくても良いように、自分も大切な誰かもちゃんと守れるように強くなろう。私も弱っちいけど、一緒に頑張るからさ」

「うん……うん。頑張る。ワチも頑張る! あるじの役に立てるようにっ、ひっく、あるじを助けられるようにがんばるぅぅ」

「うん。期待してる。私もユエに恥ずかしくないように頑張るよ」

「あるじ、あるじぃ……」

ユエはその後も泣き続け、やがて泣き疲れたのか嗚咽の代わりに寝息が聞こえてきた。

「寝たのか?」

「うん。黙って聞いててくれて皆もありがと」

「ずずぅっ。気にしなくていいっすよ」

「うん。ユエもハクアも仲間なの。グズっ」

何やら琴線に触れたようだ。

眠りに落ちたユエをベッドに連れていき、よく眠れるように薬を飲ませる。

さて、これで朝までグッスリ眠れるだろう。

「ハクア。どこに行くんっすか?」

ユエを寝かせた後、ユエのそばにヌイグルミを置いて、部屋から出て行こうとする私をシーナが呼び止める。

「ちょっとね。頭冷やしに行ってくるよ」

「わしも」

「いや、一人でいい」

「しかし!」

「ごめんね。でも一人で大丈夫だよ」

「白亜さん。ユエの事は任せて下さい。でも、目が覚めるまでには帰ってきてあげて下さいね」

「うん。朝までには戻るよ」

私はそう皆に言い残して一人外へと出て行った。
▼▼▼▼▼▼▼▼
「くっはぁ。ちょろい仕事だったぜ」

深夜、家路につきながら多少ふらつく足取りで歩く男がいる。

浅黒い肌に隆起する筋肉、髪の短い茶髪のその男は、アカルフェルの取り巻きの一体である地竜のヤルドーザだ。

ヤルドーザは一仕事を終え、その働きからアカルフェルに酒を振る舞われ帰路に就いている最中だ。

思い出すのは昼間の事だ。

アカルフェルに無謀にも喧嘩を売った白い小娘。
龍神や龍王に庇護される気に食わない小娘の仲間を、アカルフェルの命令で痛め付けた時の事。

直接的に白い小娘に手を出さず、周りの仲間を狙うという回りくどいもの、他の奴は嫌がったがヤルドーザは一向に構わなかった。

むしろそんな事でアカルフェルからの評価が上がるのは、美味すぎる仕事だったとすら思う。

「ククッ、しかしあれは傑作だった」

ユエを痛め付けた時の事をより鮮明に思い出し、思わず暗い笑みが零れる。

ヤルドーザは女を痛めつける事が何よりも好きなのだ。

ヤルドーザがアカルフェルに協力する理由もまた、それが理由だ。

アカルフェルに協力すれば、他種族を従える時に歯向かう者は皆、叩き潰せる。
そして、同じく龍王の候補であるムニを自分のモノにし、叩き潰したあとに支配下に置く、それがヤルドーザが協力する理由だ。

特に、最後まで歯向かい向かって来たユエは、ヤルドーザの嗜好を満たす相手だった。
涙を流し、ボロボロになりながらも最後まで必死に抵抗しようとしたユエを、力任せに叩き潰したあの時は最高に面白かった。

そんな事を考えながら住処に帰るヤルドーザだが、扉に手を掛けた瞬間、強烈な違和感に襲われた。

来たか。

だがその瞬間、ヤルドーザはニヤリと笑う。

何故ならヤルドーザはその正体に心当たりがあったからだ。

平成を装っていたが、自分を見詰めるその瞳に怒りを宿したその瞳を見て、ヤルドーザはこうしてハクアが自分を襲撃しに来る事を予想していた。

ハクアの事はアカルフェルが殺るから手を出すなと言っていたが、相手が自分から来るのならその限りではない。

機会があればあの小綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしたい。

 そう思っていたヤルドーザにとってはそれは心躍る展開であった。

さあ、それじゃあ楽しませてもらおうか。

ヤルドーザは小さな声でそう呟き扉を開けた。

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